採れたて本!【海外ミステリ#43】

採れたて本!【海外ミステリ#43】

 2025年に刊行されたリチャード・デミング『私立探偵マニー・ムーン』は「このミステリーがすごい! 2026年版」海外編1位を獲得した。1940年代のパルプ雑誌等で活躍し、エラリー・クイーン・チームのオリジナル作品も手掛けたことのある作者だが、まさかこれほどの脚光を浴びるとは誰が想像しただろう。かくいう私も「このミス」で『私立探偵マニー・ムーン』に投票した一人だが、その理由は、古き良きタフガイ探偵を描いたハードボイルドでありながら、異常なまでに密室/不可能犯罪のシチュエーションにこだわり、ハードボイルドと謎解きを高いレベルで結びつける筆致に惹きつけられたからだ。名探偵小説の「お約束」を遵守しながらギャングと撃ち合う……折り目正しさと奔放さという一見相矛盾する魅力が見事に調和しているのだ。古き良きミステリーだが、新しかった。

『私立探偵マニー・ムーン』は日本独自に編纂された中短編集だが、このシリーズは長編も四作書かれている。そのうちの一作が本書『絞首台のある庭 私立探偵マニー・ムーン』だ。タイトルは作中でも引用されるG・K・チェスタトンの詩「自殺のバラード」の一節から採られている。

 ある日マニーのもとを訪れたのは、若く美しい依頼人、グレース。富豪の父を事故で亡くし、莫大な遺産が彼女と彼女の兄に遺される予定だが、兄は失踪し、グレースの身には不可解な事故が続いている。自分は命を狙われているのではないか? マニーはグレースの婚約者、アーノルドを含めた三人で、一族の屋敷に赴くが、やがてある人物の死体を発見し……。

 グレースは遺産を相続する予定だが、その遺産の額も覚えていないほどのお嬢さまである。屋敷に集まるのはまさに華麗なる一族。誰も彼も遺産目当ての動機がありそうな疑わしい人物だらけである。このように「お屋敷フーダニット」の骨格を備えた小説なのだが、グレースの訪問を受けた直後、二人組のギャングがマニーと接触して大立ち回り。ここでも、ギャング小説とフーダニットという一見奇妙な取り合わせを見せてくれる。

 タフでありながら皮肉なユーモアも忘れないマニーの語りは今回も冴えわたっている。屋敷を訪れた夜のグレースとアーノルドとのやり取りには笑わされてしまった。パキッと歯切れのいい田口俊樹の訳文はデミングの世界にぴったりだ。

 マニーは作中で〝おれは煙草たばこの吸い殻や灰から無限の推理を働かせるようなタイプじゃない〟と自分を評価しているが、本書の犯人の割り出し方は、まさにこの作品世界ならではの論理であり、実に切れ味が良い。待望のマニー長編を読めたばかりだというのに、もう次の作品が読みたい。デミング発掘、まだまだ続くといいのだが。

絞首台のある庭 私立探偵マニー・ムーン
『絞首台のある庭 私立探偵マニー・ムーン

リチャード・デミング 訳/田口俊樹
新潮文庫

評者=阿津川辰海 

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