ユニーク短歌への誘い―「BL短歌」「ジャニオタ短歌」の世界
#4 平田有「雨を恋うひと」(『共有結晶』第二号)
かみさまはおおむかしからすんでいてなんにもせずにただみつめてる
#5 山中千瀬「blue」(『共有結晶』第三号)
たかが神、落として緑 にんげんがにんげんにするように愛せよ
どちらも「神」という言葉が入っています。大きなスケールの歌であると同時に、BL短歌そのもののメタフィクション(※)になっているようにも思います。見つめられている彼ら(BLキャラ)の方が、創作者の「私」を見つめかえしてくるようなスリルを感じます。見つめられている彼らは、淡々と創作内の時間を生きていて、外側にいると思っている私たちのまなざしに気づいている。平田さんの歌はそのようにも詠めるかなと思います。
(※)「メタフィクション」……作品が創作物(フィクション)であるということを自己言及的に盛り込んだ表現のこと
山中さんの歌はとても難しい。「落として緑」がわからない。私は、緑児になって生まれ直す場面を想って、とても壮大な物語を見た気がしました。
(ひとこ)創造主である神さまと人間の関係を、詠み手とキャラクターの関係と重ねあわせて、二次創作であるBL短歌の表現の特異性そのものを浮き彫りにしているってことかしら。個人的に、ボーイズラブの神さまは、なんだか意地悪そうな印象……。
それにしても、こうやって一首一首読んでいくと、自分もこの創作コミュニティーに加わりたくなるから不思議よね。ひさしぶりに、腐女子活動を再開しようかな♪ 岩川さん、ありがとうございました!
さてさて次は……ジャニオタ短歌! 紹介者の八谷さんはご自身のブログでBL短歌記事へのアンサーをくださった方だ。
実は私にも、関西ジャニーズJr.(関ジャニ∞の弟分)にハマっていた時代があったので、ワクワクします。
ジャニオタ短歌の世界(by 八谷舞)
銀テープ ドームの花道吹き閉ぢよ 自担の姿しばしとどめむ
こんにちは、ひとこさん! 突然ですが、「追っかけ」と「短歌」の相性が抜群だってこと、ご存知でしたか?
和歌の時代から最も多く歌に詠まれてきたものは恋愛ですが、恋の歌をよく見てみると、相思相愛の幸せな感情をうたった歌は実は非常に少なくて、そのほとんどが一方的な愛情をうたったものであることに気づくでしょう。そしてその一方通行は、時に現実の恋愛に留まりません。歌合せの時など、手段として疑似恋愛が多く用いられてきたように、バーチャルな慕情は、実はとても作歌と相性がよいのです。そして、「追っかけ」もそのひとつ。たとえば、百人一首にも選出されたこちらなど、その好例でしょう。
天つ風雲の通ひ路吹き閉ぢよ をとめの姿しばしとどめむ(僧正遍照)
五節の舞姫をもっと見ていたいから風よ道をふさいでくれ、という趣旨ですが、なんと素直な歌でしょう!僧正遍照の手にサイリウム(アイドルのライブなどで振る、通称オタク棒)が握られていてもおかしくありません。筆者はこれを、最古の「アイドル追っかけ和歌」ではないかと考えています。
このように平安の昔から存在する(!?)「追っかけ」と「歌」のコラボレーションですが、最近ではジャニーズファン、いわゆる「ジャニオタ」が、煮えたぎる熱い想いを三十一文字に込めて迸らせています。この動きの中でも、芦屋こみねさん(@urahara0811)を中心とする、短歌結社「明星(あけぼし)」の結成は大きな出来事と言えるでしょう。
最大手のアイドル雑誌『Myojo』からその名を取ったこの短歌結社は、これまでに12回の歌会を行い、うち9回の題材にジャニーズを選んでいます。ここでは自身もジャニオタである筆者が、めくるめくジャニオタ短歌の世界へとみなさまをご案内します。
ちなみに、冒頭に掲載した「銀テープ ドームの花道吹き閉ぢよ 自担の姿しばしとどめむ」という短歌は、上に挙げた僧正遍照の歌を畏れ多くも「本歌取り」して筆者が即興で作ったものです(「自担」とは、ジャニオタ用語で「もっとも贔屓にしているタレント」の意)。ほら、しっくりくるでしょう?
(ひとこ)確かに、ドームコンサートの様子がありありと目に浮かぶ……!! 「追っかけ」と「短歌」の相性についても、すごく納得しました。今度はうちわに短歌を書いていこうかな(笑)
(次ページに続く)