辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第6回「オリンピックと情報リテラシー」
スポーツ好きな辻堂家では
親子テレビ争奪戦が勃発!?
オリンピック観戦中、他にも娘の勘違いを誘発してしまった出来事があった。
水谷隼選手と伊藤美誠選手が出場した卓球の新種目、混合ダブルス。ドイツと対戦した準々決勝で、6-10で相手ペアがマッチポイントを迎えたところから、なんと怒涛の連続ポイントで10-10に追いついた。思わず夫婦揃って「よおっし!!!」と同時に叫び声を上げたその瞬間、私の膝で絵本をめくっていた娘の身体がビクッと大きく跳ねた。私というより、おそらく男性の迫力ある大声にびっくりしたのだろう。自分が怒鳴られたと勘違いして、火がついたように泣き出してしまった。私は慌てて娘を抱っこ、「あなたを怒ったわけじゃないんだよ〜、大丈夫だよ〜」となだめつつ、しかし白熱した試合はまだ続いている。日本とドイツ、どちらかが2点取るまでの一進一退の攻防戦。娘を怖がらせると分かっているのに、ついつい日本ペアの1点ごとに「よおっし!」を連発。結局、娘は試合が16-14で決着するまでの間、私に抱かれたまま延々と泣き叫び続けることとなった。
ちなみに水谷&伊藤ペアが栄光の金メダルを獲得した決勝戦のときも、「よおっし!」で隣室で寝ていた娘を泣かせてしまった。娘の安眠のために興奮も抑えられないなんて、ダメな両親だ。今後気をつけます。といっても次のオリンピックは3年後だし、東京オリンピックに至ってはもう生きているうちにあるかどうかも分からないのだけれど。
そんなこんなで、なんだか娘に対していろいろと申し訳なさの募る17日間だった。
さて、子育てとテレビ――と、いえば。
子どもにテレビを見せるのはいいことなのか、悪いことなのか、という議論がある。どちらかというと、「悪い」に寄ったイメージを持たれがちなのではないかと思う。知り合いにも教育上子どもにテレビは一切見せない主義の人がいるし、乳幼児健診の問診表にも「子どもがいる前で1日何時間テレビをつけていますか」なんていう項目があったりする。私の場合、朝と夕方のEテレの子ども番組は必ずつけていて、それが貴重かつ必要不可欠な執筆集中タイムにもなっているから、もしかして怒られるのかとビクビクしながら『4時間』と記入した。結局その病院では特に指摘を受けなかったのだけれど、何ともいえない罪悪感が後に残った。
そこで疑問が浮かんできた。子どもにテレビを見せるのは、本当によくないことなのか? 悪影響があるとすれば、どのようなものなのか? 目が悪くなるとか、成績が落ちるとか、そういうことは昔から言われていた気がするけれど……。
こういうとき、すぐにインターネットで検索をするのが現代人の性だ。『子ども』『テレビ』『悪影響』などとキーワードを入れると、どこぞの研究結果を記したサイトの要約がトップに出てくる。テレビの長時間視聴をする子は言語能力、社会性、運動能力などに遅れ傾向が見られた。子どもにひとりでテレビ・ビデオを見せてはいけない。長時間視聴は危険です――。3歳以下の子どものテレビ視聴は一切控えましょうとまで呼びかける医療センターのサイトも見かけた。ああ、やっぱりそうなのか、テレビはよくないんだなぁ……と一瞬凹んだものの、そこで納得して引き返すのではなく、もう少し詳しく調べてみることにした。
すると、テレビの長時間視聴をする子の発達が遅れ気味になる理由は、日常の限られた時間をテレビに取られ、親とのコミュニケーションや運動をする機会が減るためなのだという。ここで「ん?」と首を傾げた。だとすると、これってテレビそのものが悪者というより、親から子どもへの必要な働きかけが不足することのほうに問題があるということなのではないか。両者に因果関係があるのはもちろんそうなのだけれど、一口に「テレビの見せすぎはよくない」と括るのは、もしかすると少々語弊があるのでは……?
\第42回吉川英治文学新人賞ノミネート/
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「辻堂ホームズ子育て事件簿」アーカイヴ
1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』が第42回吉川英治文学新人賞候補となる。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。