「次に住む事故物件は7軒目」──『恐い間取り』著者・松原タニシインタビュー

“事故物件”に自ら住み、そこで起きた出来事を部屋の間取り付きで綴った本、『事故物件怪談 恐い間取り』が大ヒットを記録しています。著者の松原タニシさんに、本の裏話について伺いました。

殺人、自殺、孤独死など……、前居住者がなんらかの理由で死亡した経歴のある物件──いわゆる“事故物件”に進んで住み、そこで起きた出来事を部屋の間取り付きで詳細に綴った本、『事故物件怪談 恐い間取り』が7万部を超える大ヒットを記録しています。

著者は、“事故物件住みます芸人”として、これまでに計6軒の事故物件に住み続けてきた芸人・松原タニシさん。『事故物件怪談 恐い間取り』の中では、マンションの廊下でいないはずの人間の姿を見たり、頭痛や耳鳴りが止まらなくなったり、得体の知れない倦怠感に襲われたりといった、事故物件の住人ならではのリアルな体験が次々と語られます。

著者の松原さんに、本の裏話や事故物件の見分け方、そして今後住む予定の事故物件について、たっぷりとお話を伺いました。

 

『事故物件怪談 恐い間取り』/松原タニシ著(二見書房)

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出典:http://amzn.asia/d/cPTlOGD

「大阪 殺人 事故物件」で検索して最初に出てきた部屋に住んでいた

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──松原さんが事故物件に住む生活を始められたきっかけは、テレビ番組の企画だったと『恐い間取り』に書かれていましたね。

松原タニシさん(以下、松原):そうですね、「北野誠のおまえら行くな。」という番組のトークイベントがきっかけです。東京の芸人と大阪の芸人をゲストに迎えて怖い話をするというイベントだったのですが、大阪の芸人が誰もいなかったみたいで。マネージャーから「北野誠さんのイベントで怖い話できるやついるか?」という呼びかけがあったので、「僕でもいいんですか?」と手を上げてイベントに出してもらったんです。

そこで、事務所の芸人の養成所のすぐ近くにあるアパートの話をしました。若手芸人が何人も借りているアパートなんですが、ある日そこに住んでいた芸人が突然、養成所に来なくなったんですよ。どうしたんだろうと仲間が見に行くと、真っ暗な部屋の中で、ひとりでひたすらキャベツとか人参の千切りをしてたっていうんです。その芸人は結局会話もままならなくなって養成所を辞めてしまったんですが、次にその部屋を借りた別の芸人が、また養成所に来なくなって。部屋に様子を見に行ったら、Tシャツとか自分の衣類をビリビリに破いていて、またもや会話もままならない状態になっていたんです。

そのアパート、各部屋の扉がなぜか外から中を覗けるつくりになっていたり、窓に鉄格子が嵌められていたりと、不思議なところが多かったんですね。だからもしかすると、精神病院のような施設の跡地だったのではないか、という。

 
──怖いですね……。

松原:イベントでこの話をしたときに、北野誠さんが「じゃあ次、お前がそこに住んでみろ」とおっしゃったんですよ。そのときは冗談だと思って「いやいや」とか言っていたんですが、イベントのあとの打ち上げで、「さっきの話、本気だけど、どうや?」と言われて。もちろんすごく悩んだんですが、その頃まったく売れていなかったこともあるし、僕が北野さんのラジオを中学時代からよく聞いていたということもあって、こんな形で北野さんと仕事で関われるなら嬉しいな、と。「じゃあ住んでみます」とお返事しました。

 
──ただ、結局その部屋は借りられなかったんですよね。

松原:そうですね。養成所近くのアパートの部屋は残念ながら諸事情で借りられなかったので、北野さんがネットで「大阪 殺人 事故物件」と検索して最初に出てきた部屋を借りることになりました。それも番組の企画なので、毎日定点カメラで部屋を撮影しつつ、生活をしてましたね。そこが僕が住んだ1軒目の事故物件です。

ひき逃げに遭う部屋、犯人が戻ってくる部屋

──さまざまな事故物件に住んでみた結果、その1軒目がいちばん怖い物件だったと書かれていましたよね。

松原:事故物件に住むのが初めてだったので耐性がついていなかったというのもあるんですが、そこはもう、撮影を始めた初日からオーブと呼ばれる丸い光が映像に映り込んだんですよ。しかも住み始めて1週間目には、マンションの前でひき逃げに遭った。1軒目はとにかくインパクトがすごかったですね。

