小説は“濡れ場”の宝庫だ! 純文学の筆が勃ちすぎなベッドシーン【15選】

古今東西の小説の中から、極上の“濡れ場”を15シーン集めてみました。明治の文豪から現代の人気作家まで、小説家たちが描くエロティックで美しい(時には滑稽な)濡れ場を、心ゆくまでお楽しみください!

“濡れ場”のある小説は好きですか? ――読書好きな方の中には、そう聞かれて素直に「三度の飯より大好きです!」と答える方よりも、「いや……まあ……それも立派な文学の一部だし……」と言いながらもニヤついてしまう方が多いことと思います(※P+D MAGAZINE調べ)。

今回は、そんなムッツリ文学スケベな皆さまのために、古今東西の小説の中からとっておきの“濡れ場”を15シーン集めてみました。あれこれと御託を並べるよりも、個性豊かな濡れ場の数々を早々にご覧いただきたいと思います。
明治の文豪から現代の人気作家まで、小説家たちによるベッドシーンの饗宴をお楽しみください!

 

さすが文豪! 気高くもエロい濡れ場4選

1.肉の熱い微風がさまよい出ている――『春の雪』

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夏薊なつあざみの縫取のある半襟の、きちんとした襟の合せ目は、肌のわずかな逆山形をのこして、神殿の扉のように正しく閉ざされ、胸高に〆めた冷たく固い丸帯の中央に、金の帯留を釘隠しの鋲のように光らせていた。しかし彼女の八つ口や袖口からは、肉の熱い微風がさまよい出ているのが感じられた。

清顕は聡子の裾をひらき、友禅の長襦袢の裾は、紗綾形さやがたと亀甲の雲の上をとびめぐる鳳凰の、五色の尾の乱れを左右へはねのけて、幾重に包まれた聡子の腿を遠く窺わせた。しかし清顕は、まだ、まだ遠いと感じていた。まだかきわけて行かねばならぬ幾重の雲があった。
――三島由紀夫『春の雪―豊饒の海・第一巻』より

最初の濡れ場は、三島由紀夫が死の直前まで書いていた長編小説、『豊饒の海』の第1巻である『春の雪』のワンシーンです。華族の娘である聡子は許嫁がいながらも、弟のような存在の幼なじみ・清顕に思いを寄せ続けている……というザ・禁断の恋。

キスは済ませていたふたりが、初めて肉体関係を結んでしまうのがこの場面。自分の立場を思って始めは拒否する聡子ですが、だんだんと帯を解く清顕の手を助けるようにして着物を脱がされてゆきます。幾重にも重なる着物を前に、(裸体が)“まだ、まだ遠い”と感じる清顕の緊張がこちらにも伝わってくるかのよう。思わず声に出して読みたくなってしまう、格式高く重厚な濡れ場です。

 

2.快楽のほかなにひとつない、ああ!ああ! ――『性的人間』

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それから不意に詩人は、朗読者が性的に昂奮しているのだと気がつく。熱をおび、乾き、いわけなくふるえをおび、甲高く細く、しだいに不安定に速度を加える声。時どき、不つりあいにまのびする休止。(中略)
それから意味のない声が、詩の朗読にまぎれこみはじめる。歌いながら駆けている長距離走者の声。彼女はあえぎはじめている、そしてなおもちこたえようとして力んでいる。ああ、ああ、と声は飴色のテープから流れでる、ああ、ああ、あそこには、ただ、秩序と美しさと贅沢さ、静けさと快楽のほかになにひとつない。ああ、ああ、ただ、秩序と美しさと、贅沢さ、静けさと、ああ、ああ!快楽のほかなにひとつない、ああ!ああ!なにひとつない、ああ!

