【異能力小説】特別な力があったらどうする?異能力を描いた小説の魅力。

ライトノベルやアニメを中心に「特別な力」を描いた「異能力小説」が急増しています。近年人気を集めるこのジャンルの魅力やおすすめの作品をご紹介します!

ふとした瞬間に、「もし○○ができれば良いのに」と感じたことはありませんか?

遅刻しそうになってしまった時に「瞬間移動ができれば、ギリギリまで寝ていられるのになあ」と思ったことや、何かしら失敗をしてしまった時に「時間を巻き戻せたら、同じ失敗はもうしないのに」と願ったことが誰もが一度はあるはずです。

実際に、ライトノベルやアニメを中心に、特別な能力(異能力)を扱った作品が続々と登場しており、そのどれもが多くのファンを獲得しています。それはやはり、読者の「こうだったらいいのに」といった願望が強く表れた結果でもあるのでしょう。

今回はそんな異能力を取り扱った作品の魅力を解説するとともに、異能力を持ったキャラクターが登場する小説をいくつか厳選しておススメします。

(合わせて読みたい:異世界転生ライトノベルの人気の秘密を徹底解剖!

 

異能力小説はどうして面白い?

特別な力を持つキャラクターたちが登場する“異能力もの”は、その力で戦いを繰り広げるバトルものからキャラクターの他愛もない日常を描いた“日常系”まで、ジャンルを問わずに創作されています。では、このような作品の魅力とはいったいどこにあるのでしょうか。

1.個性豊かな能力とキャラクターが楽しめる

個性も見た目も同じ人物が滅多に存在しないように、異能力ものに登場する力もさまざま。火を放つ、時間を止める、怪我を癒すなど、あげればきりがないほどです。

2017年にアニメ化が決定した西尾維新の『十二大戦』もまた、個性豊かなキャラクターと異能力が登場する作品です。

「どんな願いでも叶えられる権利」を手に入れるため、各々の能力で争い合う十二人の戦士たち。登場キャラクターはもちろん、彼らが持つ能力や叶えたい願いは十二通りに及びます。

ライトノベルやアニメを中心に異能力を扱う作品が急増している以上、力の内容が似通ってしまう可能性は少なくありません。だからこそ、今までにないような独特の能力や、力を使うキャラクターの個性を組み合わせることが作者には求められているのです。

一見飽和しがちな異能力ものですが、独特な設定や台詞を得意とする西尾維新が『十二大戦』で新たな可能性を見せてくれたといえるでしょう。

(合わせて読みたい:【西尾維新ならではの世界観】たくみな台詞回しがくせになる、名言10選

 

2.戦闘に心理戦や頭脳戦が加わる。

superpower-2
出典:http://amzn.asia/bYFxRTM

異能力を扱った作品の中でも特に人気の高い、『文豪ストレイドッグス』。古今東西の文豪と作品をモチーフに、異能力を持ったキャラクターたちが死闘を繰り広げるこの作品は、二度にわたってアニメ化されました。

『文豪ストレイドッグス』では敵対する派閥との戦闘が多く描かれていますが、相手の能力をいち早く把握したり、相手の弱点を見抜いたキャラクターが勝利を収めています。異能力者同士の戦闘では相手の情報を得ようとする一方で、自分の能力や弱点を悟られないよう巧みな心理戦も同時に行われるのです。

異能力はただ強ければいいものとは言い切れません。たとえ強力な能力を持っているキャラクターであっても、「経験の浅さから力を使いこなせない」、「無知ゆえにただ一方的にしか力を使えない」といった原因からあっさり敗北したりもします。力を最大限に使いこなせる技量や知識、もともとの性格との相性も大きく関わっているのです。

また、『文豪ストレイドッグス』の主人公、中島敦は度重なる戦闘から能力の使い方を学び、どんな敵とも互角に渡り合えるほどに成長します。能力を応用し、さらなる覚醒が見られるのも異能力を描いた小説の醍醐味といえるでしょう。