ただ、周りに話して恐がられるのは、2軒目に住んだ部屋です。その部屋も殺人事件の事故物件で、心霊現象のようなことも頻繁にあったのですが、それ以上に、玄関のドアノブをガチャガチャされたり郵便受けから郵便物がなくなるといった不可解な出来事が多くて。僕がその部屋から退去したあとに大阪市内で通り魔事件が起きたのですが、その犯人というのが、僕の住んでいた物件で起きた殺人事件の犯人と同一人物だったんです。だからもしかすると、ドアノブをガチャガチャされたりしたのは、犯人が戻ってきてやっていたのかもしれないな、と。

 
──……聞いているだけでゾッとしてしまうのですが、事故物件に住んでいるとそういったことは日常茶飯事なんでしょうか。

松原:僕にもいろいろ起こりますが、申し訳ないことに僕の周りの人たちがそういった体験をしてるみたいですね。前に取材をしてくださったライターさんが、打ち合わせの帰りに知らない番号から電話がかかってきたので出てみたら、子どもの声で「お兄ちゃん遊ぼう」って言われたっておっしゃってました。さらに別の編集の方は、住んでいるマンションのひとつ下の階が事故物件になってしまったそうで。

 
──そんなことが……。松原さんは、事故物件に住むのをやめたいと思ったことはありますか?

松原:最初は当然怖かったのですが、今はもう感覚が麻痺しているので、滅多なことでは怖いと思わなくなりましたね。今住んでいる部屋が6軒目の事故物件なのですが、今後もずっと事故物件に住み続けると思います。

「一度誰かが住めば、告知義務はなくなる」は明確なルールではない

──松原さんは事故物件をあえて選んで住まれているわけですが、一般的には事故物件というのはできれば避けたいですよね。部屋を借りる際に、管理会社や大家さんから「ここは事故物件です」という告知がされないケースも稀にあるかと思うのですが……。

松原:「事故や事件のあと、その部屋に一度誰かが住めば、告知義務はなくなる」という話が有名だと思うんですが、あれは実はきちんと決まっているルールではないんですよ。

事故物件公示サイト「大島てる」の大島さんもおっしゃっていたんですが、かつて、自殺された方が住んでいた部屋の大家さんが、その部屋の価値が下がったということで遺族に莫大な金額の損害賠償を要求した裁判があったんですね。そのときに「遺族への配慮も込めて、一度その部屋に誰かが住めば物件の価値は戻ると考えましょう」という判決が出たんです。その判決がひとり歩きして有名になってしまっただけで、決して明確に決められた法律ではないんですよ。

だから、何回住人が入れ替わっても告知する不動産会社もあれば、「事件から3年経てば告知しない」という独自のルールを決めている会社もある、というのが実際のところです。なので、たしかに、告知されないケースもありうるかと思います。

 
──事故物件を見抜く方法、というのはありますか?

松原:これまで住んだ物件や人に聞いた物件の共通点としては、賃料が安いことに加えて、部屋の一部だけが不自然にリフォームされている、というのが多いですね。この前まで大阪で次に住む部屋を探していたんですが、3 LDKで5万円、しかもめちゃくちゃ綺麗という物件で。床はすべて白いフローリングなんですけど、なぜか和室の襖はそのまま残ってましたね。そこは、年配の方が孤独死された部屋でした。

事故物件に住むことで、自分が生きていることを強く感じるようになった

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──では反対に、事故物件に住んでよかったことはありますか?

松原:賃料が安いのと、やっぱり芸人なのでネタに困らないのはいいですね。それから、“死”というものがすごく身近になる分、自分が生きていることを強く実感するようになりました。

葬儀屋さんや警察の方、お医者さんにとっては死体や殺人現場って日常の中にあるものだと思うんですが、一般人の僕たちはそういうものに耐性がないじゃないですか。身内が死んだら、当然受け入れられなくて悲しいし。でも実際には、人の死というのは毎日すごく近くで起きている。事故物件に住むことでその事実と向き合えるようになったので、今生きていることを大切にしないとなと思えるようになりました。

 
──松原さんは今後も事故物件に住み続けていくとのことですが、次はどんな部屋に住む予定ですか。

松原:7軒目をついこの間決めてきたところなんですが、自然死された方の部屋ですね。これまで住んできた部屋が「殺人」、「殺人」、「自殺」、「薬の過剰摂取」、「自殺」、「自殺」なので、「自然死」というのは初めてなんですよ。世の中には殺人や自殺よりも自然死や孤独死のほうが多いわけですから、ようやく来たなという感じです。今度の部屋はなにが起こるんでしょうね。

<了>

初出:P+D MAGAZINE(2020/08/24)

文学的「今日は何の日?」【8/24~8/30】
◇自著を語る◇ 五條 瑛『パーフェクト・クオーツ 北の水晶』