ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第151回

「ハクマン」第151回
私はデビュー以来
15年間、至るところで
担当への殺意を公言してきた。

私は言葉遣いが乱暴である。

きっぷのいい海賊の女親分みたいという意味ではなく、年の割に喋り方が幼稚な上に服装も中学生みたい、という意味である。

しかも私が主に日本語を学んだのは日本ではなく「インターネット」という世界一気持ちと治安が悪い国なのだ。

  

インターネット人が、ネットの外にいる現地日本人に対しインターネット語で話しかけると「日本語を話している日本人なのに話が全く通じない」という恐怖を相手に与え「気持ち悪い」という端的な印象を抱かれるのだ。

だが、自分が気持ち悪がられるぐらいならいい。特に私は「全然喋らない」という理由でも不気味がられがちなので、動の気持ち悪さか静のキモさかの違いでしかない。

しかし、ノリを間違ったことにより、相手を傷つけたり、それによって立場を失うことは、インターネット人以外の間でも増えてきている。

  

「ノリを間違う」というのは、面白いと思って言ったことが、面白くないどころか、人に向かって言ってはいけないことだったというパターンだ。

ここ数年、コンプラ意識が急速に高まり、言葉の良し悪しも急激に変わってきており、去年の流行語が今年の放送禁止用語になっているレベルなのだ。

私のように物を書いている人間はもちろん、SNSなどで発信をする人間全員が一歩間違えると、爆笑不適切ギャグをかまして、アカウントがドッカンドッカンしてしまう時代になってきている。

  

面白いと思って人が傷つくようなことを言うなんて、生粋のいじめっ子気質の人間がやることであり、自分はそんなことで笑いをとったり、笑ったりもしないと思うかもしれないが、お笑いの基本である「ボケとツッコミ」の構造がすでにそれなのだ。

ボケとツッコミとは、ボケの珍妙な言動に対し「あなたは何をバカなことを言っているんですか」という否定や苦言を呈することで成立する笑いのことだ。

芸人などのプロはそれが仕事だからいい、ツッコミに毎回傷ついて裏アカにポエムを書くボケ、というのも一周回って面白いが、性質的にボケに向いてないと思う。

しかしプロの間でもツッコミの語彙は変化しており、最近はブスやブサイクはもちろん、デブやハゲというツッコミ方も減ってきており「このハゲ!」とツッコまれるのはハゲてない人だけという、概念ツッコミが起こりつつある。

この調子でいくと、ツッコミとはいえ人様を小突きながらバカやアホなどの暴言を吐くなどとんでもないという世界観になるだろう。

その世界観の中で新しい笑いを作り出すのがプロなのだが「ポメラニアンかよ!」など、否定も肯定もなく、ひたすら事実のみを叫ぶ三村ツッコミは時代を先取りしていたと思う。

素人同士の日常会話でも冗談は言うし、おのずとボケとツッコミも発生する。しかし素人な上にアドリブなため、上手い言葉が思い浮かばず、ツッコミというより特攻になってしまい、相手は傷つくし、自分の信用は爆散という、誰も得しない事故は起こり得るのである。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

◎編集者コラム◎ 『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』福徳秀介
採れたて本!【海外ミステリ#27】