ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第98回
「やってみる」の壁は
担当への怒りで
ぶち壊すことができるのだ。
この「新しいツールの使い方を覚える」というのも年々苦痛になりつつある。
老が頑なにメールではなく「見積FAXで送って」というのも、メールの便利さより、メールの使い方を一から覚える面倒さの方が凌駕してしまっているからだろう。
私も仮にAI漫画機能が実装されても、その使い方を覚えるのが苦痛なあまり「自分が描いた方が早い」と言い出すFAX老ムーブをしてしまうような気がしてならない。
ここでキーとなるのが、前述の「中年のケツを上げさせるのは純粋な怒り」という事実である。
つまりAI漫画ソフトができたら「絵が全く描けない俺がAIだけで漫画描いたったwww」みたいな記事を積極的に見に行けば「汚いぞ貴様ふざけるな」という怒りでAIを習得する気になるのではないか。
一番良いのは「箸を転がしても怒れる」でおなじみの担当に「AIで描いた漫画って原稿がみんなペトペトしている感じがしてやなんですよね」と、孤独のグルメに出てきた輸入食器の女みたいなド偏見煽りをしてもらうことだが、仕込みでは意味がない。
人を動かすのが純粋な怒りなら、怒らせる方も純粋でなければいけない。
私の担当に、意図的に嫌味を言ってきたり、まして恫喝をしてくるようなパワハラ編集者は一人もいない。奴らはいつでも純粋にひたむきに、何より誠実に俺を怒らせてきた。
だからこそ私も「こいつより先に俺が死ぬのはおかしくないか?」という純粋な疑問を原動力にここまで漫画家を続けられたと言っても良い。
AIが本格的に漫画界に進出してきたとき、私が生き残れるかどうかは担当の動向にかかっていると言っても過言ではないが、奴らはいつも要所要所で的確に私を激怒させてきたので心配はしていない。
そういう意味で私ほど編集者を信頼している漫画家はいないと思う。
(つづく)
次回更新予定日 2023-1-10