「大統領暗殺未遂事件」を扱った作品がアメリカでベストセラー-ブックレビュー from NY【第2回】
まず目に付くのは、大統領をテーマにした作品が3冊を占めていることだ。アメリカ人にとって、大統領選挙がどれだけ大きな関心事であるか、大統領選挙イヤーがどれほど特別かをわかってもらえるのではないだろうか。
さらに注目すべきは、話題の共和党大統領指名選候補、ドナルド・トランプ氏の本が9位に入っていることだろう。個人的にはこの傾向を非常に危険視している。なぜなら、彼は今のところ、ブルーカラーの大衆を扇動する発言が多く、具体的ポリシーを示し、詳しく論じていないからだ。大衆が叫んでいること、大衆が怒っていることをそのまま「偉大な人物がしゃべる」ような調子で、英雄の演説のようにしゃべり、大衆を扇動している。
メディアもトランプ氏を頻繁に取り上げ、直接的、間接的に応援する形となっていることも好ましくない。大富豪として知られるトランプ氏だが、これまで使った自分の金はほんの少額に過ぎず、メディアが勝手に騒いで話題と支持率に貢献してしまっている。
裏を返せば、今回の大統領選挙は、それほどまでに大衆が行き詰った社会環境で行われているということでもある。
筆者はアメリカに41年住んで、ちょうどベトナム戦争が終わるタイミングから、米ソ冷戦、湾岸戦争、9.11テロも体験してきた。もちろん経済不況も何度もあったが、こんな政治状況は見たことがない。ワシントンの政治家に対する不満、不審、怒り、絶望などがここにきて一気に爆発したように感じている。
確かに、最近のワシントンの政治家は党の争い、政略に明け暮れているように映る。その責任を、「じっとして何もしないオバマ」と「抗争のための抗争に日夜、励んでいる議会」が負うべきなのも当然だ。
つまり、アメリカは国民の困窮にも国家の危機にも動かなくなっている。この大きなジレンマのなかで、救世主を装って登場したのがトランプ氏というわけだ。いや、大衆がそのような人物を自ら作り上げているのではないか、と思う。それをメディが増幅する。かくして、大衆が万能と期待する架空の人物像が作られてしまう。ポピュリズムとメディアが迎合すると国民は冷静な判断力を失ってしまう。オバマ大統領もその代表的人物である。
筆者は、この現代を「ドン・キホーテ時代」と名付けようと思う。
トランプ氏は時代の徒花だと感じるが、しかし、こういう人物が登場するのは、やや逆説的だが良いチャンスかもしれない。よどんだ川の流れを一気に流す効果があるかもしれないからだ。筆者はそれを期待している。ワシントンの政治をトランプ氏が引っ掻き回しているのであるが、どこまでそれが続くか。トランプ支持の人々でさえも半信半疑なのである。筆者は、トランプ氏がその役割をある程度果たせば、役割は終わると思う。
どんな時代でも、またどの国でも、世の中を変えるのは、最後は大衆の力なのだ。