(合わせて読みたい:「文豪ストレイドッグス」に登場する小説家たちの素顔

 

3.異能力の悪い面も描いている。

異能力は現実にはありえないようなことを、いとも簡単にやってのけます。意中の人を振り向かせることも、嫌いな相手をひどい目にあわせることもその能力を使えば不可能ではありません。

一見、異能力で望むままに物事を解決できるのは、羨ましく思うかもしれません。しかし、異能力小説は力を賛美するだけではなく、その力の危うさも描いています。

superpower-3
出典:http://amzn.asia/5rmktXE

たとえば筒井康隆による、火田七瀬を主人公とした『七瀬シリーズ』では、主人公は、相手の心を読める能力者ですが、能力がばれないように家庭を転々とする住み込みの家政婦として働いています。七瀬は能力を使って家族の不満を暴いた結果、家庭を崩壊させてしまうことも珍しくありません。七瀬が力を使わなければ、不安定ながらもその家庭は続いていたはず。特別な力がもたらすのは決して良いものばかりではないのです。

 

能力別、おすすめ異能力小説5選

【感情が目に見える】:『か「」く「」し「」ご「」と「」/住野よる

superpower-4
出典:http://amzn.asia/fD8yzFb

映画化もされた『君の膵臓をたべたい』で知られる住野よるの作品、『か「」く「」し「」ご「」と「』は異能力を持った高校生たちの青春小説です。

「ミッキー、シャンプー変えた? なんで?」

(中略)

そうやってこっそり様子をうかがっていると、三木さんは質問に対して「ははっ」と花にかかった笑い方をした後、「秘密」と、頭の上にびっくりマークを浮かべて言った。訊かれたことが嬉しかったのだ。

こういう時、僕ってやつは勘繰かんぐってしまう。シャンプーが違う。それに秘密の理由がある。でも訊かれて嬉しい。

彼氏でも、出来たのかな?

物語の中心である京、ヅカ、ミッキー、パラ、エルの5人は、それぞれ記号や数字によって人の感情が目に見える力を持っています。知り得た相手の感情から深読みやお節介をしてしまった結果、すれ違いを起こすこともしばしば。

たとえば「心拍数が目に見える能力」の持ち主は常に心拍数が一定のクラスメイトを「冷たい人間」だと誤解し、「記号によって感情がわかる能力」の持ち主は深読みをしたことから相手を深く傷つけてしまいます。

それでも能力をもとにピンチを乗り切ったり、友人同士の関係を修復させるのは、彼らでなければできないこと。一長一短な能力をもとに、5人の絆がどう強まっていくのかが味わえる青春ストーリーです。

(合わせて読みたい:住野よるとは?デビューのきっかけやおすすめ作品
『君の膵臓をたべたい』が実写映画化。今最も話題を集める作品の魅力を探る。

 

【夢に入り込む】:『パプリカ』/筒井康隆

superpower-5
出典:http://amzn.asia/9D3vDQj

SF小説を数々生み出してきた筒井康隆の代表作、『パプリカ』。主人公の千葉敦子はノーベル賞最有力候補ともいわれるほどの研究者であり、サイコセラピストとしても天才的な能力を持っています。敦子はそれだけでなく、他人の夢に潜入して問題を解決する夢探偵、パプリカとしても秘密裏に活動をしていました。

敦子は夢に入り込むことで患者の治療を行うのですが、その夢はドラゴンを相手に銃で応戦したり、巨大な日本人形に押しつぶされそうになったりと荒唐無稽なものばかり。それでも敦子は患者の夢に登場した場面や人物、行動を冷静に分析し、患者の悩みや不安を気づかせた後は悩みを乗り越えるためのアドバイスを与えます。

しかしある日、夢を共有する装置、“DCミニ”で何者かが研究員の精神を崩壊させる事件が発生。敦子はDCミニを盗んだ犯人を突き止めようと立ち上がりますが、犯人の使うDCミニに翻弄された結果、夢と現実の境目があいまいになってしまいます。

