【人生相談本】村上春樹、町田康、遠藤周作…あの作家に“お悩み相談”してみよう!
人生に悩んだら、つい誰かにアドバイスを求めたくなるもの。名作家たちによる「人生相談本」の中から、読者のお悩みに対する唸ってしまうような名回答や、テキトーすぎる珍解答をご紹介!
いつの時代も、人に悩みはつきものです。
世界中の女性の憧れである大女優、オードリー・ヘップバーンにさえ、“鼻が高すぎる”というコンプレックスがあったとか。
あなたは人生に、自分自身に悩んだ時、その悩みをどうやって解消しますか?
恋人や大切な友人、先輩に相談するという方もいれば、自分の力で解決しようと奮闘する、という方もいらっしゃると思います。
しかし、時には周囲に意見を求めづらい悩みや、人に相談しても役立つアドバイスがもらえない悩みに苦しむこともあるのでは。――そんな時に手を伸ばしてみてほしいのが、小説家による“人生相談本”。
酸いも甘いも噛み分けた小説家たちの言葉は、時に優しく、ある時は厳しく、悩めるあなたにヒントを与えてくれることでしょう。今回は、カラーの違う3人の作家の人生相談本から、“あるある”な悩みと、切れ味鋭い回答をご紹介します。
「夜まで続く二日酔いをしろ!」――町田康のパンクすぎる回答
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小説家のみならず、詩人、ミュージシャンとしても活躍する町田康。彼の生き生きとした文章は、自然体で裏表がなく、人間らしさに溢れています。
読者から寄せられた、一筋縄ではいかない悩みの数々に答える人生相談本『人生を救え!』(共著:いしいしんじ)の中から、ユーモラスな回答が楽しめる相談を2つご紹介します。
<悩み>明るい性格になることはできるのか
自分の性格がいやでたまりません。人の失敗が許せないし、自分の思い通りにならないと納得できないし、四角四面で融通がきかなくて、欠点ばかりです。(中略)もっと明るい性格になれたらと思うのですが、恋愛以外で自分を変えることって、できるんでしょうか。(30代/女性)
<回答>
(注:あなたが人の失敗を許せないのは)あなた自身が殆ど失敗をしないからではないでしょうか? 五時に例の店でね、なんて約束をした場合、通常であれば、五分、十分の遅刻は、社会通念上、許せる範囲の遅刻なのだけれども、あなたはどんなことがあっても五時に駆けつける。ところが相手はまだ来ていない。私が五時にまにあうためにどれだけの苦労をしたと思っているのだ、(中略)へらへら笑ってごめんごめん、だと? 許せない、殺す。となるわけです。
“許せない、殺す。”と思わず、明るい性格になるために、町田は、相談者に「進んで失敗をし、人間のハードルを下げる」ことを提案します。
それは、たるんだり、ふざけたり、さぼったり、怠けたりするだけで簡単にできることです。(中略)滑稽な失敗談というのは例えば落語に多くあります。あなたはこれら落語などを勉強し、失敗のキュートな面を勉強すればよいのです。あなたの人生はとても楽になり、あなた自身もキュートな失敗ができるようになると思いますよ。
“失敗のキュートな面を勉強すればよいのです”。なんだか肩の力が抜ける、ホッとするような回答です。
<悩み>酒を飲み過ぎてしまう
このところ、酒の飲み過ぎです。(中略)朝は内臓にダメージを受けている感じで、食欲もありません。ところが、夜になると街へ出て、バーのドアを開けてしまうのです。このままだとアルコール依存症になってしまいそうで怖いです。(20代/男性)
<回答>
一緒に考えて一緒に悩みましょう。なんだったらいっぱいやりながら。
……などという前置きもしつつ、町田はこう答えます。
嬉しいにつけ悲しいにつけ酒を飲んでしまうのが酒飲みというもので、まあ、どうしても止めたいのなら最後の秘策を用いる必要があります。すなわち、滅茶苦茶に飲んで二日酔、それも夕方、いやまちっと頑張って晩方まで持続する二日酔をしてしまうのです。さすればその夜だけは酒を飲まずに済むでしょう。
二日酔いしてしまえば、その夜は酒を飲まなくて済む。――暴論極まりないですが、なんだか彼に言われると「そうかもなあ」と思わされてしまう、味のある回答です。
妻にバレないように浮気がしたい――狐狸庵先生はどう答える?
