D・スティールのロマンス小説がヒット・今アメリカで一番売れている本は?|ブックレビューfromNY【第15回】

前回の本コラム以降に新しく登場した小説は3作品、“Never Never”, “The Mistress”, “Feversong”だ。10位の”Chemist”はこのコラムで10位以内のベストセラーとして紹介するのは初めてだが、すでにベストセラー11週目に入っている。

黒人の人種問題がテーマの2作品、“The Underground Railroad”と”Small Great Things”は相変わらずよく売れている。トランプ政権が誕生して以来、人種間の確執が取り沙汰されている今日この頃、このテーマがアメリカにとって永遠の課題であるとともに、現在一番深刻な問題の一つでもあることを国民が強く感じているのだろう。

ダニエル・スティール

今回のコラムではダニエル・スティールの“The Mistress”を紹介する。ベストセラー3週目で5位になったが、最初の2週は1位だった作品だ。

ダニエル・スティールは主にロマンス小説を執筆し、彼女の小説は28か国語に翻訳されている。ウィキペディアによれば、推定総売上は8億冊で、存命の作家としてはナンバーワンだという。また、この記録は歴史的に見ても第4位で、歴代1位がアガサ・クリスティー、2位がシェークスピア、3位がバーバラ・カートランド[2]ということだ 。[3]

ダニエル・スティールはドイツからの移民だったユダヤ人の父親(レーベンブロイ・ビールのオーナーの末裔)と外交官の娘の母親との間に1947年に生まれた。幼い頃はフランスで過ごす期間が長かった。8歳の時に両親が離婚、主に父親にニューヨークで育てられた。1965年、ニューヨーク大学在学中に銀行員と結婚、卒業後は広告代理店で働いた。1973年に処女作“Going Home”を出版し、1980年代になるとスティールの小説は、ニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストの常連となっていた。

スティールの最新作“The Mistress”(愛人)は、政府に太いパイプを持つロシア人富豪の、若く美しい愛人が主人公だ。

愛人

地中海、アンティーブ[4] の沖合に500フィートの超豪華大型ヨット「プリンセス・マリーナ」が停泊している。所有者であるブラディミール・スタニスラスは、他に3つの同じサイズのヨットを所有しているが、そのなかでも特にこのヨットを気に入っており、世界中にあるいくつかの家よりもこのヨットで過ごすことが多かった。マリーナは、ブラディミールが14歳の時、結核と栄養失調で死んだ母親の名前だ。49歳になるブラディミールはロシアの鉄鋼業を独占していて、大統領や政府の高官たちとも親密な関係にある。背が高くいかつい外見で、服装は地味であまり目立たないが、美しいきらびやかなものを見せびらかすのが好きだった。そのため常にきらめくような美女を愛人としてきた。結婚しないこと、子供を持たないことを信条としていたので、関係が親密化して愛人が子供を欲しがったり、結婚をほのめかしたりすると、とたんに手切れとなった。

現在のブラディミールの愛人はナターシャ・レオノバ。8年前、ブラディミールが凍りつくモスクワの街角で彼女を見かけたのが最初の出会いだった。娼婦の娘だったナターシャは、2歳の時に孤児院に捨てられた。母親はその後、アルコール依存症で死んだ。成長したナターシャは、孤児院を出て劣悪な労働条件の工場で働いていた。その美貌に目をつけて金銭的な援助を申し出る男もいたが、母親のようにはなりたくないというナターシャの堅い意志は変わらなかった。ブラディミールの援助の申し出も断ったナターシャだったが、1年後、2人はまた冬のモスクワの街角で出会うことになった。寒さのためにひどい肺炎になっていたナターシャをブラディミールは看病し、命を助けられたことを感謝して、ナターシャはブラディミールの愛人となった。そして以後7年、お互いに必要とする関係が続いた。

[2]20世紀のイギリス人のロマンス小説作家
[3] https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_best-selling_fiction_authors
[4] フランス南部の地中海・コートダジュールに面した都市。

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