パプリカは周囲を見まわした。早く眼醒めなければ。理性が急速に混濁していく。眼醒める方法は。ジャック・インしたクライエントや分裂病患者の夢から離脱して現実に戻る技法はいくつかあるが、今度ばかりはそんななまやさしいことでは覚醒に到るまい。夢世界外からの助けがあれば醒めるだろうが、助けを求めるにはどうすればいいのか。

現実に夢が入り混じり始める状況で、果たして敦子は無事に事件を解決できるのか。その手に汗握る戦いは必見です。

 

【自分の記憶を本に記録する】:『The Book-jojo’s bizarre adventure 4 th another day』/乙一

superpower-6
出典:http://amzn.asia/3O27UZc

奇抜なものから心温まるものまで、幅広いジャンルを得意とする乙一の、『The Book-jojo’s bizarre adventure 4 th another day』。この作品は、精神エネルギーが具現化した能力、“スタンド”をもとに敵と死闘を繰り広げる人気漫画、『ジョジョの奇妙な冒険』の後日談となっています。

作品の個性的なキャラクターや白熱する戦闘シーンはそのままに、乙一ならではの読者を騙すトリックが巧妙なこの小説は、“ジョジョ”ファンでなくとも思わず読み入ってしまうことでしょう。

物語は本編にも登場したキャラクター、広瀬康一と漫画家、岸辺露伴きしべろはんが町中で血まみれの猫を見つけたことから始まります。血まみれの猫を追ったふたりが民家で目撃したのは、女性の遺体でした。

不可解なのは、室内で見つかった遺体に車に轢かれた跡があったこと。さらに部屋は密室状態であったため、犯人が運んできたことも考えられません。露伴は自身の能力で事件が“スタンド”によって起こったことを知り、捜査を始めます。

小説オリジナルのキャラクター、琢馬の能力は「自分の記憶を文章に変換して記録した本」をもとにした、“The Book”。攻撃に向いているとはいえない“スタンド”で、どのように主人公たちと対決をするのか、“スタンド”を得るまでの琢馬の葛藤とはどのようなものだったのか……。

自身も熱狂的な“ジョジョ”ファンだという乙一だからこそ書けた、ジョジョと乙一の世界が融合した新たな作品をぜひ味わってみてください。

 

【条件を示したうえで相手の行動を縛る】:『ぼくのメジャースプーン』/辻村深月

superpower-7
出典:http://amzn.asia/fqgNb8G

辻村深月による『ぼくのメジャースプーン』の主人公、“ぼく”が持つ特別な能力は、「条件ゲーム提示能力」です。この能力は「Aをしなければならない。そうしなければBになってしまう」という条件を呼びかけた相手にどちらかの行動を選ばせて強制的に縛ることができるものです。

ある日、小学校で飼っていたうさぎが大学生によって惨殺される痛ましい事件が発生します。“ぼく”の幼馴染で、誰よりもうさぎを可愛がっていた“ふみちゃん”は変わり果てたうさぎを目にしたことで、固く心を閉ざしてしまいます。事件を起こした犯人から、クラスを代表して謝罪を受けることになった“ぼく”は、自らの能力をもって犯人へ罰を与えようとするのでした。

タイトルにもある「メジャースプーン」とは、料理に使う計量スプーンのこと。ふみちゃんの心を深く傷つけた犯人の罪を計り、受けるべき罰は何かを考える“ぼく”には、いつもふみちゃんからもらった宝物のメジャースプーンがありました。“ぼく”メジャースプーンを見てはふみちゃんが笑いかけてくれたことを思い出し、彼女が再び笑えるようになることを願います。

そんな“ぼく”が能力の使い方を教わろうとする叔父もまた、「条件ゲーム提示能力」の持ち主でした。一度無意識に力を使ってしまった“ぼく”に母親が「それはとても怖い、本当だったら持っていない方がいい、恐ろしい力なの。絶対に使っては駄目。」と約束させているように、「条件ゲーム提示能力」は10歳の少年には重過ぎるほどのもの。それでも“ぼく”は大切なふみちゃんのために能力を使おうとします。

