「大統領暗殺未遂事件」を扱った作品がアメリカでベストセラー-ブックレビュー from NY【第2回】

暗殺未遂事件から2か月後の4月28日、レーガンは下院で演説、大統領健在をアピールした。以後、大統領1期目の任期終了までにレーガンは国内経済不況を脱して大きな成果をあげたが、対外的にはヨーロッパにおけるソ連の脅威に厳しく対処したため、対ソの緊張はより高まり、グレナダ侵攻では長年の友好国だった英国との関係を悪化させた。そして、レバノンでのアメリカに対するテロの拡大が深刻化していたなか、レーガンは2期目の大統領選を迎えた。

1984年の大統領選挙は、レーガンが民主党候補のウォルター・モンデールに圧勝し、大統領に再選された。大統領2期目には、深刻な政治スキャンダル《イラン・コントラ事件》が起こったが、大統領の責任問題には発展せず、レーガンは冷戦終結に力を注いだ。ソ連では政権はブレジネフからゴルバチョフに移り、1989年1月、レーガンが大統領職を去る時にはコミュニズムはすっかり弱体化していた。その10か月後、冷戦の象徴であった《ベルリンの壁》は崩壊した。

国民的人気を誇ったレーガンの8年の任期が、いかに激動の時代だったかが手に取るようにわかる。その象徴のような出来事が、暗殺未遂事件だったのである。

オライリーは、レーガンの大統領としての公的な活動を描きながら、随所で暗殺未遂事件以後の大統領の変化を述べている。ナンシー夫人が大統領のスケジュール管理やホワイトハウスの人事に決定権を持つようになったこと、そしてレーガンのメンタル面での衰退である。この本によれば、ホワイトハウスのドナルド・リーガン首席補佐官やその他何人かの閣僚は、大統領夫人の意思によって更迭された。1987年3月1日、新任のハワード・ベーカー首席補佐官はホワイトハウス職員、ジム・キャノンから、大統領が心身の衰退のため職務遂行不能の可能性があることを示唆する報告書を受け取った。報告に基づきベーカー首席補佐官を含むホワイトハウスの上級幹部4人は、3月2日の会議中、大統領の挙動を綿密に観察した。大統領に対して《米国憲法修正第25条4節:大統領の職務不能による自発的ではない引退》の適用の可能性を検討するためである。コンディションの《良い日》と《悪い日》の落差が激しいといわれていたレーガンだが、たまたまその日は上機嫌で、明らかに《良い日》だった。結局「ロナルド・レーガンはテストに合格し(注2)」憲法修正第25条が発動されることはなかった。

最後にオライリーは、2015年“Journal of Alzheimer’s Disease”に発表された、レーガン大統領のプレス・カンファレンスにおけるスピーチを研究した論文に触れている。それによれば、8年間の大統領職の間にレーガンのスピーチは、①言葉の繰り返しが多くなってきて、②”it”や “they”を使うことが多くなり、③オリジナルな言葉の使用が減ってきた。また、トラウマと麻酔の使用が認知症を早めた可能性があり、特に1981年の暗殺未遂事件がレーガンの衰えに重要は役割を果たした可能性があるとされている。

レーガン大統領は20世紀におけるもっとも偉大な政治家の一人であり、すでに複数の伝記が出版され、その他多数の本や記事の題材にもなっている。また、暗殺未遂事件関係者や当時のホワイトハウス関係者が多数生存している状況で、あえて著者はレーガン大統領の暗殺未遂事件を「キリング」シリーズ第5弾のテーマに選んだ。発売直後からベストセラー入りする半面、本書に対するレーガン大統領の元側近や伝記作家たちからの厳しい批判も出ている。

レーガンの伝記を書いているクレイグ・シャーリーを含む4人の著者(注3)が連名でワシントン・ポストに発表した2015年10月16日の記事は、「『キリング・レーガン』は粗悪な情報源と古ぼけた概念に固執している(注4)と厳しく批判した。特に「キリング・レーガン」の目玉のひとつ、1987年の憲法修正第25条の適用が検討された部分に関しては、根拠となったジム・キャノンの報告書の信頼性そのものに疑問を呈している。

ともあれ2015年9月22日に出版されたこの作品は発売当初から話題になり、14週続けてニューヨーク・タイムズのベストセラー「ハードカバー・ノンフィクション部門」で3週続けて1位(注5)を獲得した。“National Geographic channel”によるケーブルテレビ映画化も出版直後に決まった。

読後感としては、さすがテレビニュースショーの人気アンカーマンが書いた本である。センセーショナルかつドラマティックで、読者を魅了する。が、ノンフィクションとしては情報の扱い方などに疑問が残ることも確かだ。

(注2)“Ronald Reagan has passed a test.”

(注3) Craig Shirley; Kiron K. Skinner; Paul Kengor; Steven F. Hayward

(注4) “Bad sources and old misconceptions persist in ‘Killing Reagan’.”

(注5)2016年1月1日時点。

『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』
『沖縄現代史』