春画あるあるを浮世絵や江戸文化の専門家が徹底解説
浮代先生、“春画あるある”を教えてください!
――ちなみに、春画によく見られる特徴、“あるある”とかってあるんですか?
浮代さん:ええ、よく描かれるモチーフや、よく描かれるシチュエーションなどはありますよ。
――春画あるある、知りたすぎる……。ぜひ教えてください!
春画あるある①性器がリアルで誇張されがち
(19世紀末・安達吟光)
浮代さん:まず、全般的に言えることとしては、男女ともに性器が誇張して描かれていますね。
――たしかに! 男性器の血管が強調されているイメージも強いです。
浮代さん:そうですね。どうしてかと言うと、江戸時代には男女和合はおめでたいものという意識があったからです。いまでも男性器を奉る神社や男性器を御神体とする祭りがあるように、男女和合というのは子孫繁栄に繋がるもの。そんなおめでたいものだから崇めましょう、ということに加え、性器の形は滑稽で面白い。だから春画に描かれる性器はリアルで、大きく描かれているんです。
春画あるある② 美女がタコに襲われがち
(渡辺崋山『海女と蛸』)
浮代さん:タコに限らず、獣姦ものは少なくないですが、先ほどのピカソの話にも出てきたように、女性がタコに襲われている絵もいくつかあります。
これは完全に想像上の出来事というわけではなく、江戸時代には、どうも巨大ダコが結構いたようなんです。タコが牛などの家畜や人を襲った、という話は実際にあったこととして書き残されています。だから、タコが海女を襲ってもおかしくないだろうという発想ですね。
ちなみに私がこれまで見た春画の中でいちばん笑ったのは、漁師がエイをひっくり返して挑んでいる図ですね。男性が豚や羊で代用したという話を聞いたことがありますが、たぶん漁師はエイを代用してたんだろうな、ちょうどいいサイズだったんだろうなと。
春画あるある③ 屏風の前で交わりがち
(18世紀末・喜多川歌麿)
浮代さん:それから、屏風の前で交わっている絵も多いです。
――たしかに、よく見ます! どうして屏風なんですか?
浮代さん:単純に、江戸時代には屏風が目隠しに使われていたということもありますが、春画のシュチュエーションとして「覗き」が多いから、というのもありますね。使用人や義母、子供などがセックスシーンを覗いている、という。
これは、「覗き」の絵を見ることによって自分も覗いている気になれる、絵の世界観に入れるという効果があるのだと思います。江戸時代の長屋では、子供や隣人に聞こえているという状態でセックスをするというのは当たり前でしたからね。
春画あるある④ 着衣のままでしちゃいがち
(18世紀末・喜多川歌麿)
――あと、春画の多くは全裸ではなく、着物を着ている状態ですよね。どうしてですか?
浮代さん:そうですね、着衣のまましがちです。というのも、春画の中では、着物が情報を伝える役割を持っているんです。絵の中に描かれているのが旦那さんと奥さんなのか、芸者さんとご贔屓さんなのか……という身分やシチュエーションが、着物や髪型から分かるわけですね。
それに、江戸時代には、女性の裸を目にするのは日常茶飯事だったんです。男女混浴は普通だし、塀の向こうで行水している人もいるしで、当時の男性は、女性のヌードぐらいじゃムラムラしないんですよ。
それからいまと違う点として、江戸時代は、胸に需要がない。あの子は胸が大きいからいい、というようなことがないんです。それよりも「うなじが綺麗」とか「腰つきがいい」みたいなところに重きが置かれたようですね。
まとめ:春画にエロスの真髄を学ぶ。○○のないところにエロスはない!
――春画について、正直、誤解していることばかりでした。“江戸時代のエロ本”が、まさかこんなに奥深いものだとは……。
浮代さん:2015年、日本で初めて「春画展」が開かれたときに、女性のお客さまの多さが話題になりました。どうしてあんなに女性が来たのかとよく聞かれるんですが、それって男性脳と女性脳の違いなんです。
男性は視覚の情報によって欲情するので、春画を見ていると多少なりともドキドキする。そう思い、そう見られるだろう自分が恥ずかしい、と感じるんです。でも、女性はシチュエーションから導かれるストーリーに興奮するので、単に絵を見ただけでは「綺麗」だとか「面白い」としか思わないわけです。
春画展に行った女性が「すごーい、モロじゃん」なんて言って楽しめるのは、そういう理由。男性は恥ずかしがって凝視できないんですよね。
――さっき、江戸の男性はヌードにはムラムラしない、という話がありましたが。
浮代さん:そう、だから江戸の男性は、そういう意味で女性脳に近いんですね。シチュエーションがないとグッとこないから、春画にはさまざまなバリエーションのエロスが描かれたわけです。むやみやたらに露出させるのではなく、隠すことによって想像させる。結局、恥じらいがないところにエロスはないんですよね。
――なるほど……。200年前の文化に、エロスの真髄を教えてもらった気がします。浮代先生、今日はありがとうございました!
浮代さん:ありがとうございました。これを機に、春画に興味を持ってみてくださいね!
▽浮世先生の著書
『超釈 北斎春画かたり』
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葛飾北斎の名作春画と詞書を読み解く短編小説集。
名作艶本『喜能会之故真通』全図がカラーで掲載されており、その中から浮代先生が選んだ5図に小説がついています。春画の世界を現代語で楽しむ入門編です。
『春画で学ぶ江戸かな入門』
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北斎・歌麿・國芳などの名作春画の詞書をもとに、江戸のくずし字を学ぶことができます。
<終わり>
初出:P+D MAGAZINE(2017/03/27)
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