モーリー・ロバートソンが語る、「ぼくたちは何を読んできたか」③その青春の軌跡 モーリーのBOOK JOCKEY【第4回】

Kenjiが運転するボルボはマサチューセッツ州の州境を越えていた。山が多くなっている。夕方になり、にわか雨がフロントガラスに当たる。二人は薬物によって茫然自失となった状態と「禅」の無我の状態がどう類似しているのか、音楽を聞いて感動する体験とそれがどうつながっているのかを真剣に議論した。肉体と精神がそもそも一つなのか、それとも精神が肉体を仮の宿にして死後も存続し続けるのか。その前提によって薬物体験が何であるのかの結論も自ずと異なる。重要な議題だった。

その後サービスエリアに寄り、中にあるファストフード店でハンバーガーとコーヒーを注文した。マクドナルドのようなチェーン店ではなく、そこに1軒しかないローカルな店だった。ハーバードで食べたどの食べ物よりも、くそまずかった。しかしそのまずさの中に清貧な「禅」がみなぎっていることを、ぼくとKenjiは確認し合った。フリー・ジャズとロックを掛けあわせたようなジャム・セッションをこのままやり続ければ、向こう側へと突き抜けられそうだ。その時はきっと、ぼくのシットがゲット・トゥゲザーする。

 

モーリー・ロバートソン

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日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。国際ジャーナリストからミュージシャンまで幅広く活躍中。現在は「Newsザップ!」(スカパー!)、「所さん!大変ですよ」(NHK総合)にレギュラー出演のほか、各誌にてコラム連載中。

 

初出:P+D MAGAZINE(2016/03/16)

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