『檀流クッキング』をプロの手で再現!【夏メニュー編】

昭和を代表する文豪、檀一雄。文壇きっての料理好きであった檀のレシピコラムをまとめた『檀流クッキング』は、調理方法だけでなく、材料や料理にまつわる豆知識も豊富です。今回は、『檀流クッキング』をもとに料理家の大石亜子さんにご協力いただき、料理を再現しました。

皆さんは普段、料理をしていますか?「毎日お弁当を作っている」、「レシピサイトに投稿している」と日常的に料理をしている方もいれば、「学校の調理実習くらいしかやったことがない」、「面倒だから外食ばかり」という方もいるはず。

また、「たまには恋人に何か料理を作ってあげたい」、「節約のために、自炊を始めたい」という方もいるかもしれません。そんな方に、P+D MAGAZINE編集部からおすすめしたい本があります。

それは、1970年に発売された、檀一雄の『檀流クッキング』。産経新聞での158回にも及ぶ長期連載をまとめた作品は、今なお重版が行なわれており、料理好きの間ではバイブル的な存在にもなっています。

檀一雄といえば、『火宅の人』花筐はながたみで知られる昭和の文豪。しかし、檀は作家だけではなく、料理好きの一面を持っていたのです。あらゆる料理を作り、家族はもちろん客に振る舞うことも珍しくありませんでした。

世界のあちこちを旅したチチの料理は多彩でした。パエリヤ、アンコウ鍋、ボルシチ、肉チマキ、それまでは名前も知らなかった洋の東西の様々な料理に、私はチチの家の食卓で出合いました。世界には美味しいものがこんなに色々あるのだと驚きました。そして、美味しい料理は、お店に食べに行ったり買いに行ったりしなくても、作ろうと思えば、家庭の台所でもできるのだということを知りました。

『完本 檀流クッキング』 あとがきより

檀一雄の長男、檀太郎は父との料理の思い出を、こう語っています。調理方法だけでなく、材料や料理にまつわる豆知識も豊富な『檀流クッキング』はこれから料理を始めたい人にぴったりな1冊です。

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出典:http://amzn.asia/crrfusO

今回は、『檀流クッキング』未収録の料理も掲載した『完本 檀流クッキング』を参考に、料理家の大石亜子さんにご協力いただき、料理を再現しました。これを読めば、本を片手に調理したくなること間違いありません。

 

料理家が読む、『檀流クッキング』の魅力。

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大石亜子(おおいし あこ)

プロフィール
慶應義塾大学文学部卒。メーカー勤務を経て、退職後に専門学校へ通い調理師免許を取得。雑誌・リーフレットのレシピ開発、イベントでの調理等を担当するかたわら、世田谷の自宅にて少人数制の料理教室 casa piccolo(カーザピッコラ)を主宰。味や栄養はもちろん、彩りや盛り付けにも気を配った「目にもおいしいおうちごはん」を提案する。また、家庭科全般(料理、手芸、DIY、フラワーアレンジメント等)を通じて、心地のよいおうちづくりを目指している。

【著書】『簡単!さばレシピ』(ダイアプレス)、『およばれのときに作りたい とっておきの持ち寄りレシピ』(マイナビ)、『調理師あこの今日なにつくる?』(KADOKAWA)
【ブログ】「おうちで家庭科ラボラトリー ~料理と手しごと」

 
―― 『檀流クッキング』を実際に読んでみて、どんな印象を持ちましたか。

大石亜子氏(以下、大石):最近のレシピ本やレシピサイトといえば、メニュー名、材料、調理工程、写真が分かりやすく掲載されたものが中心です。一方、『檀流クッキング』は各メニューが、著者自身の思い出、食材に関する豆知識、初めて食べたときの感想などから始まり、その後、粋な文で綴られたレシピが続くというスタイルが新鮮で、とても面白く読みました。また、その文章の随所に料理や食材に対する敬意が読み取れるところや、使う食材や分量については適度なフレキシブルさがあって親しみやすいところにも魅力を感じました。

―― 食材が余ってしまった人や、いただいた食材の調理に悩む人に対し、「やってみるがよい」「〜を作りなさい」と提案するのも良いですね。

大石:『檀流クッキング』は手軽にできる料理を提案してくれるので、「わたしにもできるかも?」と思わせてくれる説得力があります。大まかな分量と、テンポの良い語り口調のレシピを読んでつくれば、あっという間に料理が完成するので、これぞまさに“男の料理”といった雰囲気です。