ノーベル文学賞受賞者である大江健三郎による作品、『性的人間』。こちらは女性が乱交パーティーの傍らでボードレールの詩を朗読しているという、なかなかにアブノーマルなシーンからの引用です。

『性的人間』は映画の撮影のために貸し切られた別荘での乱交パーティーが繰り広げられる前半部分と、主人公のJが痴漢願望を持つ少年と出会う後半部分から成ります。社会的なルールから大きく外れる行為の中に社会からの解放を見出す人間の姿を描いた、衝撃的な作品です。

特徴的なのは、乱交パーティーの様子がはっきりとは描かれていないこと。ストレートにではなく、あえぎ声混じりの詩の朗読を録音したテープを聞く、という形で表現されています。クリエイターたちの乱交パーティーは、私たちの想像のはるか上を行く様子であったようです。

 

3.彼女は、背中がこんなに美しいことを知っているだろうか――『痴人の愛』

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私の手にある剃刀は、銀色の虫が這うようにしてなだらかな肌を這い下り、その項から肩の方へ移って行きました。かっぷくのいい彼女の背中が、真っ白な牛乳のように、広く、うずたかく、私の視野に這入って来ました。一体彼女は、自分の顔は見ているだろうが、背中がこんなに美しいことを知っているだろうか? 彼女自身は恐らくは知るまい。それを一番よく知っているのは私だ、私は嘗てこの背中を、毎日湯に入れて流してやったのだ。あの時もちょうど今のようにシャボンの泡を掻き立てながら。………これは私の恋の古蹟だ。私の手が、私の指が、この凄艶せいえんな雪の上に嬉々として戯れ、此処を自由に、楽しくんだことがあるのだ。今でも何処かに痕が残っているかも知れない。………
――谷崎潤一郎『痴人の愛』より

“女王様”を描かせたら右に出る者はいない文豪、谷崎潤一郎『痴人の愛』は日本文学史に残ると言っても過言ではない魔性の女・ナオミに、主人公・譲治が翻弄され続けやがて征服される、マゾヒズムの教科書のような作品です。

「濡れ場」を単にセックスシーンと定義するなら、実はこの作品にははっきりとした「濡れ場」は存在しません。引用したのは、一度はその奔放ぶりに嫌気が差し、家から追い出したかつての恋人・ナオミと再会した譲治が「肌には一切触れずに毛を剃ってくれ」というナオミの無茶なお願いを聞き入れている、いわば“おあずけ”的シーンです。

剃刀をナオミの美しい肌に滑らせながら、譲治はいつしかナオミを抱いていたかつての日々を思い出してしまいます。毛を剃っているだけなのに“これは私の恋の古蹟だ”とまで思ってしまう、譲治の痛ましいほどの愛情が伝わってきます。

 

4.なかのしめりが出てきてなめらかになった――『眠れる美女』

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江口の指にふれた娘の歯は、指にほんの少しねばりつくものにぬれているようだった。老人の人差指は娘の歯ならびをさぐって、くちびるのあいだをたどっていった。二度三度行きつもどりつした。脣のそとがわのかわき気味だったのに、なかのしめりが出てきてなめらかになった。
――川端康成『眠れる美女』より

こちらも直接的なセックスシーンではないものの、“寝ている女性の体に触れる”という官能的なシーンです。主人公の江口老人は、人気ひとけのない宿で全裸の娘と一晩添い寝ができるという、限りなく犯罪に近い会員制のサービスを利用しています。

性行為をすることは宿のルールで禁じられているものの、江口は睡眠薬で眠っている美しい娘を前に、つい手を出してしまいそうになります。思わず娘の口に触れ、その中に指を入れてしまう……というのがこの場面。執拗なまでの唇のエロティックな描写からは、江口の興奮がピークに達していることが窺えます。

優しくしてくれなきゃ嫌! 愛のある濡れ場3選

5.私は彼女のからだと沢山の入り組んだ会話を取りかわした――『娼婦の部屋』

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その日、私はしずかにからだを秋子の軀に寄り添わした。傷ついた二匹の獣が、それぞれ傷口を舐めながら、身を寄せ合い体温を伝え合っている形になることをおそれまい、と私は思った。秋子もしずかに私を受容れた。私は全く口をきかなかったが、私は彼女の軀と沢山の入り組んだ会話を取りかわした。荒々しい力を加えていた時には分らなかったさまざまの言葉が、彼女の軀から私の軀に伝わってきた。
――吉行淳之介『娼婦の部屋』より

