読みもの

ハクマン57回
今年になってから、毎月本を出しているような気がするが、本当に毎月出ており、なんだったらひと月に2冊出てるし、さらに今月も出る。おそらく買う方も疲れていると思うが、俺が一番疲れているのだから、我慢して最後まで買って欲しい。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第134回
「漂白」目次  公判前整理手続はたんに公判の期日等を決めたり調整したりするだけの場ではない。刑事裁判において最も重要な証拠の採用を巡り検察側と弁護側との攻防は始まっている。能城のようにこれ
辻堂ホームズ子育て事件簿
2021年3月×日 「子育てエッセイの依頼とか、来ないんですか?」2020年2月。産後2週間健診で、助産師さんから突如、そんなことを言われた。私が出産したのは規模がそこそこ大きい病院で…
武田綾乃「おはようおかえり 京は猫日和」 第4回「思い出の京の味」
昔からジェットコースターが苦手だった。高いところから急降下する時の、あのふわっとする感じが好きじゃない。でも、屋内のジェットコースターは好きだ。「武田の乗れるやつと乗れないやつの基準ってなんなん?」と友人に聞かれた時には、「落ちた時に死にそうなやつは乗れない」と答えた。
東川篤哉『新 謎解きはディナーのあとで』
コロナ禍はミステリではありません このたび『新 謎解きはディナーのあとで』が刊行の運びとなりました。執筆期間は一昨年の終盤から今年の正月まで。したがって五本収録された短編のうち四本までが、昨年春以降のコロナ禍において執筆されたものとなります...
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第133回
「漂白」目次  都築は書記官に目を向けた。「記録してるか?」 「え……」いきなり水を向けられた男性書記官は動揺した。 「これまでのやり取り、すべてちゃんと記録してるか訊いている
関口英子『戻ってきた娘』
岩に咲く一輪の花 「13歳のとき、もう一人の母親のことはわたしの記憶になかった。」という一文から始まるこの小説、10行にも満たない第1章で、早くも読者を物語の世界に引きずり込む魔力を持っている。いったいこの少女になにが起こっているのか。なぜ会った記憶もない実の母親の許に戻されることになったのか。
ハクマン56回
「月初の呼札を紙屑に変えた奴だけが集うサロンへようこそ」これは一時期、私が月初めに必ずツイッターでつぶやいていた言葉である。ソシャゲの「FGO」で…
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第132回
 八月六日。東京地裁の法廷に、裁判長を始めとする三人の裁判官と書記官、三人の公判担当検事、志鶴、都築賢造、田口司の三人の弁護団の他、被告人である増山淳彦本人も初めて出頭していた。
思い出の味 ◈ 伊岡 瞬
 大学三年生の夏休みに、学友六人(全員男)で北海道を旅行した。移動手段は、メンバーの親から借りた都合二台の車だ。うち二名は、東北の実家に帰省中だったので、東京方面から北上する途中で合流する。ついでに、そのうちの一軒にひと晩泊めてもらうことになっていた。当時もおそらく今も、学生は節約旅だ。雨風がしのげて、
辛酸なめ子『電車のおじさん』
おじさんだらけの日本で、おじさんへの応援と感謝を込めて……  日本の平均年齢は47歳、という数字を先日目にしました。日本はほぼおじさん、おばさんだらけの国。それなのに存在感が薄かったり、力を発揮できない中高年世代が多い気がします。森首相の女性蔑視発言は問題ですが、おじさんたちも虐げられているように思います。家庭では疎まれ、仕事場では時代遅れだと言われ……。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第131回
 書類を読んでいるだけで息が詰まりそうになる。起訴前、志鶴は一度岩切本人と直接対峙した。結果的には失敗したが、岩切が増山の身柄の勾留を裁判所へ請求するのを防ごうと東京地検の執務室へ乗り込んだ。岩切はその場で、むごたらしく命と尊厳を踏みにじられた綿貫絵里香の理不尽な死を悼み、犯人への激しい憤りを志鶴にぶつけてきた。
一木けい『9月9日9時9分』
いつも言葉を探している 「嫉妬」と「埃」の区別がつかない。どちらのタイ語も無理やりカタカナにすれば「フン」だ。ネイティブの発音を聴くと違うのはわかる。でもその通りの音を正確に出すことができない。舌や歯などついているものは同じなのにどうして、といつも思う。
ハクマン55回
「月初の呼札を紙屑に変えた奴だけが集うサロンへようこそ」これは一時期、私が月初めに必ずツイッターでつぶやいていた言葉である。ソシャゲの「FGO」で…
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第130回
「漂白」目次  類型証拠として検察官に開示請求した証拠のリストと開示された証拠とを突き合わせて漏れがないかを確認し、実際に開示された証拠、該当する証拠なしと回答されたものについてはそれに合
『コロナ』第1話読み切り
一、 青空 まっすぐな農道を疾走していた救急車が、ふいに速度を落とし始めた。 後部座席に座っていた敷島寛治は、わずかに前のめりになりかけて、慌てて壁の手すりに手を伸ばした。ほとんど同時に、運転席から、歯切れの良い声が飛び込んでくる。
◇長編小説◇藤谷 治「ニコデモ 風は思いのままに吹く」連載第13回
 椰子(やし)の葉ずれ、鳥の羽ばたき、猿の咆哮(ほうこう)といった遠い音は、もう耳慣れてしまって、聞こえていても無音と同じだった。聞くべき音、聞こえてこなければならない音、聞こえてくるのを待っている音は、どこからもしてこなかった。三月とは思えない湿気の中で、誰もが弛緩(しかん)していた。
◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第129回
 証拠資料が入った段ボールを会議室へ運び込むと、三浦俊也はまず検察官の証明予定事実記載書に目を通した。