椹野道流の英国つれづれ 第9回
そら重いわ! 陶器やん!
楕円形の皿? いや、縁に浅い立ち上がりがあるから……一応、お椀?
いや違うな。
小振りではありますが、これは……アレだ。
水盤。
その証拠に、くるくるっと紙に包んだ剣山も添えてあります。
ええい、Kめ。
割れ物やったら最初にそう言わんかーい!
私が粗忽者で、どこかで落としでもしたら、ここで大量の陶片をプレゼントする羽目になっとったやないかーい。
無事にお届けしたというKへの報告のメッセージに、多少の文句も盛り込もうと思いながら、私はジーンの反応を窺いました。
「あの、それは、日本の……」
「ジャパニーズ・フラワーベースね! スイバン!」
おおっ? もしかして、水盤をご存じ? というか、もしや……。
私があまりに驚いた顔をしていたせいか、ジーンは水盤を大事そうに抱えてこう言いました。
「さっき、あなたがお花をくれたときも嬉しかったけど、これもとっても嬉しい贈り物よ。私、お花が好きなの。ガーデニングもフラワーアレンジメントも……そして、日本のイケバナにもとても興味があって!」
なるほど!
Kは、ここにホームステイしているときに、そんな話を聞いたのでしょう。
だから、生け花に使う水盤と剣山をプレゼントしようと思いついたに違いありません。
こちらの郵便事情……有り体にいえば、荷物を日本ほど丁重に扱ってくれないことを知っていたら、確かに小包で送ろうという気にはなれない品です。
それで私に託したというわけか。
理解はするけれど、だったらせめて「割れ物だから気をつけて」くらいは言っておいてほしかった。詰めが甘ーい!
少しモヤモヤする私をよそに、ジーンはいそいそと席を立ち、大判のハードカバー本を手に戻ってきました。
「ほら、これを見て。日本のイケバナの教習マニュアルなのよ。これを見ながら、お花の生け方を勉強しているの」
へえー!
本は当然ながら、英語で書かれています。
著者もイギリス人のよう。おそらく、日本で生け花を学んだのでしょう。
何故そんなことがわかったかというと、ジーンから受け取って開いてみた最初のページ。
よくあるでしょう、海外の翻訳本で、「○○に捧げる」とか「△△へ 愛を込めて」みたいなメッセージが。
その本にも献辞がいちばん最初に綴られていたのですが、そこに、母方の祖母の友人である茶道家元夫人の名前があったからです。
こんなところで祖母の気配を感じるとは。世界は広いようで狭いものですね。
兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。