辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第40回「私は裁判所」

辻堂ホームズ子育て事件簿
しばしば勃発する姉弟ゲンカ。
二人ともが納得する公平な
ルール作りが、思いのほか難しい。

 一方、歳の差を考慮しなければならないケースでは、「お姉ちゃんでしょ」で済ませず、なぜ弟を優先する必要があるかという〝やむを得ない理由〟を詳しく説明するようにした。道を歩くときは、「●●くんはまだ小さくて、車が来ても走り出しちゃうかもしれないから、手を繋ぐときは真ん中にしてあげようね」。トイレの順番を争っているときは、「●●くんはまだ我慢できなくておしっこが漏れちゃうかもしれないから、先に行かせてあげてね」。それでも娘が不満げにしているときは、「●●ちゃんはもう大きいからできるもんね、すごいよね」と褒めてあげる。すると案外、まんざらでもなさそうに譲ってくれたりする。子どもを叱るときは理由説明も一緒に! という子育てアドバイスはいろいろなところで目にしてきたけれど、やっぱり、それって大切なんだなぁ。

 ただ、弊害(?)も、なくはない。

 最近、娘の口調が私によく似ていることに気づいた。「~だから、~したい」「~ために、~する」「~のに、~した」とか、「まず~」「そして~」というような、接続助詞や接続詞を多用した喋り方をするのだ。妙に説明的というか、論理的というか……あまり4歳らしくないような気がして、ついこちらが苦笑してしまうことも。この間も、夫が呆気なく論破されていた。「あさごはんのキャベツ、たべたくなーい」「パパだったらちゃんとお野菜食べるけどなぁ」「でもたべてないでしょ!」──朝ご飯はコーヒー1杯派の夫、あえなく撃沈。

 娘と息子がほぼ対等に口喧嘩をしている、と最初に書いたけれど、それは子どもたちがおもちゃなどを巡って争っているときの話だ。娘も娘で、ああ大きくなったなぁ、としみじみ感じさせられることが多い。例えば、私に叱られて泣いている弟を、ぎゅっと抱きしめて優しく慰めてあげているとき、など。「はい、おねえちゃんがだっこしてあげる。おねえちゃんがいるからだいじょうぶだよ。ね、なかないで? ……(抱っこの状態で2、3歩進んでから)はい、あとはじぶんであるいてくれない? つかれちゃうから、おねえちゃん」──待て待て、後半は妊婦になってから疲れやすくなった私の口癖だ。そんなところまで真似しなくてよろしい!

 あと1か月半もすれば、3人目が生まれる。その子がある程度大きくなってきたら、きょうだい間のルール作りもいよいよ複雑になりそうだ。それとも、一番上と一番下の歳の差が5つもあるため、「お姉ちゃんでしょ」の一言で後腐れなく解決するようになるのだろうか。とすると、こういうことで悩むのは今だけなのかなぁ。はてさてどうなることやら。

 先日、私の大きなお腹を撫でていた娘に訊かれた。

「わたし、ちっちゃいころ、ママのおなかにはいってた?」

「そうだよ、入ってたよ」

「ぽーんって、けってた?」

「うん、けってたよ。お腹の中から、●●ちゃんの足がどーんって突き出してきてね。すごく痛かったんだよぉ~」

「……(恥ずかしそうに)ごめんなさい!」

 私のみぞおちを身体の内部から痛めつけていたご本人から、4年半越しに謝罪の言葉をいただいた──そんな妊娠8か月目。

 今いる子どもたち2人とだけ向き合う日々ももうあと少しなのだと感傷的になりつつ、それ以上に3人目の誕生を楽しみにしながら、毎日を生きている。

(つづく)


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『二人目の私が夜歩く』。

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