辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第5回「名付けのプロセス」

辻堂ホームズ子育て事件簿
出産予定が決まると生じる
悩ましい問題、子どもの名付け。
辻堂家の合理的な「システム」とは?

 先日、妊婦健診の帰りに「男の子だったよ」とLINEした1時間後、さっそく夫から『名前決定のプロセス』と題されたプレゼンスライドのラフ絵のようなものが送られてきた。1枚目には『STEP1:名前そのものを決定。STEP2:名字とのバランスを確認。STEP3:承認をいただく』という名前決定のフローチャートが示されていて、2枚目に実際の名前の候補がずらりとリストアップされている。

 元コンサルの夫、なんか怖い。

 でもまあ、合理的だ。そういえば彼は、娘を産んだ分娩室でも、私の陣痛が軽い間はMacBookを開いてリモートワークをしていた。こ、この旦那さん、立ち会い出産中に何を……とおそらく助産師さんはドン引きしていたけれど、当の産婦の私が「あ、全然仕事してていいよー。でも陣痛がひどくなってきたら腰さすってね」というテンションだったため、助産師さんも見て見ぬふりをしてくれた。ドライな夫婦で申し訳ない。(夫の名誉のために言っておくと、私の痛みがいよいよつらくなってからは、夫はもちろんMacBookを閉じ、娘誕生の瞬間まで必死に付き添ってくれた。)

 普段からそんな関係性の私たちは、性別が判明したその日の夜のうちに「第2子名付けミーティング」を行った。夫が「候補をたくさん並べたけど、中でもこれかこれがいいと思う」と指し示した2つを私がそれぞれ紙に書き、漢字の意味などを入念に調べ、その場でうち一方を拒否してもう一方を採択した。といっても、以前から「男の子だったらこんな名前がいいな」という話は雑談程度に夫から聞いていたため、最終判断を下すのはさほど難しくなかったのだけれど。

 そんなこんなで、2021年7月、早々と第2子の名前が決定。実は私の過去の作品に同名の男性が登場していたのだけれど、珍しく(?)性格が善良で、犯罪事件の犯人や被害者でもないキャラクターだったため、漢字も違うしむしろいいんじゃないかということになった。生まれてくる息子がいつかその作品を読んだときに、気に入ってくれるといいけれど。

 つわりも終わったし、名前も決まったことだし、あとはゆっくり秋の出産を待つばかりだ。実は女の子でした――なんて大どんでん返しは要らないので、どうかどうか、無事に生まれてきますように。

(つづく)


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』が第42回吉川英治文学新人賞候補となる。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。

「推してけ! 推してけ!」第9回 ◆『シンデレラ城の殺人』(紺野天龍・著)
「推してけ! 推してけ!」第10回 ◆『シンデレラ城の殺人』(紺野天龍・著)