瀬戸内寂聴『わかれ』
【今を読み解くSEVEN’S LIBRARY】
話題の著者に訊きました!
瀬戸内寂聴さん
JAKUCHO SETOUCHI
1922年生まれ。’57年「女子大生・曲愛玲」で新潮社同人雑誌賞、’61年『田村俊子』で田村俊子賞、’63年『夏の終り』で女流文学賞を受賞。’73年平泉中尊寺で得度。’92年『花に問え』で谷崎潤一郎賞、’11年『風景』で泉鏡花文学賞などを受賞。’98年『源氏物語』の現代語訳を完訳。
この頃、人と
さようならって言う
ときに、もしかしたら
これで会えないの
かなって思うの
在りし日の思い出、
年若き男との“恋愛”
など、自分の過去と
死の影を見つめ綴る
新たなる代表作!
新潮社 1512円
91才・女性画家の「先生」と、女たらしの50才、カメラマンの「翔太」は、年齢差を超えて本音を通わせ合う仲。自分が関係を持った女性とのことを赤裸々に明かす翔太は、先生の心を温めるが、ある日、突如姿を消してしまう―表題作「わかれ」のほか、今は亡き吉行淳之介や武田泰淳のことを描いた「約束」「紹興」など、どれも死の影がありながら、決して後ろ向きではない、命のたくましさが感じられる珠玉の9作品。
’03年発表の「紹興」から’15年発表の「わかれ」まで収録された短編は全9作。瀬戸内寂聴さんはその間に卒寿を迎え、’14年は腰椎圧迫骨折で入院。療養中に胆のうがんが見つかるなど大きな変化があった。
「でも、小説を書くときには自分の年を忘れていますから。だから90になったからこういう小説って、そういうものじゃなくて、書くときはいつも若い気持ちのままです。もしかしたら純文学短編集を出せるのはこれが最後かもしれないが、一冊になったものを読んでみて、みんなしっかり書いてあり、安心しました」
苛酷な闘病と精力的な執筆の日々を記録したNHKスペシャル『いのち 瀬戸内寂聴 密着500日』(11月22日放送)も話題を呼んだ。特に深夜に肉を食べ、シャンパンを飲む姿は反響が大きかったという。
「ああいうことを映させたということは裕さん(中村裕ディレクター)を信頼しているから。ただ、裕さんが(寂庵に)来たときだけ、うちの女の子たちが肉をご馳走しているのに、年がら年中、私たちが肉を食べているようで、けしからんって言って、彼女たち怒ってるんですよ。それから、みんなが私は肉とシャンパンが好きだって誤解して、どんどん送られてくるので、うちは今や肉だらけ酒だらけです(笑い)」
-実際は週に何回ぐらい肉を召し上がるんですか?
「まあ、あれば毎日少しずつ食べますけど(笑い)、そんなに好きでもないんです。ただ、これはもう実感なんですけど、とにかく芸術家は肉を食べないと、頭が早く衰えて、駄目になりますね。だから私は今、93才でしょう。まだ脳は全然大丈夫ですよ」
収録作品の中で特に好きな作品は?と尋ねると、「山姥」と即答した。描かれるのは、年齢差を超えて惹かれ、心通わせる男女関係だ。表題作「わかれ」のモチーフでもある。
「私はセックスを伴わない恋愛もあると思うんです。だから、それを書いた。セックスを伴ったら、ゴタゴタギトギトして嫌な面も生じるけれど、セックスを伴わない恋愛って、ヤキモチがないから、なかなか良いんです。ただ、そういう関係って、長くは続きませんね。小説でも、どこかで消してやろうと思って(笑い)」
男と女の「わかれ」の先には、いずれ誰にも必ず訪れる死がある。全作に通底するそれには、93年生きて、多くの人を見送ってきた瀬戸内さんの実感が籠もっている。
「結局、生まれたら死ぬんだから、死ぬために生まれてきて、別れるために会うんですね。だからやっぱり会うことは死ぬことだから、この頃、人とさようならって言うときに、もしかしたらこれで会えないのかなと思うの。あなたと会っても、さようならって帰ったら、私はあなたの後ろ姿をずうっと見てるんですよ」
素顔を知るための
SEVEN’S Question―2
Q1 最近読んで面白かった本は?
11月は三島由紀夫が亡くなった月でしょう? 私は三島さんと非常に縁があったから、いつも11月は三島さんのことを思って、’15年も三島さんの関連本を読んだりして偲びました。
Q2 普段はどんな食事を召し上がってるんですか?
普通の食事ですよ。食事を作るほどの気分的余裕がないから、今いる人が作ってくれるんです。この頃、若い子がいるから、若向きのようなものを作ってくれて。それも黙って食べています(笑い)。
Q3 最近気になる出来事は?
今の政治ですね。それからテロがやっぱり日本にも来るでしょうね。
Q4 親しい人が亡くなっていくのは本当に寂しいことですね。
でも、本当にたくさんの人を見送ってしまうと、向こうへ行ったら会えるっていう気がしていますね。感覚として、体が焼けたって、魂は残るんじゃないかと思います。
Q5 2016年の抱負は?
もう私は書くしかないですから。講演なんて行ったらくたびれるんですよね。だからもうとにかく書くことでいっぱいだと思います。
*本インタビューは、電話で行いました。写真は’15年11月15日の紫式部文学賞贈呈式の時のものです。
(撮影/林景沢)
(女性セブン2016年1月1日号より)
初出:P+D MAGAZINE(2016/01/23)