古内一絵『風の向こうへ駆け抜けろ3 灼熱のメイダン』

「風駆け」シリーズ完結
「灼熱のメイダン」は、地方競馬の零細厩舎に所属する女性ジョッキー芦原瑞穂が魚目の馬フィッシュアイズと共に勝利を目指す「風の向こうへ駆け抜けろ」シリーズの最終章に当たる物語だ。
最後の勝負の場は、華麗なる国際競馬ドバイワールドカップ。
後に「風駆け」という愛称で親しんで頂くことになったシリーズだが、第1作目を書いたときは私も瑞穂もこんな日が本当にやってくるとは思っていなかった。
なぜなら、シリーズというのは、著者や登場人物の思いだけで実現できるものではないからだ。だが、2作目の「蒼のファンファーレ」を競馬専門誌「優駿」で連載することが決まったとき、私にも瑞穂にも「ドバイを目指したい」という明確な思いが湧いた。心の奥底で抱いていた「3部作」が、ついに動き出した。
ところが、最終章への執筆は一筋縄ではいかなかった。
ドバイワールドカップを決戦の舞台にする以上、国際競馬の裏側を徹底的に取材したいとかねてから考えていたが、予期せぬパンデミックが発生。ワールドカップ自体が取りやめになってしまったのだ。
しかし、その間、物語は意外な形で広がっていくことになる。まずはNHKでラジオドラマ化が決まり、その後、同じくNHKの土曜ドラマ枠でテレビドラマ化が決定した。瑞穂を演じた平手友梨奈さんは、スタントなしで見事なモンキー乗りを披露してくれた。
そして、中止から2年後の2022年、「今年はドバイワールドカップが各国のプレスを通常通り受け入れる」という情報が入った。まだコロナ禍の最中で、全ての店が閉まり廃墟のような成田空港から出国したのも、物書きとしては貴重な体験だった。
かくして10年越しで、「風駆け」シリーズはようやく最終章にたどり着いた。
勝てなくて、勝てなくて──。馬上で悔し泣きしていた瑞穂が、ついに国際競馬の大舞台に立ったのだ。ぜひ、その結末を最後まで見届けて頂ければ幸いだ。
また、最終章の帯には、北上次郎さんのコメントを使用させて頂いた。
北上さんの書評で、どれだけ多くの読者が読書の幅を広げたか、どれだけ多くの作家が励まされたかは計り知れない。私はその両方だった。
北上さん、「風駆け」シリーズが完結しました。「風駆け」を「発見」して頂き、ありがとうございました。
多くの読者に届くよう、どうか見守っていてください。
古内一絵(ふるうち・かずえ)
東京都生まれ。『銀色のマーメイド』で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し2011年デビュー。17年『フラダン』が第63回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出、第6回JBBY賞受賞。他の著書に『鐘を鳴らす子供たち』『星影さやかに』『東京ハイダウェイ』「マカン・マラン」シリーズ、「キネマトグラフィカ」シリーズ等多数。『風の向こうへ駆け抜けろ3 灼熱のメイダン』はNHKでテレビドラマ化された「風の向こうへ駆け抜けろ」シリーズの最終章となる。