【著者インタビュー】東畑開人『居るのはつらいよ――ケアとセラピーについての覚書』/「ただ、いる、だけ」を求められた就職先での、挑戦と挫折の成長物語

京大で心理学を学び、博士号も取得した著者がようやく見つけた就職先は、「ただ、いる、だけ」を求められた精神科クリニックで……。精神科デイケアの現状を、ミステリ調も採り入れてユーモラスに綴る、大感動のスペクタクル学術書!

【大切な本に出会う場所 SEVEN’S LIBRARY 話題の著者にインタビュー】

「大感動のスペクタクル学術書!」――オビに躍る言葉を上回る興奮と冒険の日々から、ケアとセラピーの違いと大切さを学ぶ

『居るのはつらいよ――ケアとセラピーについての覚書』
居るのはつらいよ 書影1
医学書院 2160円

〈この本は「居る」を脅かす声と、「居る」を守ろうとする声をめぐる物語だ〉。プロローグ「それでいいのか?」には、この本の趣旨がこう書かれている。臨床心理士として病院で働くことを決めた京大出のハカセ「トンちゃん」が、沖縄の精神科デイケア施設に職を得て、そこでケアとセラピーの違いに戸惑い、悩み、傷つき、傷つけて‥‥失職していくまでの目まぐるしい「円環」の日々が描かれている。ケアやセラピー、心理学用語なども初めての人にも易しく解説され、楽しめるようになっている。

東畑開人
東畑開人
●TOWHATA KAITO 1983年生まれ。2010年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。沖縄の精神科クリニックでの勤務を経て(←この時期の体験が本書で描かれている)、’14年より十文字学園女子大学准教授。’17年に白金高輪カウンセリングルームを開設。専門は臨床心理学。著書に『野の医者は笑う』『日本のありふれた心理療法』ほか。

論文調の堅い文体よりユーモラスに書けば、その場の空気も伝わるんじゃないかと思って

 東畑さんの仕事はカウンセラーだ。大学と大学院で心理学を学び、博士号も取得したが就職先がなかなかない。ようやく見つけた就職先は沖縄の精神科クリニックのデイケアで、そこでは「ただ、いる、だけ」を求められて困惑する。
 精神科デイケアの置かれた現状を、かろやかでおかしみのある文章でつづっている。
「論文調の堅い文体で、『ただ座っている』と書くと、悲惨な話になってしまうから。ユーモラスに書けば、その場の空気も伝わるんじゃないかと思ったんです」
 臨床経験を積むべく意欲に燃えて現場に飛び込んだ若者の、挑戦と挫折の成長物語でもある。もともとは、この4年間の話を書くつもりはなかったそうだ。
「最後、失職して終わる話ですから、ぼく自身、傷ついたんですよね。編集者から声をかけてもらわなかったらたぶん一生、書かなかったと思います」
 不思議なことに、編集者と打ち合わせで会うと、デイケアで体験したさまざまなエピソードが、次から次へと出てきた。待ち合わせたカフェが閉店時間になり、次のカフェに移動しても話すことがあった。
 時間の描かれ方も面白い。カウンセリングなどセラピーの時間が線的に流れるのに対して、「ふしぎの国」であるデイケアの時間はぐるぐる円環するそうだ。
「書いているうちに、時系列がわけわからなくなっちゃって。そもそもデイケアがそうだからこうなるんだって、本ではデイケアのせいにしています(笑い)。ぼくはどこに行っても巻き込まれるんですけど、巻き込まれたことを考えると文章になっていく感じですね」
 ミステリ調も採り入れ、読ませる。新米心理士の「ぼく」は「ただ、いる、だけ」の価値を知るが、スタッフは離職し、デイケアの現場は徐々に崩壊していく。現場を崩壊させる「真犯人」は誰なのか。
「この本を書く前に、辻村深月さんの『かがみの孤城』を読んだんです。これって不登校児のデイケアだな、ぼくのいたデイケアの『ただ、いる』世界もまさにこれだと思って。最後の謎解きで盛り上がるのも、『これやりたい!』と思って伏線を張ってみました」

素顔を知りたくて SEVEN’S Question-1

Q1 最近読んで面白かった本は?
アダム・スミス『国富論』。友達と勉強会で読んでるんですが、めっちゃ面白い。

Q2 新刊が出たら必ず読む作家は?
高野秀行さん。辻村深月さん。

Q3 好きなテレビ・ラジオ番組は?
『伊集院光 深夜の馬鹿力』を敬愛してます。ジムで筋トレするとき、ずっと聴いてて笑いながら筋トレしていました。

Q4 最近気になるニュースは?
小室圭さんのニュース。あと中居(正広)くんが辞めるかどうか。ジャニーズと皇室が好きなんです。どちらも組織と個の問題で、現代日本の縮図なんですよ。皇室は家族の物語なんで、心理士は結構好きで、集まるとああでもないこうでもないと盛り上がります。

Q5 最近ハマっていることは?
この本が出る前、年明けぐらいにジムに行き始めたらハマり、一時は週6回行ってました。みんな自分の世界に閉じこもっているので、人の目を気にしないでいいからラクなんです。本が出たら全然行きたくなくなって、ブームは終わりつつあります。

Q6 一番リラックスする時間は?
毎朝、子供が起きる前に原稿を書いている時間。

●取材・構成/佐久間文子
●撮影/黒石あみ

(女性セブン 2019年5.2号より)

初出:P+D MAGAZINE(2019/10/19)

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