中村竜太郎著『スクープ!週刊文春エース記者の取材メモ』が赤裸々に語る取材の舞台裏!伊藤和弘が解説!
世の中を驚かせるスクープ記事を、次々に放ってきた「週刊文春」。20年に渡り、エース記者として様々なスクープをモノにしてきた著者が、舞台裏を赤裸々に明かします。リアルな週刊誌の現場が垣間見られる一冊を、伊藤和弘が解説します。
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読みごたえ、アリ!
スクープはこうして生まれる 「週刊誌の記事はいい加減」と 思っているかたは必読!
『スクープ! 週刊文春エース記者の取材メモ 』
中村竜太郎・文藝春秋・1296円
2016年9月に刊行。次々とスクープを飛ばして注目される「週刊文春」で、知る人ぞ知る”エース記者”として20年にわたって活躍した著者が、その舞台裏を赤裸々に語る。
〈週刊誌記者はスクープを追う犬だ。権力者の不正をかぎ分け、スキャンダルを暴く。ときには牙をむいて吠え、ときには石もて追われ悲鳴をあげる。闇夜を走り、駆け抜けて、また走る。疲れても、傷を負っても、力尽きるまで走り続けるのだ。けれど、こんなに面白い仕事は、ない〉
新聞やテレビが報じない衝撃的なスクープを次々と放ち、世間の注目を集めている「週刊文春」。どうしてスクープを連発することができるのか? 同誌の“エース記者”として、20年にわたって活躍してきた中村竜太郎氏が知られざる舞台裏を公開した!
著者が同誌の専属記者を務めたのは1995年から2014年まで。その最初の年に「地下鉄サリン事件」が起こり、2001年には「アメリカ同時多発テロ事件」でニューヨークに飛んだ。2004年の「NHK紅白プロデューサー巨額横領事件」、2013年の「シャブ&飛鳥事件」、2014年の「高倉健の養女発見」など、20年の間に大きなスクープをいくつも掘り当てている。
同じ記者でも、新聞記者に比べると週刊誌記者はどこかヤクザなにおいがつきまとう。いまだに「週刊誌の記事はいい加減」というイメージを持っている人も多いかもしれない。だが本書を読むと、決してそんなにいい加減な仕事ではないことがわかるだろう。
うかつな記事を書けば、すぐに名誉毀損などで訴えられる時代。芸能人のスキャンダルでも、ちょっと噂を聞いただけで記事にするようなことは絶対にしない。外部の人間なら「そこまで?」と思うほど慎重に取材を重ね、確実な裏付けを取っていく。最終的には会長が辞任するほどの問題に発展したNHKの巨額横領事件のときなど、記事にすることが決まるまで、著者は水面下で半年間も取材を続けていたという。もちろん毎週締め切りがある日常の激務をこなしながら、だ。
才能と人脈だけでスクープは取れない
スクープの秘密は〈日頃築き上げたネットワークから得る情報がすべてと言っても過言ではない〉と著者は書く。実際、「シャブ&飛鳥事件」や「高倉健の養女発見」などは、一般人には縁がない裏社会や芸能界の人脈あってこそのものだったらしい。しかし、それはきっかけにすぎない。その“スクープの種”を育て、誌面で大輪の花を咲かせるにはその後の地道な取材活動が欠かせない。
水泳の北島康介選手の父・富士男さんにインタビューしたときは、炎天下の路上で何時間も待ち続けた。駅のホームで起きた殺人事件の目撃者を探すため、始発から終電まで一日中、改札で乗降客に声をかけ続けた。週刊誌の記者がこれほど誠実に、真剣に仕事に取り組んでいると知って驚く読者も多いだろう。
エース記者として名を馳せた著者には、確かにスクープを取る才能があったに違いない。だが、スクープは才能だけでは取れない。1つの事実を確認するため、ときには身の危険も顧みず、膨大な時間と労力を費やす必要がある。それは記者に限らず、あらゆる仕事に通じることでもあるだろう。
私も駆け出しの数年間、本誌で記者をしていた時代がある。事件班の記者として、大きな殺人事件が起きるたびに全国を飛び回った。現場周辺で聞き込みをしても、親切に応じてくれる人など一握り。被害者遺族の家に押しかけ、怒鳴られたり泣き叫ばれたりしたことも数え切れない。著者と違ってスクープとは無縁の三流記者に過ぎなかったが、愚直に歩き回り、徹夜して原稿を書いた。あのハードだった日々が、今の自分を支えているようにも思う。
中村竜太郎
1964年生まれ。会社員を経て、’95年から「週刊文春」編集部で勤務。政治から芸能まで幅広い分野を担当し、数々のスクープを飛ばす。「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」では歴代最多となる3回の大賞受賞。2014年、ジャーナリストとして独立。『みんなのニュース』(フジテレビ)など、テレビ出演も多い。
(伊藤和弘/フリーライター。著書に『男こそアンチエイジング』など。)
(女性セブン 2016年12月15日号より)
初出:P+D MAGAZINE(2017/01/17)