ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第134回

「ハクマン」第134回ウンコ度急上昇中のXに
瞼が高速痙攣するような
大便ワードが挙がっていた。

Xは基本的に汚く、死体もウンコもガンガン流れて来るが、たまに有益情報や美しい話も流れてくるガンジス川である。

そう思っていたが、イーロソに買収されたあたりからウンコ度が急上昇し、パリ市長に「世界規模の下水道」と捨て台詞を吐かれてアカウントを消されたりもした。

そんなエブリデイクソ川に今でも1日62時間浸かり続けている、肥溜め界のハシビロコウと呼ばれる私だが、現在のXはそんな私でも瞼が高速痙攣するような大便ワードがトレンドに挙がってくることがある。

最近定期的に挙がってくるのが「子持ち様」である。

類似語として「妊婦様」というのもあるが、とにかく子持ちは産むと言っては産休を取り、育てると言っては育休を取り、子供が37.1度をたたき出したと言っては早退し、俺たち子持たない様方に頻繁に迷惑をかけて平然としている害悪としてドブ川Xで叩かれがちな存在なのだ。

確かに、育休中に「みんな俺様の新生児を見たがっている」という謎の確信の元、勤務時間中に子連れ参上して、社員を3時間「かわいいbot」にしようとする業務執行妨害をしてくる子持ち様もいるが、それは少数派であり、そういうお披露目に文句を言う人間は全く見せなくても文句を言ったりする。

産休育休を取る人間はもちろん悪くない。しかしそれに文句を言う人間が必ずしもかつて自分が妊婦の中に10か月も籠城し、股間を破壊して登場したからこそ今がある、ということを忘れた哀れな肉塊というわけではない。

自然とそういうグラム38円の発想になってしまう者もいるが、多くの人間は「余裕がない」ことにより人に優しくできなくなっている場合が多い。

試しに私に2兆円与えてみて欲しい。一切の愚痴をやめ、イーロンに対しても「まあまあイーちゃんもいろいろ大変なんだよ」と、仲裁側に回り、Xの代わりに1日62時間教会で平和への祈りを捧げる生活になるだろう。

つまり、1人休んだぐらいで余裕がなくなるような会社の体制に問題があるといえる。

しかし1人消えても気づかないレベルの「余裕のある会社」というのは「道徳的反社」ぐらいレアであり、もはや矛盾した存在と言える。

それどころか社会全体から余裕が失われる一方であり、特に日本は「他者に迷惑をかけてはいけない」という思想が強い国である。今後も迷惑をかけたかけられたの諍いは続き、迷惑をかけられたと感じた側はかけた側を「ズルい」として、子持ちなど特定の属性を持つ人がやり玉に挙げられてしまう事象はつきないだろう。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

田口幹人「読書の時間 ─未来読書研究所日記─」第19回
採れたて本!【デビュー#18】