【西尾維新の名言10選】たくみな言葉遊びがくせになる
個性豊かなキャラクターによる独特な世界観が人気の作家、西尾維新。ユニークでありながら、うなずいてしまうようなどこか説得力のある名言をご紹介します。
2002年にデビューして以来、「戯言シリーズ」、「<物語>シリーズ」をはじめとするヒット作を次々と発表している作家、西尾維新。 近年では作品のアニメ化、ドラマ化、ゲーム化などメディアミックスが行われているほか、漫画の原作を手がけるなど、西尾維新の活躍はとどまることをしりません。
なぜ、西尾維新はそれほどまでに人の心を掴むのか。それはなんといっても、個性豊かなキャラクターたちが繰り出す言葉にあります。 時に読者を納得させてしまうほどのメッセージがあったかと思えば、クスッと笑ってしまう迷言まで。西尾維新による数多くの表現は、唯一無二といえるでしょう。 今回はそんな言葉の魔術師、西尾維新による名言の数々をご紹介します!
西尾維新のデビューを飾った作品、「戯言シリーズ」からの名言。
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【名言1】 “君の意見は完全に間違っているという点に目を瞑れば概ね正解だ” |
西尾維新は、『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』で第23回メフィスト賞を受賞し、華々しいデビューを果たしました。主人公、“ぼく”の独特な語り口や次々と登場するアクの強いキャラクターたちが人気を博し、西尾維新の人気ぶりを決定づけるようなシリーズとなっています。
どこにでもいるような大学生 “ぼく”は、友人である玖渚友の付き添いで財閥令嬢の住まう「鴉の濡れ羽島」を訪れます。そこに集まっていたのは画家や料理人など、さまざまな分野での天才たち。やがてひとりが無残な死体となって発見されたことをきっかけに、“ぼく”は犯人を探そうとするのでした。
天才ばかりの環境にただ付き添いとしてやってきた“ぼく”もかつては、世界最高峰の頭脳機関「ER3プログラム」に在籍していたものの、親友の死をきっかけに離れてしまった過去を持っています。工学において天才的な才能を持つ友人、玖渚に羨望の感情を抱きながらも、それをはっきり表に出そうとはしません。むしろどこか冷めたような態度をとり、あくまでも傍観者であろうとするのです。
今風の言葉で表現するならば、まさに「中二病」の“ぼく”ですが、そんな厄介な性格も西尾維新の言葉遊びにかかればこの通り。「間違っている」と否定することを、ここまで遠回しにウィットに富んだ言い方で表現できるのも西尾維新ならではでしょう。
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【名言2】 “無能のふりしてあんたにどんな得があるの?自虐ってそんなに気持ちいい?” |
「戯言シリーズ」第4作目、『サイコロジカル』において、“ぼく”は玖渚のかつての仲間、兎吊木垓輔が囚われた研究所へ向かうことに。玖渚の側にいることが当たり前になりつつあった“ぼく”は、兎吊木に「本当は玖渚のことが嫌いなんじゃないか?」と尋ねられます。
シリーズ1作目でも“ぼく”は才能を持つ玖渚から頼りにされながらも、どこか冷めた態度を取っていました。内心で才能を羨みながらも、ときに道化を演じていたのです。 そんな“ぼく”の態度を見透かしたのは、保護者としてともに研究所に向かう役目の鈴無音々。“ぼく”は自分を「欠陥商品」、周りをそうではないものとして扱うことで安心しようとしていました。それを「気に食わない」と諭した言葉は、“ぼく”が考えを改めるほどの大きなものでした。
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【名言3】 “わたしが傷つくことで悲しむ人がいるのならば、わたしは鋼鉄の精神で、あらゆる傷を拒絶します。好きな人が悲しまないためになら──わたしは、絶対に傷つかない” |
「戯言シリーズ」最終作、『ネコソギラジカル』からはこんな名言をご紹介しましょう。“ぼく”と同じアパートに住む少女、闇口崩子はその可憐さから、アパートの住人をはじめ、いたるところで愛されているキャラクターです。しかしその裏の顔は、名の知れた暗殺者一家の一員でした。家業に反発して家を出た崩子は“ぼく”に想いを寄せ、守ることを誓うのです。
崩子は誰かを傷つけるのではなく、自分が強くなることで好きな人を悲しみから救いたいと願うようになります。その決意の表れが「鋼鉄の精神」という力強い表現からもひしひしと伝わってきます。
こんな魔法少女がいたなんて! 『新本格魔法少女りすか』からの名言
