辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第41回「大仕事に臨む前、の心のメモ」

辻堂ホームズ子育て事件簿
いよいよ迫る第3子の出産。
そんななか4歳娘と2歳息子は
一人の「人間」になりつつあり!?

 おーい、1か月後の私、元気にしていますか? 麻酔はちゃんと効きましたか? 自然分娩との違いはどうでしたか?

 その答えを、何事もなければ、次回のエッセイに綴ることになるのだろう。

 ……何事もなければ。

 もしも、を想像するのはやっぱり恐ろしいから、ちょっと話題を変えることにする。

 最近のエピソード、その1。

 この間、朝起きると、4歳娘と2歳息子の着替えが完璧に済んでいた。汚れたおむつもゴミ箱にきちんと捨てられ、箪笥から出したパンツに穿き替えられていた。「えっ、なんで?」と私が驚くと、「わたしがきがえさせてあげた!」と娘が胸を張った。

 最近のエピソード、その2。

 少し気合いを入れて、新しく買ってきた掃除用具を使って念入りにトイレ掃除をした。「ママ、トイレがぴっかぴか!」と真っ先に気がついてくれたのは娘だった。おまけに、「わぁ、ママ、トイレットペーパーもかえてくれたの? ありがとう!」とトイレの中から大声で感謝を述べてくる。うすうす気がついていたのだけれど、娘は自分の使用時にトイレットペーパーがなくなると、毎回、何も言わずに予備のものに取り替えてくれていたらしい……。特にそうするよう躾けたわけでもないのに、いつからその家事は君の領分になったのだ?

 エピソード、その3。

 講演会やトークショー、授賞式への出席などで、私が夜まで外出することがたびたびある。以前だったら玄関で泣き叫んで夫に引き離されていた娘は、いつしか「いってらっしゃーい」と笑顔で私を見送ったり、「きょう、パパがおむかえ? うれしい~」と喜んだりするようになった。そんなお姉ちゃんと一緒だからか、まだ2歳の息子も、特に動じることなく私を送り出してくれる。

 その4。

 最近娘は、私が選んだ服をほとんど着てくれなくなった。ちょっと……早くないか!? もう思春期!? 仕方がないから、一緒にお店に連れていったり、通販サイトを見せたりして自分で選ばせている。おかげで洋服箪笥の中身がピンクだらけになってしまったけれど、本人はとても満足している様子だ。

 4歳にもなると、親の助けがなくてもどんどん自立していく。

 嬉しいけれど、ちょっと寂しかったりもする。

 だからこそ、「おむかえがおそかったら、なくよ」「ぱそこん、ぱちぱちーっておせば、おしごとはやくおわるんじゃない?」などと娘に詰め寄られると、いやいやキーを高速で連打すれば小説が完成するわけじゃないんだよ~預かり保育で泣いちゃうなんて困ったなぁ~脅しかよぉ~……と思いつつ、仕事をできるだけ早く終わらせて園にお迎えに行ってあげたくなる。ワーママの子育ては日々、時間や罪悪感との戦いだ。

 ──と、ずいぶんしっかりしてきたようでいて、その実、4歳はまだまだ子どもである。


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『二人目の私が夜歩く』。

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