【著者インタビュー】50代の恋愛と人生をリアルに描く、第161回直木賞候補作!/朝倉かすみ『平場の月』
35年ぶりに偶然、病院の売店で再会した中学の同級生――青砥と須藤。ふたりは互いの家を行き来して親密になっていくが、やがて須藤が病魔に侵されてしまう……。50代のままならない恋愛と人生を、現代的かつリアルに描いた話題作!
【大切な本に出会う場所 SEVEN’S LIBRARY 話題の著者にインタビュー】
50代の恋と人生のリアルはこんなにも酸っぱくて、甘くも切ないのか――圧巻の山本周五郎賞受賞作。
『平場の月』
光文社 1728円
35年ぶりの再会は病院にある狭い売店だった。病院に胃の内視鏡検査のために訪れた青砥と、売店に勤める須藤。2人は中学校の同級生で、青砥は中学3年生のとき、須藤に告白し、振られた過去があった。須藤は青砥に言う。〈「景気づけ合いっこしない?」〉。そして50代になった2人は親密になっていくが、やがて須藤を病魔が襲う――
朝倉かすみ
●ASAKURA KASUMI 1960年生まれ。2003年『コマドリさんのこと』で北海道新聞文学賞、’04年「肝、焼ける」で小説現代新人賞を受賞。’09年『田村はまだか』で吉川英治文学新人賞を受賞。’17年『満潮』が山本周五郎賞候補に。’19年本作で山本周五郎賞を受賞。
何かあったら、あっという間に収入が激減する。まして病気になったらどんなに大変か――
いろいろわけあって独身になり、地元に帰ってきた50代の男女。偶然、再会した中学の同級生のままならない恋を描いた小説は、今年の山本周五郎賞受賞作である。
主人公は
「50代になって、知り合いや友達が病気で亡くなることが多くなったんですね。他人事じゃないなと思って、独身の50代の女性が病気になる恋愛小説を書いてみようと思いました」
正統派の恋愛小説だが主人公が2人とも50代というのは珍しく、読者からの反響も大きいという。
「書く前は、『50代、60代の恋愛ってどんな風に始まるんだろう、デートはどこ行くんだろう』って思いましたけど、書き始めると、『意外と若い人と変わらないもんだな』って。私がデビューしたときは、女性主人公は30代でも珍しかったですけど、これからは50代、60代の小説がどんどん出てくると思います」
2人は互いの家を行き来するようになるが、須藤が大腸がんと診断され、手術してストーマ(人工肛門)をつけることになる。青砥はずっとそばにいたいと願うが、須藤は素直に受け入れられない。
「面倒くさいですよね。須藤自身、そんな自分を持て余しているけど、どうしようもない。同世代の独身女性を見ても、同じ面倒くささを抱えていたりする。私だって、『須藤はあんまり頑固だな』と思いながら書いていました。もう少し素直に、青砥に面倒見させてやれよ、って」
狭いアパートや古い実家で暮らす、中年男女のつましい暮らしぶりもリアルで現代的だ。
「何かあったら、あっという間に収入が激減するって、どんな人でも起こりうること。まして病気になったらどんなに大変かってことも書きたかった。だいたいの年収を決めたら、住むところも生活レベルも決まるんですよ。こういう恋を書く以上、読者を泣かせられないとだめだよね、とは思ったけど、そのぶん、意識して笑うところや楽しい場面も書いています」
楽しそうに2人が笑えば笑うほど、あらかじめ知らされている恋の結末が胸に迫って切ない。
素顔を知りたくて SEVEN’S Question
Q1 最近読んで面白かった本は?
佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』。
Q2 新刊が出たら必ず読む作家は?
今村夏子さん。新作が次々出ますね。
Q3 好きなテレビ・ラジオ番組は?
テレビはないんですが、iPhoneでTverや大阪チャンネルを見てます。和牛が出る『バツウケテイナー』が好きです
Q4 最近気になるニュースは?
今の今だと山里亮太と蒼井優の結婚です。陣内智則・藤原紀香よりもすごいなと思いました。逆のパターンもあるといいですよね。黒沢かずこと綾野剛、みたいな。
Q5 最近ハマっていることは?
お笑いを見ることですが、最近ではなく、ずっとハマってますね。
Q6 何か運動をしていますか?
朝、歯を磨きながらスクワット100回。60回で止めることもあります。今、習慣づけておかないと、運動は年を取ってから急にはできないというので。夜の歯磨きは青竹を踏みながらです。
Q7 一番リラックスする時間は?
お風呂に入っているときと寝るとき。お風呂は、お湯を入れてるだけでもうウッキウキです。
●取材・構成/佐久間文子
●撮影/藤岡雅樹
(女性セブン 2019年7.4号より)
初出:P+D MAGAZINE(2019/06/26)