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【名言4】 “出来すぎた子供は出来損ないの子と同じくらいに、嫌われるもんだぜ。生き延びるために必要なのは、テストで満点を取らない狡猾さなのさ” |
魔法がありふれたものとして存在する日本。ごく普通の少年、供犠創貴は「全ての人間を幸せにする」という夢を叶えるため、周囲の使える人間を“駒”と呼んで利用しています。その“駒”のひとり、水倉りすかは魔法が使える魔法少女。ふたりがりすかの父親を探す中で巻き込まれる戦いと冒険がこのシリーズでは描かれています。
「全ての人間を幸せにする」という創貴の夢は一見、子どもらしい無邪気なものに思えますが、りすかも「使える」人間として利用しようとする利己的なキャラクターです。どこか冷めた姿勢は「戯言シリーズ」の“ぼく”とも共通していますが、創貴は10歳であるため、子ども特有の純粋な残酷さを持っています。この名言は「優等生を装う」、創貴のずる賢い性格を見事に言い表したひとことでです。
青春と謎解きが持ち味の作品、『きみとぼくの壊れた世界』からの名言
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【名言5】 “問題を、困難を楽しめずに何が人生なものか、そんなことでは生きていけない。” |
禁じられた一線を今まさに踏み越えつつある兄妹、櫃内様刻と櫃内夜月。彼らと友人の迎槻箱彦、琴原りりすは学園内で起こった密室殺人事件に翻弄されていきます。様刻は保健室のひきこもり、病院坂黒猫とともに事件の真相を追うことに。
事件の探偵役を務める病院坂は冷静で理屈っぽい性格でありながらも、不安定なキャラクターです。「わからないなら死んだ方がまし」と、謎が解けない自分を責めて飛び降り自殺をはかろうとする病院坂を様刻は決死の覚悟で阻止します。病院坂にとってわからないことは苦痛でしかありませんが、「生きていくうえではその問題や困難でさえも楽しんでいかなければいけない。」と話す様刻。彼の言葉の通り、目の前の困難を楽しむことこそが、人生を楽しむことなのでしょう。
怪異と可憐な美少女たちに魅せられる、「<物語>シリーズ」の名言
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【名言6】 “銅四十グラム、亜鉛ニ十五グラム、ニッケル十五グラム、照れ隠し五グラムに悪意九十七キロで私の暴言は錬成されているわ。” |
2006年に刊行されて以来、西尾維新の代表作にもなった「<物語>シリーズ」。主人公、阿良々木暦が出会う少女たちにまつわる、怪異を題材とした物語です。
文化祭の準備をしていたある日、暦はクラスメイトである戦場ヶ原ひたぎの秘密を知ってしまいます。その秘密とは、彼女に体重と呼ばれるものがほとんど無いということ。秘密を他言しないようひたぎから脅される暦は、彼女を怪異から解放させようと決意するのでした。
後に恋人となる暦とひたぎですが、シリーズ1作目となる今作ではまだツンデレの“ツン”の部分が前面に出ている状態です。この他にも「あなたのような薄っぺらい存在のことなんて、全て完璧にお見通しなのよ」とまで暦に暴言を吐いているように、ひたぎはかなりの毒舌家です。それも、ただとげとげしいだけではなく、どこかユーモアを持った言葉の数々を暦にぶつけています。
それはひたぎが自身の性格を漫画「鋼の錬金術師」のセリフになぞらえて表現しているこの名言からもうかがえます。西尾維新にかかれば暴言もどこかおもしろおかしくなってしまうのです。
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【名言7】 “偽物のほうが圧倒的に価値がある。そこに本物になろうという意思があるだけ、偽物のほうが本物よりも本物だ。” |
暦のふたりの妹がメインキャラクターであるシリーズ2作目、『偽物語』。妹の月火は実は怪異そのものであり、無自覚のまま暦の妹を演じ続けていたという事実が明かされます。それまで暦が妹だと思っていた存在は、「月火」に限りなく近いものでありながら、本物ではありませんでした。
その点に目をつけ、「偽物であることは悪」という正義をもとに月火の命を狙う敵に対し、暦は「偽ることが悪いのなら、僕は悪いやつでいい」と話し、あくまでも月火は家族であることを主張します。たとえ偽物であっても、本物であろうとする月火の存在は暦にとって、かけがえのない家族だったのです。 この作品には、「本物とまったく同じ、区別もつかないような偽物ではどちらに価値があるのか」という議題をもとに、「偽物と本物の価値」について3人のキャラクターが語り合う場面があります。「本物にこそ価値がある」とする考え、「よくできた偽物と本物は同等」とする考えとは別に、このセリフは登場します。
