採れたて本!【国内ミステリ#31】

採れたて本!【国内ミステリ#31】

 ホラー小説には、「呪いをどうやって解くか」というミステリ的興味で読ませるものが少なくない。「Jホラー」ブームの火付け役となった鈴木光司の『リング』や、小野不由美の山本周五郎賞受賞作『残穢』が代表例だ。滝川さりの新作『あかずめの匣』は、その系譜に連なる新たな逸品と言っていい。

 著者は2019年、「おかえり」で第39回横溝正史ミステリ&ホラー大賞の読者賞を受賞してデビューした。作風の特色としては、「本」というかたちでホラーを発表することの必然性への重視が挙げられる。例えば、前作『ゆうずどの結末』は、角川ホラー文庫刊の小説「ゆうずど」を読んだ者が変死するという物語であり、その呪いを主人公がいかに解くかが主眼となっている。

『あかずめの匣』も呪いを解く条件を探る点は同じだが、より凝った構成となっている。まずプロローグは、親友の修司を喪った「僕」の述懐となっている。修司の故郷の村には「あかずめ」という化け物がいて、呪った相手を閉じ込めて殺すのだという。そして、修司はその村で窒息死した。そんな折り、「僕」は『あかずめ』という本を発見する。親友の死のヒントがそこに記されているのではと考えた「僕」は、藁にも縋る思いで本を読みはじめた……。

 夫と離婚した奈緒子は、7歳の娘を連れて、認知症の母が住む郷里・かんむり村で暮らしはじめた。村の住人は奈緒子に、〝窒息の家〟に行ってはいけないと告げる(「第一章 窒息の家」)。肝試しのため、冠村の〝窒息の家〟に忍び込んだ5人の男女。だが後日、彼らは次々と死んでゆく(「第二章 呪いの死者」)。高校生の彩夏は、引きこもりの父親から解放されるため、あかずめという怪異を利用して呪殺を図る(「第三章 密室のあなたへ」)。冠村の旧家・あか家の当主が急死。集まった一族の前で読み上げられた遺言状には奇妙な一文が記されていた(「第四章 赤頭家の人々」)。

 この4つのエピソードが終わると、エピローグは再び「僕」の視点に戻る。「僕」は作中作の記述から呪いを回避するための手掛かりを探すのだが、その推理は驚くほどロジカルだ。作中作の至るところにばらまかれた伏線を回収するテクニックは、完全に本格ミステリのそれである。しかし、呪いの法則が解明されたからといって、呪い自体の恐ろしさが減殺されるわけではない。それどころか、本書が「本」であることの必然性が、読者を逃さない罠と化すのだ。呪いをテーマにしたホラーの系譜に画期的な趣向を採り入れた小説である。

あかずめの匣

『あかずめの匣』
滝川さり
角川ホラー文庫

評者=千街晶之 

萩原ゆか「よう、サボロー」第106回
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