【著者インタビュー】川越宗一『熱源』/第162回直木賞受賞! 歴史に翻弄されながら生きる人物たちを壮大なスケールで描く

2作目にして、直木賞を受賞した川越宗一氏にインタビュー! 北海道、サハリン、ロシア、南極にまたがる壮大なスケールの長編小説は、読む人の胸を「熱」くさせます。

【大切な本に出会う場所 SEVEN’S LIBRARY 話題の著者にインタビュー】

本作で直木賞受賞! 北海道、ロシア、南極‥‥ 歴史に翻弄されながらも自分の生きる道を貫いた人物たちを壮大なスケールで活写した圧巻の長編小説

『熱源』

文藝春秋 1850円

若くしてサハリンに流刑されたポーランド人のブロニスワフと、サハリン生まれのアイヌのヤヨマネクフ(山辺安之助)。帝国主義のもと、列強の激しい覇権争いの中で、それぞれロシア、日本の文化に飲み込まれそうになりながらも自分を見失わない波乱万丈の人生を中心に、明治初期から第二次世界大戦終了までのドラマを描く。アイヌの人々の伝統的な暮らしが生き生きと描かれているのも魅力。

川越宗一

●KAWAGOE SOICHI 1978年大阪府生まれ。京都府在住。龍谷大学文学部史学科中退。バンド活動を経てカタログ通販会社に入社。2016年に小説のメール添削講座を受講して小説を書き始め、2018年『天地に燦たり』で松本清張賞、このたび本作で直木賞を受賞。現在は宣伝販促部門で時短勤務。朝5時に起床して11時まで執筆してから出社している。「ほとんど大学に行かないまま中退したので、今めっちゃ大学に行きたいんです。古文書の読み方、資料の扱い方を学びたい(笑い)」。

不寛容な世の中に?「みんな仲よくしようよ」この言葉にしかならへん

 1月15日になんと2作目となる本作で直木賞受賞が決まった川越宗一さん。前日に京都から上京し、この取材は選考会が始まる2時間前という落ち着かない中でのものだったが、終始柔和な表情で、質問に答えてくれた。
『熱源』は北海道、サハリン(樺太)、ロシア、南極にまたがる壮大な物語だ。日本とロシアの同化政策に苦しみ、戦争に運命を変えられながらも、たくましく生きるアイヌとポーランド人の姿を描く。 執筆のきっかけは5年前、夫婦で訪れた北海道で白老しらおいのアイヌ民族博物館に立ち寄ったことだった。
「ブロニスワフというポーランド人の銅像を見て、なぜ北海道にあるのか、アイヌとどんな関係だったのかなと思いました」
 調べてみるとポーランド独立の英雄の兄であり、サハリンに流刑されてアイヌと交流し、結婚もしていたことがわかった。アイヌの中には南極探検隊に参加した山辺安之助がいた。2人を中心に川越さんの中で物語が動き始めた。
「こういう話があったら読みたいなと空想する癖があるんです。とくに地理的に壮大な話にひかれます。異なる文化同士が接するときの溶け合っていく様子とか、葛藤とか、混ざった具合に昔からすごく興味がありました」
 資料を集め、史実をもとに、ほとんどが実在の人物という小説を書き上げた。川越さんが創作した魅力的な女性たちも登場する。
「人類の半分は女性なのに歴史の本、とくに政治史にはあまり出てきません。歴史は人の思いや行動の集積です。男の話ばかりしていると、その半分しか描けないことになってしまいますからね」
 子供の頃から歴史が好きだった川越さんは大学の史学科に入学したものの中退。アルバイトをしながらロックバンドでベースを弾いていた。30才で会社員になり、時間に余裕ができた4年前に小説を書き始めた。筋トレを始めるような軽いノリだったという。
 川越さんは国家に翻弄される人や少数民族に温かな眼差しを向ける。それは異文化に不寛容な今の世の中への問いかけでもある。
「書きながら思っていたのは『みんな仲よくしようよ』ということ。いろいろ考えたんですけど、この言葉にしかならへんなと思って」
 居丈高な軍人を含め登場人物は全員好きだという。誰もがそれぞれの事情を抱え懸命に生きている。胸が熱くなる冒険譚だ。

素顔を知りたくて SEVEN’S Question-1

Q1 最近読んで面白かった本は?
小川哲さんの『嘘と正典』。ヤンキー文化を守り続けている人が最後にケンカする話とか、面白かったなぁ。

Q2 好きな作家は?
最近読んだ中では、『落梅の賦』の武川佑さん。視点も題材もすごく面白い。これからも読むと思います。

Q3 最近観て面白かった映画は?
最近じゃないですが(笑い)、『ボヘミアン・ラプソディ』。『風立ちぬ』は映画館に3回行きました。「生きねば」というバイブレーションは『熱源』とも共通しています。

Q4 最近気になるニュースは?
直木賞ですかね(笑い)。勉強させていただこうと、他のかたの候補作はほとんど読みました。

Q5 最近ハマっていることは?
「フルグラ」をめっちゃ食ってます。ぼくはすぐお腹がすいて、お腹がいっぱいになると何もできなくなるので、何を食べたらいいか試行錯誤していたんですけど、今はコレ(笑い)。

Q6 趣味は?
焼肉を食べに行くこと。時間があいたらグーグルマップで検索して、だいたい1人で。ビール、生センマイ、ユッケ、カルビかロース、上ミノを注文しますね。

●取材・構成/仲宇佐ゆり
●撮影/黒石あみ

(女性セブン 2020年2.6号より)

初出:P+D MAGAZINE(2020/06/24)

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思い出の味 ◈ 村山由佳