モーリー・ロバートソンが語る、「ぼくたちは何を読んできたか」③その青春の軌跡 モーリーのBOOK JOCKEY【第4回】

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“Get your shit together.”

日系人Kenjiにそう言われた。ぼくが世界を救う新しい時代の戦士になるかどうかを悩んでいる、と真剣に打ち明けた後だった。

「正気に戻れよ」

そう言われているようでもあったが、この言葉の裏に別の言霊がのぞいて、反対に、

「もっと陰謀に目を向けて、レインボー戦士となれ」

という暗号であったのかもしれなかった。

1985年の春。Kenjiが運転する車の助手席に座って視界に広がる平野を見ている。コネチカット州からマサチューセッツ州への8時間にも及ぶロード・トリップの最中だった。Kenjiの車はボルボで、コカインのトラフィッキングから得た収入で買ったものだった。Kenjiはぼくのバンド「TRASHART=トラッシュアート」のメンバーで、ギターを担当していた。コカインは主に寮の近くにある法学部「ハーバード・ロー・スクール」の大学院生に売っていた。あるサモア諸島出身の富豪の息子はKenjiがアルミホイルに包んで密売するグッズの虜となってしまい、夜遅くに突然訪れて鍵の掛かった寮の玄関口から大声で

「おーいKenji! Kenjiはいるか!」

などと声を上げるので、そろそろやばくなっていた。コカインにフックされてしまった法学部生はコカインが足りていれば冷静だが、なくなると人目をはばからず入手しようとする。いずれ怪しんだ他の寮生の誰かが警察にチクる日が来るに違いない。

Kenjiはそんな現実に日々向き合いながら、学業との両輪をこなしていた。発売されたばかりの小型パーソナル・コンピューターである「アップル・マッキントッシュ」も潤沢な資金で購入し、扁平なプラスチックに情報を蓄積したディスケットと呼ばれるものを交互にディスク・ドライブと呼ばれる横長のスリットに出し入れし、そこからコンピューターのプログラムをロードしてアプリケーションを走らせ、画面上に文章を入力したり保存したりした。アップル・マッキントッシュにケーブルでつないだプリンターに感熱紙を差し込み、画面に映るのと同じレイアウトで文字列を印刷することもできた。すごかった。

その金も、ボルボを買う金もコカインの密売から得ていた。空白のディスケットは使えるようになる前にまずディスク・ドライブに差し込んでフォーマットをしなければならなかった。フォーマットをするとコンピューターとのやりとりができるようになる。画面に入力する文字の種類も変えることができた。しかしこれを実現するには「フォント/DAムーバー」というアプリケーションを別のディスケットからまずアップルのメモリーに入力し、アルファベットごと流し込んでおく必要があった。まるで印刷工場と出版社を一つにしたような夢の箱だった。

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