【美しく、高度な文章が高評価】川端康成のオススメ作品を紹介
大正から昭和の戦前・戦後にかけて活躍した近現代日本文学の頂点に立つ作家の一人である川端康成。大学時代に菊池寛に認められ文芸時評などで頭角を現した後、横光利一らと共に同人誌『文藝時代』を創刊しました。今回は川端康成のおすすめ作品5冊をご紹介いたします。
日本を代表する近代文学作家、川端康成。『雪国』や『伊豆の踊子』などは、教科書に登場することも多いので読んだことがある方も多いと思います。川端康成は1968年に、日本人で初めてノーベル文学賞を受賞。受賞の対象となった作品は『雪国』、『千羽鶴』、『古都』、短編『水月』、『ほくろの手紙』などで、受賞理由は「日本人の心の精髄を、すぐれた感受性をもって表現、世界の人々に深い感銘を与えたため。」と言われたように川端作品の魅力は感受性と繊細な描写にあると言えます。
雪国
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4101001014
世界的にも大変評価が高く、広く世界中で翻訳されている作品です。物語の舞台は新潟県の越後湯沢温泉。妻子持ちの男性が、温泉街で働く芸者と関係を重ねていく物語です。小説というより詩を読んでいるような感覚に、美しくて詩的な情景描写が特徴的です。日本の四季の美しさも見事に文章で表現されています。少し難解な印象を受ける部分もありますが、それも川端作品の魅力のひとつとなっています。川端康成の代表作を通して、日本文学の素晴らしさ、日本語の美しい表現を堪能してください。
頑なに無為徒食に生きて来た主人公島村は、半年ぶりに雪深い温泉町を訪ね、芸者になった駒子と再会し、「悲しいほど美しい声」の葉子と出会う。人の世の哀しさと美しさを描いて日本近代小説屈指の名作に数えられる、川端康成の代表作。
伊豆の踊子
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4101001022
川端康成が19歳の頃に伊豆へ一人旅に行った時の経験がもとになって描かれた作品。一人旅に出た青年は、旅の途中で旅芸人の一団に出会います。青年はその一員である14歳の少女に淡い恋心を抱くようになります。女性として意識しつつもまだ幼さの残る少女に対する青年の思い、少女との交流を通して青年の悩んでいた心には変化が起こります。心情の揺らぎや変化などが、美しい文章で繊細に表現されています。
紅葉の美しい、秋の伊豆を旅する学生が出会った、ひとりの踊子。いっしょに旅をしながら、学生は、まだ少女のあどけなさをのこした、かれんな踊子に、しだいに心ひかれていく。だが、みじかい旅はすぐに終わり、ふたりのわかれは、すぐそこにせまっていた。
眠れる美女
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4101001200
主人公は海辺に建つ「眠れる美女」の宿を訪れます。そこでは、会員制のクラブで老人男性が睡眠薬服用で眠っている若い女性と添い寝をするというサービスが提供されていました。若い女性の裸体を眺めながら、主人公は自分の過去を振り返ります。初恋の女性との思い出、過去に関係を持った女性のこと。若い女性の裸体を前にした主人公の心情など、官能的な表現が見事な作品です。日本をはじめ、フランスやドイツ、オーストラリアでも映画化されています。
波の音高い海辺の宿は、すでに男ではなくなった老人たちのための逸楽の館であった。真紅のビロードのカーテンをめぐらせた一室に、前後不覚に眠らされた裸形の若い女―その傍らで一夜を過す老人の眠は、みずみずしい娘の肉体を透して、訪れつつある死の相を凝視している。
古都
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4101001219
古都京都を舞台に、双子の姉妹の人生を描いた作品です。生き別れになっていた双子の姉妹は街で偶然出会いますが、それまで別々に生きてきた長い時間の溝は簡単には埋まりません。姉妹の心情描写はもちろんですが、古都京都の街並みや情景の描写が素晴らしく川端康成の描く世界にひたりきってしまいます。繊細な情景描写は川端作品の魅力ですが、高度な表現方法ゆえに難解な印象を受ける読者も多いのは事実です。しかしこの作品は川端作品の中でも読みやすいと定評のある作品なので、近現代文学に苦手意識のある方や初めて川端作品を読む方におすすめの作品です。
捨子ではあったが京の商家の一人娘として美しく成長した千重子は、祇園祭の夜、自分に瓜二つの村娘苗子に出逢い、胸が騒いだ。二人はふたごだった。互いにひかれあい、懐かしみあいながらも永すぎた環境の違いから一緒には暮すことができない…。
親友
新生中学1年生の同級生であるめぐみとかすみの2人。2人は共通点も多く、親友になりますが些細なことで友情が壊れそうになることを繰り返します。少女2人の美しく脆い友情が描かれています。3作品が残されていて少女小説の人気も高い川端康成。昭和14年に「セウガク一年生」12月号に掲載された短編小説、『樅の木の話』も同時収録されています。
新制中学1年生のクラスメートであるめぐみとかすみは、同い年で同じ誕生日。赤の他人なのに従姉妹と見間違えられるほど似ていた二人は、自然と「親友」になっていく。
最後に
川端康成がノーベル文学賞を受賞した際に、受賞記念講演でスピーチした『美しい日本の私ーその序説』は翌日には各新聞が全文を掲載し、翌年1969年には単行本として出版されました。和歌を引用して、日本独特の美意識などを解説しています。川端康成がどのような思いで美しい文章や作品を書き上げてきたのか興味のある方は、川端文学と併せて読んでみるのもいいかもしれません。
今回ご紹介した『親友』と、川端康成の珠玉の「青春小説」二編が甦った『遠い旅・川のある下町の話』の2作品は、P+D BOOKSで好評発売中です。
試し読みも公開していますので、是非チェックしてみてください。
『親友』のためし読みはこちら
『遠い旅・川のある下町の話』のためし読みはこちら
初出:P+D MAGAZINE(2016/10/25)