この能力を使えば、相手を意のままに動かすことは簡単にできます。ただし、復讐を果たしたところで“ふみちゃん”の大切なうさぎは戻ってきません。犯人に対し、どのように力を使うべきか。そもそも、復讐は果たされるべきなのか。最終的に“ぼく”の下した決断は何だったのか。それはあなたの目で確かめてみてください。

superpower-8
出典:http://amzn.asia/jm53JEI

作者の辻村深月は文豪をモチーフにした異能力バトル漫画、『文豪ストレイドッグス外伝 絢辻行人VS.京極夏彦』の登場人物にもなっています。

この作品での辻村深月は、自身の作品タイトルに基づいた異能力、『きのうの影踏み』で影に宿った力を操る新人エージェント。異能力者としての辻村深月の活躍にも目が離せません。

 

【念じたことを相手に喋らせる】:『魔王』/伊坂幸太郎

superpower-9
出典:http://amzn.asia/dkIsj7n

伊坂幸太郎の小説、『魔王』で描かれている能力は、念じればそれを相手に言わせることができる「腹話術」というもの。主人公の安藤はふとしたことから自分にそんな能力が備わっていたことに気がつきます。

その頃、日本では、カリスマ的な魅力を持った若手国会議員の犬養が大きな注目を集めていました。政治に興味のなかった友人までもが簡単に犬養の発言に踊らされる姿を見た安藤は自分の能力をもって犬養が推し進めようとするファシズムの流れをたったひとりで食い止めようとします。

そもそも、主人公の安藤はただの会社員であり、国を動かすような力は持っていません。しかし、犬養が愛読するという宮沢賢治の『注文の多い料理店』の「人々が破滅に向かっているとも知らずに導かれる点」を「まるでファシズムだ」と思い、犬養の思惑通りになりつつある民衆に危機感を持つようになります。

民衆たちの目を覚まそうとした安藤は、街頭演説の場で犬養に能力を使おうと決意します。国民が盲目的に信じている相手にたったひとりで立ち向かうという、一見無茶と思えることに挑む安藤。その途中で彼は「ところで、たかだかそんなことで、世界は変えられるのか?世の中の流れを、洪水を、堰き止められるのか?」と思い悩みます。

絶望的な状況にある安藤ですが、彼を奮い立たせるのは「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決するんだ」という強い思い。能力こそ取るに足らないものですが、安藤は自分にできることを考えて挑んでいく勇気を持っています。

(合わせて読みたい:【読みやすく、多くの層に人気!】伊坂幸太郎のオススメ作品を紹介

 

それぞれに魅力があり、同じものがない異能力小説。

現実ではありえない力を描いた異能力小説の主人公たちは、何もかもが思い通りになる日々を送っているわけではありません。異能力を手にした者たちはその力で何ができるのかを葛藤し、ときに暴走した力で誰かを傷つけてしまったりと、楽観的なものばかりではないといえるでしょう。むしろ、彼らが手にした特別な能力は、己を見つめ直すきっかけとなっているのかもしれません。

魔法のような素敵な能力もあれば、使い方によっては何かを失ってしまうような能力まで、異能力はさまざまなものがあります。それを手にしたキャラクターがどのように力を行使するのか。その力をもってどのように敵に立ち向かうのか。異能力そのものだけでなく、使い方も重要です。

そして同じ異能力でも、キャラクターの性格や舞台設定、能力が制限される設定などが組み合わされば、作品の魅力は大きく変わります。つまり、異能力小説は作者の数だけ魅力的な作品が存在する、ひとつとして同じものはないジャンルなのです。

そんな異能力小説を読んで、あなたも「自分にもしもこんな能力があったら……」と想像したり、オリジナルの能力を考えてみてはいかがでしょうか。

初出:P+D MAGAZINE(2017/08/03)

せきしろが語る、「自由律俳句」入門
【池上彰と学ぶ日本の総理SELECT】総理のプロフィール