【NYのベストセラーランキングを先取り!】『モスクワの伯爵』のエイモア・トウルズが描く、若者たちの10日間の物語 ブックレビューfromNY<第75回>

NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの75回目。過失により人を殺した過去を持つ18歳が、更生施設での生活を終えて自宅に戻ると……。さまざまな人物からの視点で書かれた、読後も後を引く小説を紹介します。

<第75回>大陸横断ハイウェイでサンフランシスコを目指した若者の10日間のカウントダウン


The Lincoln Highway/ by Amor Towles
Viking, 2021.592ページ. US$30.00.

今月のベストセラー事情

今月の「ニューヨーク・タイムズ ベストセラー事情」は、ハードカバー・フィクション部門のトップ10 (2022 年2月6日の週)[1]を紹介する。

1.The Midnight Library

By Matt Haig
Viking

生と死の境目に存在する《図書館》がある。人生に失望したノラ・シードは自殺を図り、気付いた時、その《図書館》にいた。時は真夜中0時……。
(ベストセラー59週目)


2.The Maid

By Nita Prose
Ballantine

モーリー・グレイは社会生活が苦手だった。祖母がいつもモーリーと社会との橋渡し役をしていた。しかし数か月前、祖母が亡くなってからは、25歳のモーリーは自力で複雑な社会を渡り歩いていかなくてはならなかった。礼儀正しく、きれい好きで潔癖症のモーリーにとって、ホテルのメイドの仕事は天職だった。しかしある日、ホテルの特別室で悪名高い富豪ブラック氏の死体が発見されると、モーリーは殺人容疑者になってしまった……。
(ベストセラー3週目)


3.The Lincoln Highway

By Amor Towles
Viking

過失で人を殺してしまい、未成年更生施設で1年間働いた後、故郷のネブラスカ州に戻った18歳のエメット・ワトソンは、弟と共にサンフランシスコに行く計画を立てたが、乗ってきた施設の車のトランクに隠れて逃亡してきた2人の友人を追って、NYへ行く羽目に陥った。
(ベストセラー16週目)


4.The Horsewoman

By James Patterson and Mike Lupica
Little, Brown

マギー・アトウッドとベッキー・マッケイブ母娘は乗馬ではチャンピオン級だった。2人ともパリ・オリンピックで世界一の女性騎手になることが夢だった。
(ベストセラー2週目)


5.One Step Too Far

By Lisa Gardner
Dutton

フランキー・エルキンは、失踪した若い男の捜索で森の中に入った。そして、なぜこの男が行方不明になったかの衝撃的な真実を知った。「フランキー・エルキン」シリーズ2作目。
(ベストセラー初登場)


6.The Last Thing He Told Me

By Laura Dave
Simon & Schuster

オーウェン・マイケルズは失踪する前、結婚14か月目の妻ハナ・ホールに、「彼女を守ってくれ」と書いたメモを残した。《彼女》とは、オーウェンと前妻との間の16歳の娘ベイリーであるとハナにはすぐわかった。オーウェンと連絡が取れないまま、ハナは連邦保安官やFBI捜査官の訪問を受けた。夫の過去に対する謎が深まり、ハナとベイリーは、オーウェンの過去を探り始めた。
(ベストセラー36週目)


7.The Judge’s List

By John Grisham
Doubleday

レーシー・ストルツは犯罪組織から膨大な賄賂を受け取っている判事を捜査しているさなかに襲われて殺されそうになった。3年後、20年前の未解決殺人事件で父を殺され、犯人を追い続けている女性ジュリー・クロスビーと知り合った。Whistler(警鐘者)シリーズ2作目。
(ベストセラー14週目)


8.The Stranger in the Lifeboat

By Mitch Albom
Harper

船の爆破事故の後、救命ボートに乗って海を漂っていた10人は、海中から1人の男を助け上げた。その男は「私は神である」と言った。
(ベストセラー12週目)


9.Wish You Were Here

By Jodi Picoult
Ballantine

ダイアナ・オトゥールは着々と計画通りの人生を歩んでいた。ガラパゴス島でのロマンティックなバケーションで、ボーイフレンドの外科医フィンからプロポーズを受けるだろうと彼女は期待していた。しかしパンデミックが起こり、病院勤務のフィンは休暇が取れなくなった。払い戻しができない旅行だったので、フィンは、ダイアナに一人でバケーションを楽しんできてほしいと言い、彼女は不承不承旅立った。しかし、ガラパゴス島に着くやいなや島全体が検疫で隔離され、いつ出国できるかわからなくなった。そんななかで、彼女は今までの人生を考え直し始めた。
(ベストセラー8週目)


10.To Paradise

By Hanya Yanagihara
Doubleday

自由を謳歌し爛熟した1893年のニューヨーク、AIDSが蔓延する1993年のマンハッタン、そして、疫病に苦しみ全体主義によって支配されている2093年のアメリカを舞台に、愛、家族、喪失、そして、決して到達できない楽園(Paradisef)を語る小説。
(ベストセラー2週目)


ベストセラー59週目のThe Midnight Libraryが1位に返り咲いた。6位のThe Last Thing He Told Meは36週目と、堅調にロングセラーへの道を歩んでいる。先月のリストから6作品が10位以内に残っている。

今月は、3位のThe Lincoln Highwayを取り上げたい。

[1]“A version of this list appears in the February 6, 2022 issue of The New York Times Book Review. Rankings on weekly lists reflect sales for the week ending January 22, 2022.” (このベストセラー・リストは2022年2 月6日のニューヨーク・タイムズ紙ブックレビュー欄に掲載。リストは2022年1月22日で終わる週の売り上げをもとに作成されている。)

◎編集者コラム◎ 『跳べ、栄光のクワド』碧野 圭
五木寛之『一期一会の人びと』/ぶっちぎりのパワーで対談・執筆した五木氏の金縁