ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第42回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第42回

言いわけが
独創的なほど怒るのが
編集者という奴である

優先度は基本的に「納期が近い仕事」や、取引先の社長の息子のコピーバンドライブを見に行くなど「重要度が高い仕事」からつけていく。

漫画家の場合は非常に明確で「締め切り順」である。
しかしこの明確な秩序を常に乱すのが「だがこの仕事はやりたくない」という強い思いだ。
昔から秩序と熱い魂は相性が悪いのである。

さらに、作家をある程度続けると「担当編集が言ってくる締め切りはいつもフェイクで実際はあと10日ぐらい行ける」みたいな予想が入ってくるため、締め切り順で正確な優先度をつけることが不可能になってくる。

そして何より漫画家にとって「納期を守ることにより取引先の信用を得る」という動機が弱すぎるのだ。

読者の信頼は失いたくないが、編集の信頼などいくら失っても大して影響がない。
むしろ「編集部の評判は良かったですよ」など、信頼がおけない発言に関しては編集者の方が15段ぐらい上である。
何故そんな人間を相手にこっちが信頼を勝ち取る努力をしなければいけないのか、怒りでますますタスクが滞る。

もはやこれを読んでいる読者も3人ぐらいしか残っていないと思うが、奇跡的に仕事を把握し優先度をつけ終わったら、さらにその仕事を作業ごとに細分化し、この作業はこの時間までに終わらせるなど計画を立て実行していく。
そして進捗を逐一確認し、予定通り行ってなかったら、原因を追究し、予定を組み替えるなどしていくのである。

つまり、やるべきことも終わったことも全て「見える化」することがタスクマネジメントにおいては重要ということだ。

確かに、今は仕事というより正体不明の敵と戦っている間に日が暮れて疲弊している状態な気がしてならない、明確に敵だとわかっているのは担当ぐらいのものだ。

もし今仕事などが思うように進められないという人がいたら、まずやるべきことを明確にしてから進めた方が良い。
今ここに何人残っているかわからないが、一応伝えておく。

ハクマン42回

(つづく)
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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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