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歴史小説『沈黙』の映画化によって、いま再び注目を集めている遠藤周作。重厚かつ謹厳なテーマを描く作家というイメージの強い遠藤周作ですが、「ユーモア文学」と呼ばれるような、エンタメ性に富んだエッセイ・小説も多く遺しているのはご存じでしょうか?
その真髄を楽しめるのが、ナンセンスかつユーモア溢れる人生相談本『小説身上相談』。駆け出しの雑誌編集者・レイ子が初めて任された週刊誌の「お悩み相談」欄を人気連載にすべく、
この小説の中から、ちょっと不真面目な相談と、実用的(?)な実践方法をご紹介。
(合わせて読みたい:不朽のキリスト教文学。遠藤周作の『沈黙』が映画化されるまで)
<悩み>妻にバレないように浮気がしたい
全国の若者を代表して質問します。妻にばれないように浮気をする方法はないでしょうか。(20代/男性)
<回答>
「しかたない、秘法を授けよう。心して聞け」
「バレないように浮気がしたい」。この不謹慎な相談に対し、狐狸庵は「秘法」を伝授します。それはなんと、相談者が遅く家に帰るたびに、妻に「今夜はモテた」と自慢すること。
最初は「バカなこと言って」と呆れていた妻も、毎回「今日もよくモテたなあ」と言い続ける夫に不安を覚え始めます。そこである日、妻は夫が家に連れてきた会社の同僚に聞くのです。
「彼、近頃、お客さまの接待で行くバーやキャバレーで、もてるんですって。本当ですか」
「へえ……可哀想な奴だなァ。(中略)奥さん、奥さんには悪いけどあいつほどもてぬ奴はいないですよ」
これを聞いた妻は「モテた」と嘘をつく夫を不憫に思い、それから彼がいくら夜遅く帰ってこようとも、余裕で「はいはい」と聞き流すようになりました。なんとも卑怯ですが、相談者は浮気し放題に。まさに狐狸庵の“作戦勝ち”です。
「まことにツマラナイことを心配する」――相談者に媚びない深沢七郎
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『
1960年に発表した小説『風流夢譚』で、皇室を侮辱したとされたことが元で右翼の襲撃事件を受けた深沢は、一時、各地を放浪して執筆を続けたこともあるアウトローな小説家。彼らしい、悩みに“寄り添いすぎない”回答は、実に爽快です。
<悩み>集団生活がうまくいかない
小生、生れつきの人間ぎらいにて、どうしても集団生活がうまくゆかず、就活しても一ヶ月と保ちませぬ。(中略)力仕事には、全く自信もなく、スキ、クワを持ったら十分とは立っていられぬような虚弱体質。いっそ死んでしまおうかとも思うのですが、むろん、そんな勇気もなく、どうしたらよいものやら途方に暮れている始末です。(中略)
小生のごときものに、もっとも適切なる生き方というのは、どのようなものかを、ぜひぜひ教えていただきたいのです。(年齢不明/男性)
<回答>
まことにツマラナイことを心配するものだと思います。集団生活がうまくゆかないことなど心配する必要はありません。かく言う私も人間ぎらいだと思われているようですがそんなことはどうでもいいではありませんか、人間ぎらいと言われていても実際には人間ぎらいではない筈です。ほんとは社会生活がきらいなことなのです。
相談者の“人間ぎらい”は単なる錯覚で、本当は“社会生活がきらい”なのだと深沢は説きます。そして、集団生活に馴染めないことを心配する必要はないと言うのです。
ただ、あなたは自分の食べものを自分で得なければダメです。(中略)虚弱体質でスキ、クワも持てないというが、スキクワを使っても自分のものだけを得られればいいのですから出来ないことはない筈です。ほんとはあなたのような生きかたをみんながすればいいのですがそれはもっと人類が進歩しなければ実現出来ません。
自分ひとりが生活できればそれでいい。相談者にとっては拍子抜けするような回答かもしれませんが、文末に添えられた“あなたのような生きかたをみんながすればいい”という言葉からは、人生に意味を求めること自体がナンセンスであるという、深沢の潔い人生観が窺えます。
「彼女の元カレをSNSで見つけてしまった」――村上春樹が答えると?
