藤田 田『ユダヤの商法 世界経済を動かす』/47年の時を経て、読み継がれるベストセラー
47年前、日本マクドナルド社の創業者の手によって書かれ、ベストセラーとなった名著が新装版で復活。経済アナリストの森永卓郎が解説します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
森永卓郎【経済アナリスト】
ユダヤの商法 世界経済を動かす
藤田 田 著
KKベストセラーズ
1470円+税
装丁/トサカデザイン
進歩なき日本を痛感する47年前のベストセラー
本書が最初に出版され、ベストセラーになったのは、47年も前のことだ。新装版を読んでみると、いきなり「男が稼いで、女が遣う」といった性別役割分業が出てきて、古さは否めないかなと思ったのだが、読み進めると、むしろ日本の社会の方がちっとも進歩していないことを痛感させられる。
私の心に一番響いたのは、ユダヤ人は契約の民であり、何よりも契約を大切にするという部分だ。契約を結ぶまでは厳しい交渉をするが、一たび契約を結べば、絶対にそれを破らない。著者も納期が遅れそうになったので、赤字覚悟で商品を米国まで航空輸送し、ユダヤ人の信頼を得たという。日本では、吉本興業に限らず、いまだに契約があいまいで、取引条件が取引の後に決まるなんてことも、日常茶飯事だ。そして、もうひとつ感動したところが、「時間も商品、時を盗むな」というくだりだ。日本人は、打ち合わせが大好きだ。だから、特に用がなくても、ふらりとやってきて、相手の時間を浪費させていく。ユダヤ人は、アポイントの際、1分単位で時間を決めて、即断即決をしていく。だからビジネスが効率的に進むのだ。
実は、私はメディアの取材を受けるとき、1分単位で取材料を要求してきたので、業界のなかで評判がよくない。お金が欲しいというよりも、そうしないと延々と居座られて、時間を奪われてしまうからだ。ところが、ビジネス紙の権威である日本経済新聞は、取材料を払わない。紙面に反映されない単なるネタ拾いでも、一切支払わないのだ。だから、私はもう20年も、日本経済新聞の取材を原則引き受けていない。そのことに関して、何となく後ろめたい気持ちもあったのだが、本書を読んで、それが吹き飛んだ。私はユダヤ人になったのであり、それが、グローバルスタンダードなのだ。
ただ、本書を読んで反省した部分もある。ユダヤ人は、3か月で採算が覚束なかったら、ドライに撤退する。ところが、私にはそれができない。そこが金持ちになれない最大の理由なのだろう。
(週刊ポスト 2019年9.6号より)
初出:P+D MAGAZINE(2020/03/27)