採れたて本!【国内ミステリ#19】

採れたて本!【国内ミステリ#19】

「一体何が起こっているのだろう?」と冒頭で思わせたら、その小説は読者の興味を摑めるかどうかという勝負に勝ったも同然である。南海遊『永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした』もそんな小説だ。序章で描かれるのは、死んだ人間が蘇り、時が巻き戻されるという飛び切りの異常事態。果たしてこれはどういう物語なのか?

 主人公のヒースクリフ・ブラッドベリは本来ならば侯爵家の相続人だが、15歳で家出していた。そんな彼が3年ぶりに実家の「永劫館」に戻ったのは、母が危篤だという報せを受けたからだが、到着時には母は既に死んでいた。ヒースクリフと妹コーデリア、叔父とその息子、3人の使用人、牧師、母の親友、そして3年前にこの館で起きた事件の真相を探る探偵……合わせて10人が通夜祭に顔を揃えたところに、リリィジュディス・エアと名乗る少女が現れる。母と同郷だというが、誰も彼女のことを知らない。翌朝、コーデリアが施錠された自室内で死体となって見つかった。同じ日の夕刻、ヒースクリフは銃で撃たれたリリィジュディスを発見するが、その時、彼女は特殊能力を持つ魔女の正体を現す。

「道連れの魔女」の異名を持つリリィジュディスは、絶命寸前に最後に目が合った人間と一緒に死の1日前に戻ることができる「死に戻り」「道連れ」など、3つの特殊能力を持っている。彼女は永劫館を訪れてから既に6回も何者かに殺されており、7回目に絶命寸前の彼女と目が合ったのがヒースクリフだったのだ。つまり本書は、西澤保彦『七回死んだ男』やスチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』などを想起させる、タイムループ・テーマを取り入れた特殊設定ミステリなのだが、本書の特異さは、その特殊設定を共有する2人の目的が全く異なっている点。ヒースクリフは最愛の妹を死の運命から救いたいが、リリィジュディスの目的は別にある。両者の思惑が合致しているあいだは協力関係を結んでいられるが、そうでない時はたちまち敵対関係になってしまうのだ。

 互いに信用しきれない関係の2人が、知恵を絞って真相に迫るプロセスが読みどころで、謎解きのロジックも堂に入ったものだ。何より、これだけややこしく込み入った事態を、関係者の誰もが納得できる地点に着地させた手腕に感嘆させられた。

 著者は2019年、星海社FICTIONS新人賞受賞作『傭兵と小説家』でデビューし、本格ミステリに挑戦するのは本書が初となるが、今後もこのジャンルで活躍を続けられる大器と見た。

永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした

『永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした
南海 遊
星海社

評者=千街晶之 

◎編集者コラム◎ 『君が心をくれたから』宇山佳佑
週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.150 梅田 蔦屋書店 永山裕美さん