―― 分量が不明瞭である点により、調理が難しくなることはあるのでしょうか。

大石:たしかに、「○○グラム」や「大さじ○○杯」といった正確な分量が記載されていない箇所も多々あります。ただ、きっちり計って調理することも大事かもしれませんが、それによって必ずしも料理上手になれるわけではありません。文章を読んで想像力を働かせたり、分量にある程度の余白があることで、かえって自分好みの味付けにアレンジが可能になります。よって、料理が苦手な方にこそ、ぜひこの本を参考に料理に挑戦してみて欲しいと思います。

 

いよいよ調理!夏に食べたい2品

『檀流クッキング』を参考に、「オクラのおろし和え」と「タイ茶漬け」を調理。いずれも夏にぴったりな、さっぱりといただけるメニューです。

オクラのおろし和え

オクラを食べる時には、そのネバリが一番有難い。トロロと同じような、口中のヌルヌルを、青い野菜として口にできるのが嬉しいわけである。

オクラの魅力は「ネバリ」にあると説く檀。そして「オクラのおろし和え」は、「オクラが出始める頃からほとんど毎日愛好している」と語っていることからは、毎日でも食べたくなるヘビロテメニューだったことがうかがえます。使う食材も少なく、「もう1品欲しい」というときにすぐに調理できる手軽さも嬉しいポイントです。

オクラの身を、サッと塩煮して……、さあ、時間にしたら、熱湯の中で二、三分か……、そのオクラの実をハシから、小口切りにしていって、これを大量のダイコンおろしの中にまぜ合わせるのが随分とおいしいものだ。

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ただし、そのダイコンおろしにまぶしつけたオクラは、必ず、しばらく、冷蔵庫で冷やすのが、よろしい。

冷蔵庫から取り出して、もう一度まぜ直し、レモン酢、ユズの酢、ダイダイ酢など、とお醤油をかけていただくのが、最高によろしい。トロトロのねばりが、ダイコンにまでうつるのである。

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オクラの、ダイコンおろし和えの中に、まぜ合わせて、おいしいものは、シラスボシ、とか芝エビのユデムキ等だろう。

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檀は合わせる具材を「シラスボシ」や「ハマグリのユデムキ」、「アサリのユデムキ」とさまざまな提案しながらも、「芝エビのムキ身をまぜ合わせるのが一番、美しい」としています。オクラの鮮やかな緑と、芝エビのピンクのコントラストが目にも美しい一品です。

 

タイ茶漬け

「幼い頃のご馳走といえば、スキヤキかタイの茶漬け」という思い出からレシピが紹介される、「タイ茶漬け」。その味が忘れられない檀は、ニュージーランドに出かけた際にも現地の白身魚でお茶漬けを作るほど。

魚肉はやや薄く、ソギ気味の刺身にし、少量の酒をふりかけておく、

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その間に白ゴマを煎り、油がにじむぐらい丁寧にスリ鉢ですって、卵を割り込む。ゴマの量の三倍ぐらいの生醤油をかけ、よくまぜる。このゴマ醤油の中に、魚肉の刺身を投げ入れるわけだ。

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別に荒く揉むか、叩くかした叩きゴマを、茶漬けの出来上がりにほんの少々散らすと、もっと風味がよくなるかも知れぬ。

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さて、これを小皿に盛り分け、粗くもんだゴマと、ノリなどを、上からふりかける。食べる人は、ご飯の上に小皿の魚肉をのせ、ワサビを加えて、熱い茶をかけ、魚肉の半煮えの味を喜ぶ次第である。

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すりごまの風味と、濃厚な卵や醤油がタイの切り身に絡んでとても食べ応えのある一品。切り身だけでも美味しいですが、お茶漬けにすればさらりと食べられるのも魅力的です。檀が述べている通り、「あまりもののタイの刺身」や「ヒラメだって、何だって、白身の魚の刺身のあまり」、もしくは「冷凍モノのアジとかサバ」があれば作ってみても良いかもしれません。

 

『檀流クッキング』を読んで、料理上手を目指そう。

檀一雄が料理をするようになったのは、母が突然家を出てしまったことがきっかけでした。父親は料理に不慣れで、妹もまだまだ小さかった檀は自分が買い出しと料理をするうち、料理の面白さに気がつきます。

そのうち片栗粉を使えばあんかけ風にとろみがつけられること、ジャムを自作できることを知った喜びを感じ、料理が好きになった檀。簡単に美味しいものを作るための工夫は、幼い頃から得意だったのでしょう。

そんな料理好きの知恵と工夫が詰まった『檀流クッキング』は、今日もどこかの台所で活躍しているかもしれません。「料理を始めてみたい」と思った方は、参考にしてみてはいかがでしょうか。

初出:P+D MAGAZINE(2018/07/25)

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