【NYのベストセラーランキングを先取り!】麻薬組織の謎を追う! ピューリッツァー賞を受賞した元ジャーナリストによる大人気シリーズ新作 ブックレビューfromNY<第66回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの66回目。今回は、新作が出れば必ずベストセラー1位か2位にランクされるという、連邦保安官ルーカス・ダベンポートが主人公の「獲物」シリーズ31作目を紹介します。

<第66回>人気ピューリッツァー賞作家が贈る謎の麻薬・殺人事件


Ocean Prey/ by John Sandford
Putnam, 2021.431ページ. US$29.00.

今月のベストセラー事情

今月の「ニューヨーク・タイムズ ベストセラー事情」は、ハードカバー・フィクション部門のトップ10 (2021 年5月2日の週)[1]を紹介する。

1.Ocean Prey

By John Sandford
Putnam

フロリダ沖で沿岸警備隊員3人が不審な船に接近し、事情を聞こうとして射殺された。FBIによる捜査は難航した。連邦保安官ルーカス・ダベンポートは、ミネソタ州犯罪逮捕局のバージル・フラワーズと共に捜査に協力する羽目になった。ルーカス・ダベンポートを主人公とする「獲物」シリーズ31作目。
(ベストセラー初登場)


2.The Hill We Climb

By Amanda Gorman
Viking

バイデン大統領就任式で、22歳の女性詩人アマンダ・ゴーマンによって詠まれた詩。
(ベストセラー3週目)


3.The Devil’s Hand

By Jack Carr
Emily Bestler/Atria

9・11事件から20年が経過、敵はその間、辛抱強く機会を狙っていた。そして再びアメリカ合衆国を攻撃する準備が整った……。Terminal Listシリーズ4作目。
(ベストセラー初登場)


4.The Four Winds

By Kristin Hannah
St. Martin’s

テキサスの豊かな小麦農業は、大恐慌を経て1930年代に入り、干ばつと砂嵐のため壊滅的な打撃を受けた。農場主たちは、テキサスにとどまるか、新天地を求めて西海岸を目指すかの究極の選択を迫られた。そしてエルサ・マーティネリの下した結論は?
(ベストセラー11週目)


5.The Midnight Library

By Matt Haig
Viking

生と死の境目に存在する《図書館》がある。人生に失望したノラ・シードは自殺を図り、気付いた時、その《図書館》にいた。時は真夜中0時……。
(ベストセラー20週目)


6.The Red Book

By James Patterson and David Ellis
Little, Brown

シカゴ市警で新任のエリート警察官が射殺された事件をきっかけに、警察官ビリー・ハーニーは自分の過去を探る羽目になった。The Black Bookシリーズ2作目。
(ベストセラー3週目)


7.The Good Sister

By Sally Hepworth
St. Martin’s

ファーンとローズは周囲からは普通の仲の良い双子に見えた。実はローズは小さい時から、ファーンの保護者の役割をしていた。ファーンはローズにずっと守られてきたことの恩返しに、子供が欲しいローズの望みをかなえようとした。すると過去の秘密が明るみに……。
(ベストセラー初登場)


8.The Invisible Life of Addie Larue

By V.E. Schwab
Tor/Forge

1714年のフランス、アディ・ラルーは永久に生きることと引き換えに、自分が会ったことのある誰からも忘れ去られてしまうという呪いをかけられた。そして世紀、大陸、歴史にまたがる彼女の冒険が始まったが……。
(ベストセラー25週目)


9.Win

By Harlan Coben
Grand Central

20年前、ロックウッド家の屋敷に強盗が入り、跡取り娘のパトリシアが誘拐された。数か月後、彼女は監禁場所から逃げ出したが、強盗団も姿を消し、盗まれた品は戻ってこなかった。そして今、男が殺され、死体の横には、20年前ロックウッド家から盗まれたフェルメールの絵とWHL3のイニシャルの入った革のスーツケースが置かれていた。ウィンザー・ホーン・ロックウッド3世(ウィン)は、なぜ自分のスーツケースと盗まれた絵が死んだ男のもとにあったのか見当もつかなかった……。「ウィンザー・ホーン・ロックウッド3世」シリーズの1作目。
(ベストセラー5週目)


10.Stargazer

By Anne Hillerman
Harper

ナバホ族の警察官バーナデット(バーニィ)・マニュエリトは旧友のマヤが夫の殺人を自供したことを知った。しかし、捜査が進むうちに別の殺人犯が浮かび上がってきた。はたしてバーニィと彼女のボスのジム・チーのメンターであるジョー・リープホーンは2人の後輩警察官に正しいガイダンスを与えることができるだろうか……。ナバホ族警察官の活躍を描くLeaphorn, Chee & Manuelitoシリーズ6作目。
(ベストセラー初登場)


The Four Winds、The Midnight Library、The invisible Life of Addie Larue、そして先月1位で初登場だったWinが今月も10位以内にとどまっている。先月このコラムで取り上げたKlara and the Sunは11位、46週目のThe Banishing Halfは14位にランクされている。

2位のThe Hill We Climbは、大統領就任式で詩を詠んだ詩人としては最年少の22歳の女性詩人アマンダ・ゴーマンによって、今年1月のバイデン大統領就任式で詠まれた詩である。アメリカを分断したと言われているトランプ政権後の大統領就任式で、ゴードンは国民の団結と協調を訴え、彼女の詩は多くの人びとに感動を与えて共感をもたらした。

ところで、村上春樹の『一人称単数』の英語版First Person Singularが前の週(4月25日の週)のリストでは初登場で6位にランクされていたが、残念ながら今週のリストからは落ちてしまった。

今月は、1位で初登場したジョン・サンドフォードの「獲物(Prey)」シリーズ31作目Ocean Preyを取り上げたいと思う。著者は元ジャーナリストで、1986年にピューリッツァー賞を受賞している。

[1]“A version of this list appears in the May 2, 2021 issue of The New York Times Book Review. Rankings reflect sales for the week ending April 17, 2021.” (このベストセラー・リストは2021年5月2日のニューヨーク・タイムズ紙ブックレビュー欄に掲載。リストは2021年4月17日で終わる週の売り上げをもとに作成されている。)

◎編集者コラム◎ 『鍬ヶ崎心中 幕末宮古湾海戦異聞』平谷美樹
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