ユニーク短歌への誘い―「BL短歌」「ジャニオタ短歌」の世界

#1 「ジャニーズJr.」

透明なショーウィンドーの奥で君 笑ってるんだね 逃げてもいいよ

まずこちらは、「ジャニーズJr.」が題材となった第2回歌会で取り上げられた作品です。芸能人は、商品として「ショーウィンドーの中で笑う」宿命を背負わされています。彼らは常に一方的に消費され、飽きられれば捨てられます。筆者はこの歌の「笑ってるんだね」を、タレントに対する憐憫と(無意識な)優越感との混ざり合った感情ととらえました。

最後の「逃げてもいいよ」は、「逃げられるものなら逃げてみろ」という宣戦布告のようにも思えます。冷笑を浮かべて追い詰められた獲物に近寄っていくような、嗜虐的な快感とでも言いましょうか。注目を一身に浴びる立場は疲れるけれど、その快感に慣れてしまったら、手放すのはなかなか難しい。逃げたいなら逃げてもいいよ?それができるなら。

このように「5句目でがらりと雰囲気を変える」のは、現代短歌、それも前衛短歌によくみられる手法です。たとえば塚本邦雄の歌に、「馬洗はば馬のたましひ冱(さ)ゆるまで人戀(こ)はば人あやむるこころ」というものがあります。上の句は純粋に馬を可愛がっているように見え、下の句も「人戀はば」と始まるのに、いきなり「人あやむるこころ」と締めくくるこの歌は、愛することが時に命を奪うにも等しいという残酷さを、眼前に突き付けるようです。


 

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(ひとこ)確かに、ジュニアの中には小さな頃から活動しててもなかなか日の目を見ないメンバーもいるのよね。ショーウィンドウのなかの彼らに、「一般の世界にお帰り」って言いたくなるのもまたファン心理。その後の彼らを思えば、とても残酷なことだけど……。


#2 「シンメ」

幕が下り衣装を剥いだその後は帰り道さえ知らないふたり

こちらは「シンメ」を題材とした第10回歌会から。「シンメ」とは「シンメトリー」の略で、主にJr.時代に左右の対になって踊る2人をそのように呼びます(たとえば二宮和也さんと相葉雅紀さんなど)。

この歌の秀逸さは何と言っても、「シンメ」が作為的なものであるということを指摘した点です。特に「脱ぐ」ではなく、「剥ぐ」という言葉の選択が印象的で、きらびやかな虚飾を鬱陶しそうに剥ぎ取って普通の男の子に戻るタレントの姿が見えるようです。そしてその虚飾の中には、イメージによって作り出されたシンメとの関係も含まれているのでしょう。ファンの願望を見通すような、冷ややかなまなざしすら感じられます。


 

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(ひとこ)「衣装を剥ぐ」という表現に、違う想像をしてしまったのは私だけでしょうか……。ちなみに私が大好きだったのは、平野紫耀と金内柊真のシンメ。バラエティ番組での掛け合いも最高で、いつまでも見てられたなぁ〜。


#3 アイドルと嘘

アイドルのファンは狂信的なイメージを持たれがちですが、その実、ファンは様々なものが虚構に過ぎないということを承知しています。この「虚構性」を詠んだものとして、たとえば「ジャニーズJr.」歌会の回で取り上げられた歌で、次のようなものがあります。

幸福に嘘を信じたふりをしたそのくちびるはもう恋を知る

この上の句を筆者は「恋人はいないというタレントの建前を信じたふりをした」と読み取りましたが、同時に詠み手は、それが嘘であるということを承知しています。現代短歌の持ち味とも言うべき、するどい痛みが感じられます。すべてが作りものだと知りつつ「信じたふり」をして現実から目をそらすことは、瞬間的な幸福を得られこそすれ、虚しいことには変わりありません。


 

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(ひとこ)そうなのよねー、これってアイドルオタ特有のジレンマなのじゃないかしら。10年以上、特定のアイドルを応援してたりすると保護者的な目線になったりもするけど、やっぱり脱退とか結婚とかって寂しいもんだしねえ。


 

#4 KAT-TUN

闇の中炎と共に蘇るから神に祈るな 俺に祈れよ

こちらは「KAT-TUN」を題材とした第12回から。「神に祈るな 俺に祈れよ」の格好良さ!棘と毒を持ち合わせたKAT-TUNはジャニーズの中でも異色なグループであり、形容するとしたらイマヌエル・カントやエドマンド・バークが大成した概念である「崇高(sublime)」がもっともふさわしいと筆者は考えます。「崇高」は主に恐ろしさを内包した美しさを意味しますが、下の句の神をも畏れぬ不敵さこそは、KAT-TUNのイメージとぴったり合致するものでした。

またこの歌は、タレントの視点から詠まれているというところも特筆すべきポイントです。たいていの場合、ジャニオタ短歌は(ファンである自分を主とする)第三者の視点から詠まれます。しかしこの短歌はKAT-TUNによる一人称「俺」が用いられており、そうした意味でも面白いものです。


 

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(ひとこ)わかるー!!この俺様イズムこそKAT-TUNだよね。あと、活動休止が発表された今この短歌を読むと、「どんな困難があってもKAT-TUNには火の鳥みたく蘇って欲しい」っていうファンの想いもひとしおよね。お見事!!


 

以上、それぞれ簡単にではありますがご紹介した「ジャニオタ短歌」、みなさまお楽しみいただけましたでしょうか。一般的には未成熟な疑似恋愛のようにとらえられがちなアイドルの追っかけという行為も、こうしてみると何らかの普遍性を持っているように思えてなりません。次なる秀歌の登場を、それこそ綺羅星を待望するように待ちわびています。

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(ひとこ)八谷さん、ありがとうございました!
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好きな分野をどんどん掘り下げると、ファンであることの「やましさ」の部分も含め、色んな言葉やイメージに出会えるのね。よおし、私も短歌を詠もう!!

 

編集後記

岩川さん、八谷さんによる作品解説に触発されて、腐女子魂、ジャニオタ魂、そしてなによりも短歌ファンとしての魂を呼び起こされたれたひとこちゃん。さっそくTwitterで短歌を詠んでくれました。

皆さんも、自分の「好き」を五七五七七にこめて、短歌を通じたファン同士のコミュニケーションを作り出してみてはいかがでしょうか。

初出:P+D MAGAZINE(2016/04/09)

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