文学的「今日は何の日?」【7/6~7/12】

あの名作が世に出た日。
憧れのヒロインの誕生日。
かの大作家の失恋記念日。
……そう、毎日が何かの記念日です。さて、今日は何の日でしょうか。
7月6日から始まる1週間を見てみましょう。

7月6日

「この味がいいね」と君が言ったから――俵万智『サラダ記念日』

1987年に発売されるや、歌集としては前代未聞の280万部を売り上げ、年間ベストセラーランキング第1位となった俵万智のデビュー作『サラダ記念日』。その表題作「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」から溢れ出るみずみずしい感性は、それまで短歌に縁のなかった人々をも魅了しました。このような日常のひとコマが短歌になるということに、新鮮な驚きを感じた人が多かったのです。のちにテレビ出演した際、「7月7日の七夕だと、恋人のイベントになってしまう。そうじゃなくて何でもない日が記念日になることに意味がある」と語った著者。男女を問わず、恋する人なら思わず納得してしまう一言ですね。


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7月7日

藤岡陽子『満天のゴール』で、主人公に夫の不倫疑惑を知らせる電話が――

現役の看護師でもある藤岡陽子が、限界集落と僻地医療を取り上げた小説『満天のゴール』。ホテルマンの夫・寛之、小学4年生の息子・涼介と東京で暮らす専業主婦の内山奈緒は、7月7日、友人からの電話で寛之の不倫を知ってしまいます。やり直したい奈緒と、離婚して不倫相手と再婚する気の寛之。涼介を連れ、家出同然に故郷の過疎の町に帰った奈緒は、父の入院を機に、取得したきり使っていなかった看護師資格を生かし、働き始めます。僻地医療に尽くす青年医師・三上と出会い、ペーパーナースから一人前の看護師へと成長していく奈緒は、「満天のゴール」を迎えることができるのでしょうか?


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7月8日

主人公の親友が身重の妻を残して飛び降り自殺――重松清『卒業』

現代社会における家族の物語など、身近なテーマを鋭い視点で描き、幅広い世代から支持される重松清。短編集『卒業』の表題作は、14年前の1989年7月8日に、身重の妻を残して飛び降り自殺した男の家族の「その後」の物語です。男の死後に生まれた娘・亜弥は中学生になり、父親がどんな人だったのか知りたいと、父の親友・渡辺を訪ねます。亜弥の突然の出現に戸惑いながらも、求められるままに親友との思い出を振り返る渡辺。自殺の理由は何だったのか、誰も知らない答えを求める亜弥は、学校でのいじめから自傷行為に走ってしまい……。父の自死という枷から亜弥を「卒業」させるために、渡辺はある大胆な行動に出るのでした。


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7月9日

幸田露伴が日光・華厳の滝へ3泊4日の旅に出かける

昭和2年のこの日、明治の文豪・幸田露伴は自動車で上野駅に向かいました。2時5分に上野を発つ汽車に乗り、「日本八景の一」といわれる華厳の滝とその周辺の景勝地を回るためです。日光駅からは自動車に乗り、一路、華厳の滝を目指します。霧が出て、日も暮れかかった頃になって滝見台に到着。滝の眺めを堪能した露伴は、上野駅からわずか5時間でこの絶景の地に来られたことに感激し、「昭和の御世がもたらしてゐる文明が今のわれ等を祝福してゐてくれると誰も感ぜずには居られまい」と、興奮ぎみに紀行文「華厳滝」に書き残しました。その後、戦場ヶ原など周辺の景勝地を回り、3泊4日の旅を満喫しています。


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7月10日

酒に酔ったヴェルレーヌがランボーを撃つ――ブリュッセル事件

1871年、当時17歳だった若き天才アルチュール・ランボー「酔いどれ船」を読んだ詩人ポール・ヴェルレーヌは、その才能に惚れ込み、妻子を捨ててランボーとの同棲生活を始めます。2人は何度も喧嘩別れと仲直りを繰り返しつつ、イギリスやベルギー、フランスを転々としました。1873年、ヴェルレーヌはブリュッセルにランボーを呼び寄せます。そこからパリに行きたいランボーと、ロンドンに行きたいヴェルレーヌは口論になり、7月10日、酒に酔ったヴェルレーヌがランボーに向けて銃を発射。弾はランボーの左手首に当たります。これによりヴェルレーヌは逮捕され、2年の禁固刑を受けました。ランボーはこの後、母の故郷ロッシュに行き、詩集『地獄での一季節』を完成させています。


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7月11日

人種差別問題に切り込んだハーパー・リーの『アラバマ物語』が刊行される

「20世紀のもっとも影響力のある小説」のひとつに数えられる、ハーパー・リー『アラバマ物語』は、全米で公民権運動が活発化していた1960年7月11日に刊行されました。白人女性を強姦した容疑で逮捕された黒人男性トム・ロビンスンと、彼の無罪を信じる弁護士アティカス・フィンチ。トムの無罪を証明する証拠がいくつもあるにも関わらず、白人の陪審員たちによって有罪の判決が下されてしまいます。絶望のあまり逃走をはかったトムは射殺され、白人でありながら黒人の弁護に立ったアティカスは子どもたちの命を狙われ……。1961年のピュリッツァー賞小説部門を受賞した同作は、21世紀のアメリカで広がる「Black Lives Matter」運動のひとつの原点ともいえる作品です。


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7月12日

上根岸の家で療養中の正岡子規、聞こえてくる物音を文章に綴る

若くして結核を病み、喀血を経験したことから、「血を吐くまで鳴く」といわれるホトトギスの異称を号とした正岡子規。30歳になる前に脊椎カリエスと診断され、床に伏せることが多くなりました。そしてわずか数年のうちに寝返りを打つこともできないほど悪化し、ほぼ寝たきりの状態となってしまいます。そんな子規が、明治32年7月12日の夜に上根岸の住まいに床を延べ、横になったまま周囲の物音に耳を澄ませて綴った文章が「夏の夜の音」。台所で食器を洗う音、井戸の釣瓶を打つ音、花火の音、フクロウの鳴き声、人の話し声、汽車の音など、刻々と移り変わる物音を並べただけのようですが、見事なまでに下町の風情を描き出しています。俳人らしいリズミカルな文章が味わい深い一篇です。


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初出:P+D MAGAZINE(2020/07/06)

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