ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第46回

不可解な現象が起こる
この業界では自分の作品も
いつか売れる可能性がある

ちなみにとてつもなく大人気の鬼滅の刃の映画だが、噂では「半日で1デビルマン」だそうだ。
有識者ならすぐピンとくる数字だと思うが、あえて説明するなら「半日で映画デビルマンの興行収入を超えた」という意味である。

ちなみにその1デビルマンの中には私の払った1800円も入っているので、実質私は鬼滅映画初日の午前中に鬼滅を見た、と言ってもよいのかもしれない。

鬼滅もすごいが、クソ映画が出てくるたびに「デビルマンとどっちがクソか」と比べられ、今回は大人気映画の引き合いにまでされる。このように「尺度」や「単位」にまで昇華された作品は滅多にないと思うので、クリエイターとしてはデビルマンに嫉妬すら覚えている。

ちなみに、ジャンプという超メジャー誌に連載されていた面白い漫画が売れる、というのは普通の現象だが、このように突然社会現象レベルにまで人気が出たきっかけや理由については識者も「わからない」という見解が多い。

このように「わからない」現象が起こる点、が漫画界の夢のあるところであり、残酷なところである。

不可解な現象が起こる業界である以上「自分の作品もよくわからないが売れる可能性がある」ということである。
スポーツ業界で「40歳から急に伸びた」というのはほぼないであろうが、漫画というのは描き続けている以上、それまでどれだけ売れてなくても、急に売れる可能性はゼロではないのである。

それ故に「諦めきれない」という残酷さがある。

明確な「潮時」というものがなく、むしろ青木雄二のような遅咲きもあるため「やめるタイミング」というのがよく分からないのだ。
昔であれば、掲載される場所がなくなった時点で実質引退みたいなものであったが、今はWEBで、描き続けることも見てもらい続けることも可能なため、余計どこで切り上げていいのかわからないのだ。

漫画家というのは数ある職業の中でも、何歳でもなれて、何歳でも続けられて、さらに何歳でも成功する可能性があるという点では良い職業だが「ハマると抜け時がわからず、気が付いたら他の仕事には就けない年齢になっている」という点では性質が悪い。

私も限りなくその状態に近くなっているため、早めに「わからない」ことが起きてほしいと思う。

(つづく)

 
次回更新予定日
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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