池上彰・総理の秘密<14>

安倍内閣でも、その顔というべき存在が、菅義偉官房長官。歴代の内閣官房長官で最長の在位記録を更新中です。内閣の方針を説明し、いわば内閣の広報官の役割を担っていますが、他に、どのような仕事をしているのでしょうか? 池上彰がわかりやすく解説します。知っているとニュースがより面白くなり、他の人に自慢したくなるコラム。

内閣官房長官とは

内閣の顔とでもいうべき存在は、内閣官房長官でしょう。毎日朝夕に記者会見して、内閣の方針を説明します。いわば内閣の広報官の役割を果たしています。しかし、仕事はそれだけではありません。週2回の閣議では、議長をつとめ、各省にまたがる政策課題の調整もします。

そもそも「官房」とは、君主の側近が執務した部屋のこと。総理を支える側近たちが執務する部屋のトップという意味です。各省の大臣を支える部局も「官房」といい、そこのトップは官房長。まぎらわしいですが、官房長官とは別です。

総理大臣を支える役目ですから、総理から信頼されている人物が就任することが多く、しばしば「総理のお友達」と皮肉られることもあります。

さまざまな政策課題を調整して内閣の案にまとめる仕事もありますから、官房長官の能力次第で、内閣が長続きしたり、短命で終わったりもします。中曽根康弘なかそねやすひろ総理を支えた後藤田正晴ごとうだまさはる官房長官は、名官房長官としての評価が高いひとりです。危機管理のベテランとして手腕を発揮しました。

小泉純一郎こいずみじゅんいちろう総理を支えた福田康夫ふくだやすお官房長官のように、後に総理になる人材に官房長官を経験させて経験を積ませることもあります。

官房長官は、放送局のカメラや新聞社のカメラマンがいない場所で、記者たちと懇談こんだんすることもあります。ここでの官房長官の発言は、名前を出さずに、「政府首脳」という肩書きを使う慣例になっています。

かつては、「政府首脳」の発言が世論の反発を呼ぶと、官房長官が記者会見をして、政府首脳の方針を否定するという奇妙な事態が起きたこともあります。政府の新しい方針を説明して、世論の意向を見るときに使い分けるのです。

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後藤田正晴元官房長官
1983年(昭和58)9月に起きた大韓航空機撃墜事件で、対ソ連制裁措置を発表する後藤田官房長官。写真/時事通信社

池上彰 プロフイール

いけがみ・あきら
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。報道記者として事件や事故、教育問題などを取材。「週刊こどもニュース」キャスターを経て、2005年に独立。著書に『そうだったのか! 現代史』『伝える力』『1テーマ5分でわかる世界のニュースの基礎知識』ほか多数。2012年、東京工業大学教授に就任。16年より名城大学教授、東京工業大学特命教授。

(『池上彰と学ぶ日本の総理14』小学館より)

初出:P+D MAGAZINE(2017/03/03)

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