【著者インタビュー】原田曜平『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』/これからの消費の主役となる世代の嗜好を徹底分析!
SNSの接触時間が圧倒的に長く、強い情報拡散力をもつ10代前半~25歳くらいの“Z世代”を、たくさんの事例やデータを用いて検証した一冊。若者研究の第一人者である、著者にインタビューしました!
【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】
強力な発信力・拡散力を持ち「ダイヤモンドの卵」と呼ばれている10代前半~25歳くらいの世代を若者研究の第一人者が徹底分析!
『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』
光文社新書
920円+税
原田曜平
●はらだ・ようへい 1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。同生活総合研究所等を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーに。現在はマーケティングアナリストとして幅広く活躍。2003年JAAA広告賞・新人部門賞。著書は他に『近頃の若者はなぜダメなのか』『さとり世代』『ヤンキー経済』『ママっ子男子とバブルママ』『18歳選挙世代は日本を変えるか』『パリピ経済』『平成トレンド史』等。166㌢、79㌔、O型。
様々なトレンドを生み、消費を牽引する彼らのニーズを企業はどれだけ拾えるか
例えばテレビ業界。視聴ターゲットを中高年に頼り、若者に泣く泣く背を向けたのは、実は平成までだとか。
「一時は購買力も意欲もある団塊の世代に軸足を置き、ある程度成功もしていたのが、最近は彼らが〈アクティブシニア〉じゃなくなる2025年以降を見越して再び若者返りを始めている。特にここ1、2年のことですね。お笑い第7世代や『私の家政夫ナギサさん』 など、世代交代が奏功した例も少なくなく、その視線の先にいるのが、Z世代です」
原田曜平著『Z世代』は、年齢的には今の25歳以下とされる、〈これからの消費の主役〉の嗜好を徹底分析。どんな商品がなぜ買われ、なぜ嫌われたり炎上したりするのかを、多くの事例やデータを引きつつ検証する。
コロナの影響についても早速生の声を集めてみせた若者研究の第一人者によれば、〈Z世代を理解するキーワードは、「チル&ミー」〉。つまり〈まったり〉&〈自己承認欲求、発信欲求〉が、次時代を拓く合言葉らしい。
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さとり世代、マイルドヤンキー、ママっ子男子等々、これまでにも数々の時代の波頭を捕らえ、言語化してきた原田氏。東アジア圏でこそ人口は少ないものの、世界的には圧倒的ボリュームと将来性をもつZ世代に関して書くタイミングを、今か今かと窺っていた矢先のコロナ禍だったという。
「Z世代という用語自体は、5、6年前には既に広告業界で使われていましたし、例えば資生堂さんが広告媒体費の90%以上をデジタルに切り換えるなど、デジタルシフトが本格化した背景にも、彼らの存在があった。
ただ本にするには言葉がこなれてからの方がいいし、反トランプやBLM絡みでこのワードが使われ始めたのを見て着手したんです。研究自体は2年以上をかけ、最新の情報も締切寸前まで詰め込んだ、自信作です!」
本書ではまず、Z世代が人口が少ない日本でなぜ注目され、すぐ上の「ゆとり世代」とは何が違うのかを順序立てて解説する。
「僕は現在20代後半〜30代前半のゆとり世代のことも10年前に本に書いていて、どちらも物心ついたら携帯電話があった世代ながら、ゆとりはガラケー第一世代、Zはスマホ第一世代という点が大きく違う。また10年前は〈若者の○○離れ〉が問題視され、何を訊いても『興味ないっす』だったのが、Z世代が高学年に入るくらいからかな、消費欲が旺盛になった感覚があって、様々なトレンドがSNS上に生まれ、それに触発されるように欲しい物ややりたいことも変化していった。価格帯は安いですけどね。
例えば僕は平成の30年で最も縮小したのが、
そんなZ世代をいよいよ無視できなくなるのが令和という時代ではないかと」
変わらなくていい成熟社会型の若者
注目はアベノミクス景気と長期に亘る少子化の中、少なくともコロナ前までは超売手市場にあった彼らの、発信欲求の形と大きさだ。過酷な競争や就職難に
また、インスタグラムやTikTokに自身の日常を撮っては投稿する彼らは、〈心象が悪くならない範囲で、SNS上で周りと同程度に自己アピールしたいという「同調志向」と「発信意識」〉を併せ持ち、自己顕示欲も数人のいいねがつけば満足できる程度の大きさだ。
「それこそ『れいわ新選組』の山本太郎氏の高校時代の逸話は、昭和の空回りした自己顕示欲とZ世代のそれとを区別するために、後から加えた箇所なんです。アレとは違いますと(笑い)。
現に悪目立ちはしたくない、仲間内にセンスを褒められる程度に発信したいという子が大半で、おそらく思春期にはスマホを持ち、友達や家族といいねを付け合うプチ承認が前提になってるんですね。ツール自体なかった世代は『その程度に発信して何が楽しいの?』と言うだろうけど、その程度の肯定が欲しい子だっているし、大きく出るのだけが能でもないんで」
長期化する低成長経済に抗うでもなく、まったりと等身大で無理のないミーを大事に生きたがる傾向は、実は世界的なものだとか。
「頑張れば何か得られるという感覚自体、幼い頃からデフレで低成長だった彼らにはないし、上をめざせと言われても、でも父ちゃん、給料上がってないじゃん、だったらこのまま別に変わらなくてよくね? って。
でもこれこそが成熟社会型の若者とも言えて、ローマなんて物凄く貧しいのに、みんなお金も使わずに石畳の上で喋っている。それが学費を上げるといった途端、デモをしたり、政治意識は若干差がありますけどね。トレンド自体に今や国境はほぼなく、新大久保と青森のむつ市の韓流ファンの情報量に違いがないほど、地域差もなくなっています」
現在も30人ほどの学生を率い、研究に励む団塊ジュニアの原田氏も、既に40代。
「ゆとりの時はまだ昭和の感覚が分かる子もいたけど、Z世代ではほぼ消滅していますし、彼らは飲みに行くとしても一次会まで。出張に同行したいというから誘った子が『やっぱりお母さんに反対されたので行けません』とか、腹はもう、ムチャクチャ立ちます!(笑い)
確かに上澄みの層には海外に人脈を築き、幅広い問題意識を持った子もいる。でも大半の子は無理せずまったりが本音で、象徴的なのが今流行の水煙草〈シーシャ〉ですよ。先日も秋田でシーシャバーを見かけましたし、巻末のトレンド辞典にあるように、様々なトレンドを目まぐるしく生み出すZ世代が近い将来、人口の多い団塊ジュニア共々、消費を牽引するのは間違いない。そのニーズを韓流コスメのように細やかに拾えるか、日本企業は苦手な分野だけに問われていくと思います」
そんな彼らにコロナ後、氷河期が訪れないよう祈るばかりだと元氷河期世代の氏は言い、世代差を超えた現象の面白さにさらに曇りのない目を凝らすのだ。
●構成/橋本紀子
●撮影/国府田利光
(週刊ポスト 2020年12.25号より)
初出:P+D MAGAZINE(2021/01/02)