モーリー・ロバートソンが語る、「ぼくたちは何を読んできたか」③その青春の軌跡 モーリーのBOOK JOCKEY【第4回】
ぼくがいたスイートとシャワー室でつながれた反対側のスイートには、後に全米で最も有名なコメディアンになるコナン・オブライアンがいた。がり痩せで身長が異様に高い赤毛のコナンは当時とてもおとなしく、学業以外では大学の風刺新聞の本部に入り浸っていたので、ほとんど会話したことがない。コナンと同じスイートにいたメンバーの中に、マルクス経済学を専攻するケビンがいた。茶色い髪のケビンは小柄で、茶色の口ひげをぼうぼうに生やし、弁が立った。トロツキーとかクロポトキンとかポチョームキンとか、そういう名前のロシアの思想家を思わせる顔つきだった。食堂のテーブルで一緒になると決まって政府の批判を口にした。
ぼくの側のスイートには「ROTC=予備役将校訓練課程」の奨学金でハーバードに入学したロブ・ジョーンズというルームメイトがいた。貧しい母子家庭の出身だったが地元の高校成績優秀であり、早くから兵役に志願したため、空軍から手厚い経済的な保護を受けている学生だった。テコンドーの青帯を持っており、韓国語で一から十まで数えることができた。精悍な若き軍人のようなロブは、リベラルなハーバードのキャンパスでは明らかに浮いていた。そして当時勢いづいていたレーガン政権を支持する同好会「The Conservative Club=保守クラブ」の運営メンバーも務めていた。
ロブは軍や兵器やソ連の話をするのが好きで、いかにしてソ連や共産圏のしでかす悪さを戦略的に抑えこむのかという話題に熱中する傾向があった。反対にぼくは、
「戦争には絶対に反対。アメリカには日本のように憲法9条が必要だ」
との立場を取っていたため、
「何を言っているんだ。日本に展開した米軍の兵力の総和がどれぐらいかわかっているのか? 日本は前線基地と同じだろ」
などと反論されては、あまりに腹が立って目も合わせられなくなる、ということの繰り返しだった。ロブに対して一番激しく悪態をついた時に、
「軍人なんてどうせ戦争が起きなければ仕事にならない。だから戦争を待ち望んでいる。でも戦争をやったら核兵器が使われて、みんな死ぬ。だから戦争はやることに意味がない。そのうち人類がみんなこのことに目覚めて戦争を放棄する。そうしたら、お前ら兵隊なんてみんな社会から軽蔑されるんだ。ざまみろ」
と言ってやった。ロブはぐっと怒りをこらえて立ち去った。後でさすがに言い過ぎだと思い、何となく謝った。