ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第102回
タイミングが
なにより大事である
そろそろ催促が来るだろう、と思いながら今この原稿を書いている。
いつもは来てから書いているので今回は著名人が死んだときのウィキペディアンぐらい仕事が早い。
毎回催促を受けて「今からやろうと思ってたのに、完全にやる気なくしたわ」と部屋が汚い中学生ムーブをする前に書けば良いのではないか、と思うかもしれない。
しかしこの仕事は余裕をもって始めることが必ず成果につながるとは限らない。
スポーツですらがむしゃらに練習する時代は終わった。
ただ長時間練習すれば上手くなるというわけでもなく、水禁止やうさぎ飛びはただのプレイであることが判明した。
原稿も締め切りに余裕がある段階で描き始めてしまうと「別に今日中に終わらなくても良い」という慢心が常に心にあるため、今日中に終わらない可能性が高い。
対して「今日中に出さないと代わりに新人の代原が載り、そっちの方がバズる」という状況であれば今日中に終わる。どちらが効率的かは火を見るより明らかだ。
コツコツとダラダラは全く違う。
焦りもなく、かと言って気乗りもせずダラダラ描いた原稿など、尿漏れを一滴ずつ集めて作った1回分の尿にすぎず、ドモホルソリソクルにはならない。
そんなものは完成するころには腐っているし、最悪1ページ目と最終ページでキャラの顔が変わってしまっている。
プロならば自分が最もパフォーマンスを出せる時期を見極め、駿馬の如き放尿でフレッシュな原稿を上げていくべきだろう。
ここで重要になるのが担当の「催促」である。
競馬でも騎手が馬に鞭を入れることがあるが、むやみに叩けば良いというわけでもないし、むしろ動物を使った競技に対する批判が強くなるだけだ。
漫画も漫画家を拉致監禁、手が止まるたびに背中に般若心経をカッターで彫っていくのが一番手っ取り早いし、倫理的にも馬に鞭を入れるよりは全然セーフだ。
しかし、人間はお馬さんよりメンタルもフィジカルも脆弱なため、そのやり方は消耗が早く「連載」という形態にはあまり向いていない。
よってここぞという時、催促という鞭を入れ、作家をゴールまで導いていかなければならない。
だがそのタイミングや鞭の入れ方が悪いと、作家は却って失速し、最悪原稿より「担当の暴言を告発する Twitter 漫画を描き始める」という、騎手もろとも客席に突っ込む自爆テロを起こしかねない。
慎重を期するなら「締め切りの前」に「そろそろ締め切りですが進捗いかがでしょうか」と探りの意味で催促した方が良いだろう。
しかし、締め切り前の催促は作家の今から宿題をやろうとしていた中学生心を刺激し、反抗期に突入させてしまう場合がある。
また本当に原稿をやっている時だと「急いでいるとこをさらに急かされる」という状況になり「がんばっている人にまだがんばれって言うんだ?」という変なキレかたをされる恐れがある。