パートナーとマンネリ気味になりかけているときに、ベッドで工夫を凝らしてみたら思いのほか関係が改善した、という経験をしたことがある方は多いのでは。

吉行淳之介『娼婦の部屋』は、主人公である雑誌記者が娼家の立ち並ぶ街で娼婦・秋子と出会い、別れるまでを描いた短編小説です。嫌なことがあったときにしか自分の店に来ない、いつも乱暴だと秋子に不満を言われた主人公が、趣向を変えて優しく、静かに秋子を抱くのがこのシーン。言葉を交わさない代わりに彼女の“軀”と会話を交わした、という詩的な表現が光ります。

 

6.世界で一番柔らかいものが、動き回っている感じ――『人のセックスを笑うな』

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彼女はガチャガチャとオレのベルトを外してくれた。そして、取り出すと、指を動かした。それから、舌でつつんでくれた。世界で一番柔らかいものが、動き回っている感じだ。
「どんな気持ち?」
ユリがオレの顔を見る。
「ふがいない」
と、答えた。
「いいね、それ」
彼女は、クスクス笑った。
――山崎ナオコーラ『人のセックスを笑うな』より

山崎ナオコーラのデビュー作である『人のセックスを笑うな』。センセーショナルなタイトルとは裏腹に、19歳の美術専門生のみるめと39歳の美術講師・ユリの純愛を描いた瑞々しい作品です。

引用箇所からも分かるように、山崎ナオコーラの描くベッドシーンは一貫していやらしくなく、カラッとしています。フェラチオを“世界で一番柔らかいものが、動き回っている感じ”と形容したり、感想を聞かれた主人公が「ふがいない」と答えるなど、ハイセンスでどこか茶目っ気のあるやりとりが、ひと回り以上年上の女性との不倫というメロドラマティックな状況を、活き活きと魅力的なものにさせています。

合わせて読みたい:山崎ナオコーラ『美しい距離』インタビュー。私たちは、死ぬ時だって社会人だ。

 

7.俺のすてきな犬。俺の額子。俺の。俺の――『ばかもの』

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「あおっ」
 額子が吠える。きつく巻き付いていたあそこの肉が崩れるように柔らかくなり、それからまた、吸い付いてくる。
「うっ、うっ」
 額子が吠える。吠えればいい、俺のすてきな犬。俺の額子。俺の。俺の。
「額子、すげー気持ちいいよ」
「……」
「額子も気持ちいい?」
「っせーな」
 ああ、ここで額子がかわいい声を出したら俺はイクところだった、とヒデは思う。間一髪。それでも額子は両脚をヒデの腿にからませてくるのだ。
――絲山秋子『ばかもの』より

『ばかもの』は、大学生のヒデと年上の女性・額子の恋愛を描いた長編小説です。お読みいただければ分かるように、額子はベッドでも決してヒデに甘えない、強い女。ヒデはそんな額子にベタ惚れしていて、このシーンではまるで実況中継のように繰り出される言葉から、ヒデの中の“額子愛”が炸裂している様子が伝わってきます。

額子は愛想のないクールな女性ですが、「気持ちいい?」と聞かれて「っせーな」と返すようなツンデレさも持ち合わせている魅力的なキャラクター。タイトルにもなっている「ばかもの」は、ベッドシーンのあとに「かわいい」とヒデに言われた額子が照れたように返したひと言です。

 

愛と激情は紙一重? 切ない濡れ場4選

8.「火がつく……」「灼ける」「死のう……」――『失楽園』

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潤った秘所は男をしっかりととらえ、そのまま久木がリードするというより、凛子が一方的に動く形で奔り出し、やがて「火がつく……」とつぶやき、「灼ける」という声に耐えきれなくなって、久木が果てると、それに誘われたように凛子が叫ぶ。
「死のう……」
――渡辺淳一『失楽園』より

発行部数300万部を誇り、そのタイトルが流行語にもなった『失楽園』。濡れ場の多さで、1997年の発表時には大きな話題を呼んだ作品です。

お互いに妻も夫もいる主人公・久木祥一郎と不倫相手・松原凛子の不倫関係は、逢瀬を重ねるごとにヒートアップしてゆきます。この場面は、どちらともなく“死”を意識し始めた2人が性交の末、初めて「死のう」と口に出してしまうシーン。もはやお互いのことしか見えなくなってきていた祥一郎と凛子の、燃え上がるような恋心が伝わってくる情熱的な濡れ場です。

 

9.持て余すほどの欲情はいま生まれたのではなくて眠っていただけだ――『ナラタージュ』

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彼がうつむいていた顔を横に向けて袖から腕を引き抜き、こちらに向き直ると、淡い光と闇の中ではっきりと初めて出会う男性の姿が浮かび上がった。(中略)
 一本一本が精巧にできた器具のような指に残酷なほど冷静に引っ掻き回されるたび、顔をしかめてはそむけ、言葉にならない言葉で答え、やがて下着もすべて脱がされ部屋の鏡にさらされたのはまったく見覚えのない自分だった。
 持て余すほどの欲情はいま生まれたのではなくて眠っていただけだと知り、砂地から水辺へ駆けるように落ちていく。
――島本理生『ナラタージュ』より

ただただ美しい、としか言えない濡れ場です。2017年10月に映画化されるなど、島本理生の作品の中でもダントツの人気を誇る『ナラタージュ』。教師と生徒という禁断の関係を描きながらも、その透明感あふれる文体とリアリティのある会話は、本作を普遍的で純度の高い恋愛小説に仕上げています。

これは、主人公の泉と教師である葉山がクライマックスに初めて体を重ねるシーン。ずっと好きだった葉山の体を初めて見て“初めて出会う男性”と形容する泉は、服を脱いだ自分の姿さえ“見覚えがない”と感じます。それほどまでに、葉山との性交は泉の中で特別で、待ち焦がれたものだったということでしょう。

合わせて読みたい:島本理生の代表作『ナラタージュ』が映画化。作品に共通する魅力に迫る。

 

10.僕がそれまでに聞いたオルガズムの声の中でいちばん哀し気な声だった――『ノルウェイの森』

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暖かい雨の夜で、我々は裸のままでも寒さを感じなかった。僕と直子は暗闇の中で無言のままお互いの体をさぐりあった。僕は彼女にくちづけし、乳房をやわらかく手で包んだ。(中略)
 僕はペニスをいちばん奥まで入れて、そのまま動かさずにじっとして、彼女を長いあいだ抱きしめていた。そして彼女が落ちつきを見せるとゆっくりと動かし、長い時間をかけて射精した。最後には直子は僕の体をしっかり抱きしめて声をあげた。僕がそれまでに聞いたオルガズムの声の中でいちばん哀し気な声だった。
――村上春樹『ノルウェイの森』より

「やれやれ。僕は射精した」なんて彼の文体とストーリーを模したジョークが広まるほど、ストーリー序盤での濡れ場の出現率に定評のある作家・村上春樹。代表作である『ノルウェイの森』は、「100パーセントの恋愛小説」というキャッチフレーズも相まって、日本文学史上でも最大級のヒットを記録しました。

主人公のワタナベが、死んだ親友・キズキの彼女であった女性、直子と初めて関係を持つシーンです。描写は王道ながらも美しく、エロティックな雰囲気というよりも、共通の友人のキズキを失ったことに由来する物悲しさに満ちています。ベッドシーンの背景に“暖かい雨”が降っているのも、傷ついた2人の心を効果的に表現しています。

 

11.「いい子で待ってたんだね」――『ミクマリ』

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あんずがごきゅっ、と大量につばを飲み込むへんな音がした。あんずの中心から伸びたコードをゆっくり引っ張ると、液体があふれてシーツに大きなしみをつくった。おれは「なにかのアニメのなんとかという役」になりきって、「いい子で待ってたんだね」という気持ちの悪いセリフを口にする。(中略)
「出ちゃう」
おれが思わず言うと、あんずが身をかがめておれの耳元で「いっぱい出していいよ」とほんとうに小さな声で言った。それは、「なにかのアニメのなんとかという役」の女ではなく、あんずの素の声で、おれはそれを聞いたとたん、がまんできなくなって、あんずの中で激しく射精した。
――窪美澄『ミクマリ』より

連作長編『ふがいない僕は空を見た』の中の1編、『ミクマリ』のワンシーンです。主人公の斎藤は、アニメキャラのコスチュームを着て台本通りに年上の主婦・あんずとセックスをすることで、あんずからお金をもらっています。

あんずがアニメキャラに扮した斎藤の姿に興奮しているのに対し、斎藤はあんずの“素”の声にしか興奮することができない、というのが切ない場面です。いびつな2人の関係は、やがて性欲のみのつながりを超えてほのかな恋愛感情へと変わってゆきます。

 

12.わたしは、本当に、これほど、はしたなくは、ないのよ――『パプリカ』

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パプリカは畳に寝て能勢と抱きあう。畳にこもる熱気は青春の抑圧されたものの熱気。窓の外の木立。だからこそわたしはできるだけしどけない恰好をして。そんなことをパプリカが思っている。そう。できるだけ恥かしい恰好を。ふたりはすでに裸だ。媚態。(中略)
本当のわたしじゃないのよ。わかってるよ。それがわかってるからこその、この高まる情感なのだろう。わたしは、本当に、これほど、はしたなくは、ないのよ。能勢さんを興奮させるためよ。わかってる。もう興奮してるよ。急速に比例の直線。激情。ああ。パプリカ。もう、ぼくは、もうどうしようもなく、興奮してるよ。興奮してるよ。もう、どうしようもないよ。能勢は切なげに呻き、射精する。
――筒井康隆『パプリカ』より

精神医学研究所の優秀な研究者である一方、サイコセラピストとして働く敦子。彼女は他人の夢に入り込み、精神病を治療する夢探偵「パプリカ」としての顔も持っていて……という風変わりなストーリーです。

やがて研究所内でポスト争いが起こる中、夢の世界で悪人たちと戦うことになったパプリカ。夢から抜け出せないという絶望的な状況で、パプリカは協力者である能勢に「わたしを犯して」と伝えます。それは、「夢の中の性行為は、目が覚めるきっかけになる」という仮説によるもの。

パプリカと能勢のベッドシーンは情熱的です。それは、「夢の中から目を覚ますため」とは言いながらも、2人の会話からその燃えるような恋心が強く滲み出ているからに他なりません。

合わせて読みたい:SF御三家のひとり、筒井康隆。色褪せない人気の秘密を探る。

 

カオス&アブノーマル! 自己責任で読んでほしい3選

 

13.「滅茶苦茶にして。全部忘れさせて」――『○○○○○○○○殺人事件』早坂やぶさか

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なんだっけこれ

俺たちは知り合って三日目とは思えないほど密着し、唇と舌を貪り合った。らいちは素早くしゃがみ込んでフェラチオを始めた。左手で自分の股間を触りながら、右手を俺の肛門に伸ばしてくる。そこは初めてだったので精神的な抵抗はあったが、実際のものはスムーズに俺の中に入ってきた。人差し指と中指だ。その二本が内側から俺を愛撫する。前後からの快感に耐え切れず、あっという間に口の中に射精した。
慌ててティッシュを取りに行こうとすると、らいちは喉を鳴らして飲み下し、泣き笑いの顔で言った。
「滅茶苦茶にして。全部忘れさせて」
――早坂吝『○○○○○○○○殺人事件』より

早坂やぶさか『○○○○○○○○殺人事件』。このシーンを一読しただけではスタンダードな濡れ場のように感じるかもしれませんが、これが(タイトルに「殺人事件」とある通り)ミステリー小説である、と聞けば驚く方も多いのでは。

アウトドア好きな男女グループが夏休み、集まった孤島で殺人事件に巻き込まれる――。そんなミステリーの王道とも言えるストーリーは、女子高生探偵・上木らいちの出現でがらりと様相を変えます。らいちは多くの客と“援助交際”をする“援交探偵”。引用箇所は主人公・沖とらいちのベッドシーンですが、作品中にはしつこいほどに濡れ場が挿入され、中盤からは「これ、いる?」と思わされてしまうほど。

しかし、『○○○○○○○○殺人事件』の魅力は、濡れ場ですら伏線であること。ただのベッドシーンと思っていた箇所が実は事件のトリックにもつながる重要な場面だった……という興奮を、ぜひ味わってみてください。

 

14.「お皿は、お尻をのっけるためにあるのよ」――『眼球譚』

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たまたま、廊下の片隅に猫用のミルクを入れた皿が置かれていた。
「お皿は、お尻をのっけるためにあるのよ」シモーヌが言い出した。「賭をしない? あたしこのお皿の上に坐ってみせるわ。」(中略)
 私の顔をまともに見つめながら、徐々に彼女はしゃがみ込むのだった、ほてったしりを冷たいミルクの中に浸すさまはスカートのかげになって私には見えなかったが。(中略)
私は彼女の足元に腹ばいになった、が彼女のほうは身じろぎもしなかった。こうしてはじめて私は、白いミルクの中で冷やされた彼女の《ピンク色と黒色の肉体》を目にしたのである。
――ジョルジュ・バタイユ『眼球譚』より

「20世紀の文学史上、もっとも重要なエロティシズム文学」と評価されることも多い、いわばエロ文学の最高潮がこの作品です。少女シモーヌが周りの子供たちを巻き込みながら奇妙で卑猥な“遊び”に興じ、それがしだいにエスカレートしてゆくさまを描いています。

引用したシーンは、同作の中でもっともソフトな“遊び”の場面。今回ご紹介した作品の中で、『眼球譚』は間違いなく群を抜いてハードです。とびきり刺激的な“濡れ場”が見たいという方は、勇気を出して手を伸ばしてみてはいかがでしょう。

 

15. 「ああ悟空。もっと中へ。遠慮せずにもっと奥まで突っ込んでおくれ」――『魚藍観音記』

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観音は悟空の頭を両手にかかえ、自らの乳房の間にその頭を埋めさせ、うめくように催促し、督励する。「ああ悟空。もっと中へ。遠慮せずにもっと奥まで突っ込んでおくれ。そしてもっと激しく動いておくれ」
観音の下知とあらば遠慮はいらない。観音の腕に頭を強く抱かれ、乳房の谷間に鼻づら埋め込み、観音の芳しい肌の匂いにせて夢心地の悟空、今後このようなよきことがまたとあろうかまたとない、イかぬをさいわい、遠慮して引き加減だった腰を突き出し、ここを先途と根もとまで石猿のミサイルずびずぼずばと押し込めば、観音たまらず「あっ」と叫んでのけぞって、悟空に白い喉を見せる。
なんたる快美の愉楽であろうか。悟空ひとこすり、ふたこすりするごとに、脳裏に次つぎと牡丹、白蘭びゃくらん、芍薬など大輪の花が咲き、膣の奥、子宮の手前の小部屋に入れたシリンダーを引くごとに生じるひっかかりは、観音悟空双方に例えようもない快感を及ぼし、悟空たまらず観音の肉体、その乳白色とふくよかな胸まわりに毛むくじゃらの腕をまわして抱きしめれば、まさにとろりと溶けんばかりの柔らかさ。
――筒井康隆『魚籃観音記』より

最後の濡れ場は、筒井康隆の再登場です。『魚籃観音記』は石から生まれて以来、何百年にもわたって童貞だった孫悟空が、観音様と禁断の関係に踏み込むという衝撃的な作品。

妖怪にさらわれた三蔵法師を救うため、観音様に助けを求めた孫悟空は、早朝で肌着しか身につけていなかった観音様の艶やかな姿に思わず発情してしまいます。やがて悟空の興奮は観音様にも伝わり、ふたりは体を重ねるのでした……。

タブーを吹き飛ばすかのごとく、悟空と観音様のセックスシーンをフルスロットルで描けるのは、破茶滅茶なギャグも得意とする筒井康隆ならでは。あの手この手で表現される官能的なシーンに、笑いつつも驚かされること間違いなしです。

 

おわりに

古今東西の作家による濡れ場セレクション、お楽しみいただけたでしょうか?
ひと言で“濡れ場”と言っても、美しく扇情的なシーンから思わず笑ってしまうようなシーンまで、さまざまな愛や性欲の形が窺えたことと思います。
気になる作品が見つかったら、きっかけは「なんかエロそう」というだけでも構いません。ぜひ手にとって、その小説の世界に浸ってみてください。

初出:P+D MAGAZINE(2017/10/19)

今月のイチオシ本 ノンフィクション 東 えりか
連載対談 中島京子の「扉をあけたら」 ゲスト:長坂道子(ジャーナリスト、作家)