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2017年2月24日に新作長編小説『騎士団長殺し』が発表になり、今まさに注目を集めている村上春樹。そのクールなイメージからは意外かもしれませんが、彼は2015年の1月から数ヶ月の間、Webサイト上に寄せられた読者からの悩みに自ら答えるお悩み相談室、『村上さんのところ』を開いていました。
すべての悩みに目を通し、選び抜いた3,716問もの相談に回答を寄せたという村上春樹。その中から、若い読者にとっては特に“あるある”な、こんな悩みをご紹介します。
(合わせて読みたい:【ノーベル文学賞ならずとも】読んでおきたい村上春樹オススメ作品5選)
<悩み>彼女の元カレをSNSで見つけてしまった
彼女が以前付き合っていた男性のことです。
そんなことはしないほうがいいとは分かっていたのですが、その男性の名前を調べたり、デートに行った時の写真などを見たりしました。(中略)
やっかみというか、嫉妬というのか。この感情は普通のものなのでしょうか? この感情は、いずれなくなるものなのでしょうか。(20代/男性)
<回答>
むずかしいとは思いますが、そういうのはなるべく見ないようにするのがいちばんです。見てしまうと、どうしても感情が傷つけられますし、そこから回復するにはけっこう時間がかかります。(中略)
彼女のことだけを見て、彼女のことだけを考えるといいと思います。彼女について、君が自分の手で第一次情報をせっせと集め、それを積み上げていくんです。それは君だけの持っている彼女についての情報だし、たぶん他の誰も知らない情報です。
SNSから得られる二次情報ではなく、自分だけが知っている恋人の“第一次情報”をしっかりと集めなさい。――こんな風に言われたら、恋人に対する相談者の愛情も、より強く確かなものになりそうです。
ちなみに村上春樹自身も、FacebookやTwitterなど、一切のSNSは見ないようにしているそう。なんだかイメージ通りですね。
おわりに――話せる悩みはいい悩み?
悩みもさまざまなら、それに対するアプローチも三者三様。それぞれの作家らしさが表れた“人生相談”を、楽しんでいただけたでしょうか。
最後にもうひとつだけ、『村上さんのところ』に寄せられたこんな相談をご紹介。
<悩み>本当に悩んでいるだけに話せません
村上さんは、迷ったり悩んだりしていることをひとに相談しますか? 相談するって難しいです。ほんとうに困っていることや、ほんとうに助けてほしいことほど、うまく話せません。(20代男性)
<回答>
そうですね。本当に困っていることって、誰にも話せません。僕も同じです。自分で考えて、なんとかやってきました。そうやって生きているとだんだん「自分力」がついてきます。「自分力」、大事ですよ。ただ偏狭にならないようにくれぐれも気をつけてくださいね。ときどき部屋の窓を開けて、空気を入れ換えることが大事になります。
小説家の力を借りるのもいいけれど、まずは“自分で考えて、なんとかやってみる”ことも大切なのかも? ……それでもやっぱり道に迷ってしまったら、今回ご紹介した本に手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。
初出:P+D MAGAZINE(2017/03/04)