椹野道流の英国つれづれ 第7回

英国つれづれ第7回バナー


せめてもと「何かお手伝いしましょうか?」と申し出てみたものの、「いいのよ、座ってリラックスしていて」と、優しく却下されてしまい。

(〝No no〟って言うてはったな。それでいいんかな、いやでも私はそういう言い方ではあかん気がするな……)

彼女の言葉遣いから学ぼうとしても、やはり年齢差、立場の差などを考えれば、一筋縄ではいきません。

言葉遣いを真似するなら、同年代か、少し年上くらいの人を参考にするのが無難でしょう。

ここは大人しく、待つしかありません。

ザ・手持ち無沙汰とはこのことです。

本当は好奇心に任せて家じゅう歩き回り、素敵なものを拝見しまくりたいところですが、現時点でそれをやると、「金目の物を物色している」と疑われてしまいそう。

ああ、何もできない……!

朝から色んな人を面食らわせたり、ご厚意に甘えたり、迷惑をかけたり。挙げ句の果てに、赤の他人の家でお昼ご飯をご馳走になろうとしているなんて。

もう、私ときたら何をやっているんだろう。いい歳をして、お使いひとつまともにできない。なんて恥ずかしい。

自己嫌悪が最高潮に達した頃、ようやく再び声がかかりました。

「お昼ご飯ができたわよ。こっちへいらっしゃい」

これではまるで、小さな子供のようです。

私は落ち込みながらも、それでもようやく動けることにホッとして、弾かれたように立ち上がったのでした。


「椹野道流の英国つれづれ」アーカイヴ

椹野道流(ふしの・みちる)

兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。

『君のクイズ』小川哲/著▷「2023年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR
『宙ごはん』町田そのこ/著▷「2023年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR