【林真理子の小説5選】思わずメモしたくなる金言の宝庫! 現代女性必読の教科書
常に時代のセンターに立ち続けている、人気作家・林真理子。その作品には、金言・格言が詰まっています。現代女性の心に響き、刺さるフレーズに注目してみましょう。
女性のキモチを描くのが上手い作家・林真理子。
“他人の恋愛にむやみに興味を持ちたがる女というのは、決して(恋愛の)主人公になれないのだ”、“ヘルスメーターは、のらなくなると怒りを込めて目盛りを増やす、“美は細部に宿る。私がいちばんこだわっているのは、髪とネイルと足元だ”といった、女性なら思わずメモしたくなるような金言でも知られています。1982年、女性の本音を痛快に綴った『ルンルンを買っておうちに帰ろう』でデビュー以来、女性のオピニオンリーダーとして人気を得ます。近年では、覇気のない草食系の若者を鼓舞する新書『野心のすすめ』が大ヒットしたり、大河ドラマの原作『西郷どん!』でも話題を呼び、元号に関する有識者懇談会に出席したり、東京オリンピックスローガン審議委員を務めるなど、つねに時代のセンターに立ち続けてきました。その人気はもはや説明不要で、女性誌などで連載された小説の数々は多くの人の心をとらえています。人気作家・林真理子から、女性が強く美しく生きるヒントをもらえる本と格言を紹介します。
『anego』~あなたの男運が悪いのは、あなたの頭が悪いからだ~
https://www.amazon.co.jp/dp/4094081720/
本作の主人公・野田奈央子は、一流商社で働く32歳の独身女性。面倒見がよく「いい人」で通っていることから、周囲の人たち、とくに後輩女子から頼りにされ、「姉御」呼ばわりされています。けれど、「いい人」と言われて喜ぶ女性がいったいどこにいるのでしょうか。男女の間において、「いい人」と言われたら、それは恋愛対象としては見られていない証拠とは、もはや定説。奈央子は「いい人」と言われるよりも、「いい女」だと言われたいのです。
キャラ変したい奈央子は、現在ステディな恋人こそいないものの、セフレは欠かさないようになりました。それを悪びれることもありません。なぜなら、
“全く男っ気がない女に恋のチャンスは訪れない、などということは誰でも知っている真実だ”
と気づいたから。奈央子の言い分はこうです。
恋のウォーミングアップは欠かしてはならない。適度に男と戯れ、適度にセックスはしておかなくてはならない。
また、セフレでもいないより、いる方がマシだと思うのは、
セックスというのは菓子と同じで、すぐに食べなくても常備しておかなければ心もとない。不安になる。女にとって、ひと月かふた月に一度でもいい、体を重ねる男がいるというのは、どれほど救いになっていることだろうか
と考えているから。
セフレとは割り切って情事を愉しむ奈央子ですが、ひとつだけ自分に厳しく課しているルールがあります。それは、不倫は絶対しないということ。それは何も倫理観や道徳心ゆえにではありません。奈央子の自身の長年の分析の結果、
“「結婚していても恋愛をしたい」という男たちは、かなり諦めの悪い人たちに違いない。こうした男の諦めの悪さを愛情と勘違いしている女たちの何と多いことだろうか”
というクールな結論に達しているからです。そして奈央子は、妻を手入れておきながら愛人もキープしたいという男の往生際の悪さを、愛情と錯覚するほど世間知らずではないと自負していました。
ところで奈央子には、うらやましくてたまらない女性がいました。それは、職場の元後輩で、今は商社を寿退社し、収入もルックスも性格もよい夫と可愛く賢い女児とともに、優雅な専業主婦ライフを満喫する沢木絵里子です。絵里子の夫と偶然出会い、どんどん惹かれてゆく奈央子。あれほど不倫反対派だった奈央子ですが、もはや心のコントロールが効かなくなり、ついに一線を越えてしまいます。そして、ここからがホラーの始まりでした。
反撃に出た絵里子は、奈央子の職場に不倫をばらすファックスを送り付け、このため、奈央子は職場を追われることになります。その上、絵里子は夫とともにガス管をくわえて心中を図ったのでした。絵里子は亡くなり、夫の沢木は後遺症を患いながらも生き残ります。絵里子は、奈央子が生涯自責の念に苦しむよう、仕向けたのでしょう。
奈央子は、派遣社員をしながら、性懲りもなく、残された夫の沢木と娘にお節介を焼くのでした。魔性の女なら、ここで、お荷物でしかない沢木一家とはきっぱり手を切って、新しい男を探すでしょう。しかし、奈央子にはそれがどうしても出来ないのです。そんな奈央子を見た友人は、奈央子のことをしみじみこんな風に分析します。
“男運が悪いのは、頭が悪い何よりの証拠”
友人の博美が言うには、
世の中にはいい男が確かにいます。でもそういうのは別の女がかっさらっていきます。見極めが悪い、決心がつかない、つまらない男とだらだら続ける、前の男が忘れられない。私たちに男運がなくって、イブに女だけのパーティに集まっているのにもちゃんと理由があったんです
打算的、計算高いといわれても、「勝ち組」になるためならそれでいいということです。「姉御」と慕われ「いい人」に甘んじる女性も、ヤバい妻がいる男に手を出してしまう女性も、「男運が悪いのは、頭が悪い証拠」の典型例かもしれません。
『中島ハルコの恋愛相談室』&『中島ハルコはまだ懲りてない』~「忖度」などどこ吹く風 厚かましさ随一の女社長があなたの悩みを斬る! 女はいつもハッキリ物を言う女が好き~
https://www.amazon.co.jp/dp/416390266X/
https://www.amazon.co.jp/dp/4163904794/
2017年の流行語大賞を「忖度」が受賞したのは記憶に新しいところ。「忖度」とは、相手の気持ちを推し量るの意で、「忖度」出来ない人は「KY」(空気が読めない)などと言われ、もはや人にあらずといった風潮がまん延している昨今です。
しかし、「忖度」どころか、本音を臆面なくズケズケ言いたい放題、発車間際の新幹線に片足を突っ込んでドアをこじ開けさせたり、キオスクで雑誌を買わずに立ち読みしたり、宅急便のトラックをタクシー代わりにして助手席に乗り込んだり、豪放磊落、傍若無人の振る舞いをするのに、なぜか嫌われない人気者がここにいます。本作のヒロイン・面の皮の厚さは日本№1の女社長・中島ハルコです。
ハルコは、どこかにいい男がいないかなぁといつもぼやいては、誰かいい人紹介してくださいと相談に来たアラサー女子へ、手厳しく言い放ちました。
“どっかにいい男いないかしらって言ってる女が最低なのよ。見るからにさもしい顔しているもの”
ハルコが言うには、
あなたって、やることが中途半端よね。不倫しても奥さんから奪い取る根性と力はない。仕事もなんか面白くない。結婚はしたいけど相手はいない。中途半端な女には男は寄ってこないもの。どうして皆、私と結婚したがるかって言うとね、私はいつも仕事に夢中だからよ。男はね、自分の好きな女と仕事とが三角関係になるとものすごく燃えるものなのよ。どうしても仕事っていうもう一人の男から、女を奪いたくなるものなのよ
極端な性格のハルコですが、その気風のよさと、人の悩みには必ず相談に乗ってやる世話焼き体質から、皆に愛されているようです。
ハルコは、有名エステサロンや美容院をインターネットから予約できるサイトを運営するIT会社の社長。職業柄、人の容姿には超辛口で、歳より老けて見えるからヒアルロン酸を打てだの、そんなにデブではお嫁さんの来てがないだの、歌舞伎の家の奥さんがブスだったらひいき筋が逃げてしまうだの、言いたい放題。そもそもハルコには鉄壁の人生観があり、それは、
“人間外見みれば、たいていのことはわかるじゃないの”
というもの。ハルコにかかれば、ダイエットしないデブや、エステやプチ整形に金をかけられないブスは怠慢の極み、人生にもなげやりだということなのでしょう。外見より中身が大事なんて所詮はきれいごと。やっぱり、「人は見た目が十割」なのです。
良薬は口に苦し、どころか、ハルコの言葉は劇薬ですが、効果はてきめん。こじらせ女子の皆さん、ぜひ本書を「服薬」してください。
『女はいつも四十雀(しじゅうから)』~女の本音をスパっと言い当ててくれる、一服の清涼剤~
https://www.amazon.co.jp/dp/433495099X/
“私は人の悪口を言いまくる人が嫌いだ。しかし反対に誰の悪口も言わない人も信用しない”
悪口ばかり聞かされるのもうんざりですが、まったく悪口を言わない人も、八方美人そうで気味が悪いものです。人の悪口を楽しむにための必須アイテムとして、林真理子は以下の3つを準備するようアドバイス。
人の悪口を楽しむにための必須アイテムとして、林真理子は以下の3つを準備するようアドバイス。
1、個室の予約 2、いいワイン 3、芸のある友人
1は、壁に耳あり障子に目あり、どこでだれが聞いているか分からないからでしょう。
2は、お酒が入った方が口も滑らかになるからでしょう。
3は、相手を徹底的に批判するのではなく、ウィットとユーモアに包むのが「四十から」の大人のマナーだからでしょう。
また、ドラマ『同窓会~ラブアゲイン症候群』などの影響で、誰かと再び恋に落ちることを夢想するアラフォー女子に対しては、出身校がいい学校だったならいい男が集まってくるからチャンスもあるけど、つまらない学校卒なら、つまらない男しかやって来ないから、期待するだけ無駄だと一刀両断。
少女だった自分のことを理解してくれていた男の子が、オートバイに乗ったヤンキーではなく、高級車に乗って迎えに来てくれる。これはすべての女性の究極の理想かも
身も蓋もないけれど、たしかに女性の本音であるところを開陳し、高級車の助手席に座るような
“「理想の結婚」を叶える方法は、その男性の居る場所に自分を持っていくことだ”
と結論付けます。一流の男性に近づきたければ、自分が一流の女性になる努力をするしかないということでしょう。
続いて、このところ世間を過剰に騒がせた不倫問題。奥さんが本音を押し殺して、不倫した旦那のために世間に頭を下げる風潮に違和感を示した林真理子は、TV番組「ゴロウ・デラックス」(2018.1.11オンエア)出演時に、“奥さんの神対応って気持ち悪いよね”と発言。話題となった小泉今日子の不倫ネタにも、作者ならではの本音を炸裂させます。
妻という勝者に対して別の意味で勝ち名乗りを上げてきたキョンキョン。キョンキョンが堂々と不倫していると口にした。私などいかにもキョンキョンらしくて、いいなぁと思ったクチだ。きっと「お友だちです」などという嘘をつきたくなかったに違いない。「相手の男性がなかなか別れてくれないので、業を煮やしてあんな宣言をした」と書くマスコミがある。が、私はちょっと違うような気がする。なぜなら彼女は、結婚などしたいとも、相手の男性が奥さんと別れて欲しいとも思っていないようだ。奥さんを羨ましいとも感じていない。私は今、新聞に連載小説(注:『愉楽にて』 https://shosetsu-maru.com/recommended/book-review-499/ 参照)を書いているのであるが、その中で主人公の男性と不倫している人妻についてこう書いた。
“(不倫中の)人妻は相手の妻には嫉妬しない。なぜならば自分のことを考えて、妻というものはそう愛されていないと知っているからだ”
やきもちを焼くのは、男の愛人に対してだけだと書いたのであるが、これは反響を呼んだ。「そんなこと初めて聞いた」と男性週刊誌ネタにもなった。
人妻がずいぶんかわいそうな立場へと追いやられていますが、自身も人妻である林真理子は、一方では、人妻を救済する小説もちゃんと書いています。
『秋の森の奇跡』~男の誠意は金銭の多寡に表われる。あなたには今、金を使ってくれる男がいますか~
https://www.amazon.co.jp/dp/4094084290/
本作の主人公は、日下裕子。名門私立校の教師の夫と、愛らしい小学生の娘を持ち、平凡だけど幸せな毎日を送るアラフォーの人妻です。ところが最近、夫の勤めるS学院で教師と保護者の母の不倫問題が発覚したというゴシップ記事を目にした裕子は、夫がその当事者ではと気が気ではなりません。友人に相談すると、
“エネルギッシュで頑張る男っていうのは、例外なく女が好きよ”
と冗談とも慰めともつかないアドバイスをもらいますが、裕子のもやもやした気持ちはおさまりません。
そんな時、裕子の高齢の母が初期の認知症にかかります。母を施設に入れることに抵抗のある裕子は、母を自宅に引き取って介護できないかと、夫に相談します。ところが、夫の返事はにべもないものでした。裕子は、夫婦は結局他人であり、配偶者の親を実の親のように大事にする、などということは所詮理想論なのだと気付き、愕然とします。裕子は、夫と別居して実家に戻り、母の面倒を見ることを選択しました。
ある日、裕子の母が行方不明になり、街を徘徊しているところを、一人の男性が助けてくれます。新井という同世代の家庭持ちの男でした。裕子が母の介護と夫との関係で悩んでいることにも、新井は親身に誠実に相談に乗ってくれ、洒落たレストランで高いワインをご馳走してくれました。このところ、夫からは誕生日に花一本もらったことのない裕子は、
“男の気持ちは金に代わる”
という恋愛のセオリーを、久しぶりに思い出したのです。男性が自分のために高いお金を支払ってくれる、自分はそれだけ価値のある女だと自信を取り戻します。
けれど、良妻賢母で通っている裕子には、不倫をするなど想像外のことでした。裕子は新井に手紙を書きます。
新井さんは、私にとってとても大きな存在です。中年を過ぎると、大切な異性の友人は出来ないものです。異性間に友情があるものか、という青くさい議論をしていた頃ならいざしらず、私ははっきりと、今、あると思います。もちろん男女間の友情というのは、異性としてひかれ合う、というのが土台になるのですから、とても危ういところで成り立っています。でも私たちは、その危うさを回避出来る賢さを持っているとは思いませんか。とにかく私は、新井さんをいっときの感傷的な気分で失いたくないんです。
裕子はこのまま新井と「友人」を続けられるでしょうか、それとも「愛人」になりさがってしまうでしょうか。結末は本作で確かめてみてください。
『コスメティック』~あなたは仕事と寝られる女ですか?~
https://www.amazon.co.jp/dp/4094080139/
本作のヒロイン・北村沙美は、広告代理店から外資系化粧品会社・コリーヌのプレスに引き抜かれたアラサーバリキャリ女子。化粧品会社に転職して間もない頃、沙美は先輩からこんなことを言われます。
“二千円の美容液つけて女は嬉しいかしらね。綺麗になるかしらね。”
先輩はさらに続けます。
一万五千円の美容液の原価は、一割もせえへんのよ。せいぜい千四~千五百円っていうとこやねぇ。だけどね、私らの話術と、あんたらのうまいパブリシティで、価値は十倍にもなるねんよ。自分は一万五千円のもんつけてる、自分はそれだけの価値がある女だっていう思いが、女を綺麗にするんと違う
沙美は、新しい職場で、女性に夢と美を売る化粧品のPRという仕事に精を出します。職場は戦場といいますが、沙美の会社も例外ではなく、
査定で一番厳しくやられるのはね、うちの化粧品がどの雑誌に何センチの大きさで何回出たかということ。定規で計って評価されるの
沙美はあたかも「保険のおばちゃん」と化して、各出版社の女性誌の編集者たちに、自社の商品を手土産に、雑誌に掲載してもらえるようPRのキャラバンに繰り出します。
雑誌のビューティ担当の編集者は、各社のPR担当者たちから、毎月ダンボール二個分の化粧品を貰うという。数が多過ぎて一万五千円する美容液を、足の裏に塗る者もいるほどだ。
なんともうらやましい話ですね。沙美のPRも功を奏し、有名女性誌に自社商品を宣伝する記事を掲載してもらう約束をとりつけます。
ところが沙美はフィアンセの両親と食事の約束をしていた夜に、自社の化粧品を掲載すると約束をこぎつけていた雑誌社に手のひらを返され、トラブル処理に追われるうち、食事会をすっぽかしてしまいます。その夜、沙美は、仕事の契約と恋人をいっぺんに失ってしまうのでした。
結婚というゴールを失った沙美は、なりふり構わず邁進します。女性の憧れの高級女性誌に自社製品を掲載してもらいたい沙美は、そこの編集長が大のワイン通と知り、なかなか手に入りづらい年代物のペトリュスを探して東奔西走。その甲斐あって、コリーヌ化粧品は大幅に売り上げがアップしました。その様子を見ていた上司は、沙美を評してこんな意味深発言をします。
“女性には二通りある。仕事と寝ることが出来る女と出来ない女です”
この上司の言葉は予言かつ警告でした。それからしばらくして、コリーヌ化粧品と付き合いのある各出版社にこんな怪文書がばらまかれたのです。
やり手という評判をとった北村沙美。北村女史といえば、誰とでも寝ることでは定評のある「させ子」として業界一の呼び声が高い。部長の愛人という地位を利用してやりたい放題してきた。
この手紙の内容は根も葉もないウワサなのでしょうか。送り主はだれでしょうか。果たして沙美はこのまま泣き寝入りするのでしょうか。それとも復讐を企てるのでしょうか。続きは本作でお楽しみください。
おわりに
恋愛、結婚、不倫、美容、ファション、仕事と、世の女性の関心事に全方位の高いアンテナを張り巡らせた作品で、つねに私たちが強く美しく生きるヒントを与えてくれる林真理子。林真理子の金言はまさしく現代女性必須の読む「サプリ」と言っても過言ではありません。
初出:P+D MAGAZINE(2019/07/23)