本物は、本物である事実そのものが変わることはまずなく、本物であり続けることでしょう。一方で、この名言で西尾維新は「偽物は本物ではないという事実を受け入れながらも、本物よりも本物に近づこうとする点に価値がある」と伝えています。
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【名言8】 “友達はいらない。友達を作ると人間強度が下がるから” |
シリーズを通してさまざまな少女を怪異から救った暦ですが、当初は友達を作ろうともせず、暗い学園生活を送っていました。そこには「友達がいれば友達のことを気にしなければいけない。言ってみれば、弱点が増えること」という理由によるもの、そしてその背景には、かつて多数決によって、クラスで不正をはたらいた犯人を決めつけようとした出来事がありました。大多数によって間違いが「正義」に塗り替えられた瞬間を目の当たりにし、絶望した暦は、孤立を選びます。 悪を多数決で正義とすることに耐えられず、孤独に身を置いて自分の正義を貫こうと決めた暦。そこには犯人に仕立て上げられたクラスメイトを救ってあげられなかったことへの後悔もありました。
暦はたったひとりになろうとも、自分の正義を守ろうとした強いキャラクターといえるでしょう。しかし孤独を選んだ理由を、「人間強度」という言葉で“それっぽく”表現することでおかしみを持たせているのです。
「今日」しか持たない、忘却探偵の活躍が光る「忘却探偵シリーズ」の名言
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【名言9】 “私はお金の奴隷です。お金は神聖で素晴らしく、尊敬と愛に値する、眩しくも綺麗なものだと信じています。よって、汚いお金はびた一文として、いただけません” |
寝ると記憶がリセットされてしまう女性、掟上今日子。そんな特異体質から、機密性の高い事件を即日で解き明かす探偵としての活躍を「忘却探偵シリーズ」では描いています。 朝目覚めれば自分の名前すらも忘れてしまう彼女にとって、確かなものといえば、依頼を解決したことによる報酬しかありません。そんな彼女だからこそ、自分を証明してくれる唯一の指標、“お金”に絶対的な信頼を置くのも自然なことだといえるでしょう。
ある日、今日子は「ダイイングメッセージとして残された暗号文の謎を解く」という依頼を受けます。「報酬さえ払えばどんな事件でも解決し、事件に関わる情報は一切他言しない」今日子でしたが、その暗号に込められた本当の意味は「ダイイングメッセージにこだわる人物こそが、自らを殺した犯人だ」というもの。依頼人こそが犯人だと見抜いた今日子は、警部を呼び出して犯人の逮捕に協力します。
「報酬さえもらえれば守秘義務は守るはずだろう」と話す犯人に対し、今日子は「報酬はまだもらっていないから守秘義務はない。いずれにせよ、汚いお金は受け取れない」と返します。「報酬があればどんな事件でも解決し、守秘義務を守る」はずだった今日子は、報酬よりも探偵としてのプライドを守ろうとしたのです。自分の価値に値する報酬がすべてではない、真っ直ぐなまでの彼女の価値観が詰まった名言です。
人類最強の“請負人”の物語、「最強シリーズ」の名言
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【名言10】 “時間にはたかが金くらいの価値しかねーんだろ。時は人なりっつーなら、もっと大切にしてやってもいいけどな” |
最後の名言は「戯言シリーズ」の人気キャラクター、哀川潤を主役に置いた「最強シリーズ」からご紹介します。
「時は金なり」ということわざがありますが、それよりも大切なものは人だと、哀川は言います。お金とは違い、「時間」は誰にとっても平等だと考えると、その両者の価値はイコールになりません。それよりも生きていくうえで出会った人をかけがえのない時間のように大切にしてもいい、と西尾維新らしい言葉遊びで説いている、そんな名言です。
おわりに
西尾維新の作品には他の作家にはない、独特の言葉遊びが随所に見られます。ついついそのユニークさに目が行きがちですが、実はどれもが「そうかもしれない」と頷いてしまうほどの強いメッセージ性があることも確か。そんな西尾維新の作品から今後もどんな名言が登場するのか、期待しましょう。
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初出:P+D MAGAZINE(2017/04/20)