【先取りベストセラーランキング】電力供給網の崩壊で浮き彫りになる、人間の恐ろしさと社会の正体 ブックレビューfromNY<第59回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの59回目。アメリカ全土の電力供給網を破壊し、大規模停電を引き起こすサイバーテロの恐怖を描いた小説を紹介します。

<第59回>アメリカの電力供給網を崩壊させたサイバーテロの恐怖


Vince Flynn: Total Power/ by Kyle Mills
Emily Bestler/Atria, 2020.384ページ. US$28.99.

今月のベストセラー事情

今月の「ニューヨーク・タイムズ ベストセラー事情」は、ハードカバー・フィクション部門のトップ10 (2020 年10月4日の週)[1]を紹介する。

1.The Evening and the Morning

By Ken Follett
Viking

西暦997年、イングランドは西からはウェールズ、東からはバイキングの攻撃を受けて混乱状態だった。そんななか、若い船大工、恋愛結婚をした若い貴族の女性、そしてみすぼらしい修道院を学問の中心施設にしたいと夢見る修道士の3人の運命が複雑に絡み合う……。この最新作は1989年に出版された小説The Pillars of the Earthの前編となる。
(ベストセラー初登場)


2.Troubled Blood

By Robert Galbraith
Mulholland

私立探偵コーモラン・ストライクは、ある女性から1974年に失踪した母親を探す手助けをしてほしいと頼まれた……。コーモラン・ストライク・シリーズ5作目。J.K. ローリング(ハリー・ポッター・シリーズの著者)がロバート・ガルブレイスのペンネームで書いている。
(ベストセラー初登場)


3.Vince Flynn: Total Power

By Kyle Mills
Emily Bestler/Atria

ミッチ・ラップはIS(イスラム国)のIT専門家を捕らえ、アメリカ全土の電力供給網を崩壊させようとするサイバーテロ計画があることを知った。ラップはこの計画の中心人物を捕らえようとしたが、まんまと逃げられた。……そしてアメリカ全土で大規模な停電が始まった。2013年ヴィンス・フリンの死後、カイル・ミルズによってミッチ・ラップ・シリーズは継続し、本作品でシリーズ19作目となる。
(ベストセラー初登場)


4.To Sleep in a Sea of Stars

By Christopher Paolini
Tor

キラは通常の探索ミッション中、植民地化されていない惑星でエイリアンの遺跡を見つけた。そして地球が、絶滅の危機にあることを知った。
(ベストセラー初登場)


5.The Vanishing Half

By Brit Bennett
Riverhead

南部の小さな黒人コミュニティで生まれ育った双子の姉妹は16歳の時、家出をした。そして14年後、姉は故郷の黒人の町に戻って黒人の娘と暮らし、妹は白人に成りすまして白人と結婚していた。しかし、離れ離れになり全く異なった暮らしをしていた2人の運命は複雑に絡み合っていく。
(ベストセラー16週目)


6.Where the Crawdads Sing

By Delia Owens
Putnam

1969年、ノースカロライナ州の静かな町でチェース・アンドリュースの死体が発見された時、地元の人たちは、湿地帯で一人暮らしをし、《湿地帯の娘》と呼ばれていた若い女性を犯人だと思った。
(ベストセラー107週目)


7.The Harbinger II

By Jonathan Cahn
FrontLine

2012年、ベストセラー小説The Harbingerが出版され、古代のミステリーがアメリカの未来を決定づけるのか? という疑問を投げかけた。そして続編である本作品で、答えは得られるのだろうか?
(ベストセラー3週目)


8.Shadows in Death

By J.D. Robb
St. Martin’s

刑事イブ・ダラスは若い裕福な女性の殺人事件を捜査するうちに、夫ロアークの生まれ故郷のアイルランドの町に行きついた……。In Deathシリーズ51作目。ノラ・ロバーツがJ.D. ロブのペンネームで執筆している。
(ベストセラー2週目)


9.Piranesi

By Susanna Clarke
Bloomsbury

ピラネージの住んでいる家は、無数の部屋、終わりのない廊下、そして壁際には何千もの法律書が並べられていた。この迷宮の中に海が閉じ込められていて、波が階段に打ち寄せ、部屋は水浸しになった。ピラネージはこの迷宮のことは何でもわかっていた。この家のもう一人の住民がピラネージに「偉大な秘密の知識」を探索するための手助けを求めた。 ……そして恐ろしい真実が明らかになっていく。
(ベストセラー初登場)


10.One by One

By Ruth Ware
Gallery/Scout

アルプスの山荘で、社員研修が行われていた時、雪崩が起こった。閉じ込められた8人の社員たちは、生き残りをかけて、しのぎを削った……。
(ベストセラー2週目)


107週目のWhere the Crawdads Singと16週目のThe Vanishing Halfが先月のリストから残っている。それ以外の8作品のうち上位4作品を含め5作品が今週初登場だ。読書の秋、新作が続々出版され、売り上げを競い合っている。

今月はCIA対テロ諜報員ミッチ・ラップを主人公とするシリーズの最新作Total Powerを紹介したい。

[1]“A version of this list appears in the October 4, 2020 issue of The New York Times Book Review. Rankings reflect sales for the week ending September 19, 2020.” (このベストセラー・リストは2020年10月4日のニューヨーク・タイムズ紙ブックレビュー欄に掲載。リストは2020年9月19日で終わる週の売り上げをもとに作成されている。)

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