辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第45回「上の子と下の子の制度的分断」

辻堂ホームズ子育て事件簿
第3子を育てる小説家に
大問題が発生。
上の子たちが保育園を退園に!?

 2024年11月×日

 次女が保育園に入って1か月が経った。

 ……と知人に言うと、「もう保育園に通ってるの⁉」という反応が大抵返ってくる。何なら同じ保育園の親御さんたちにも、送迎時に会うとびっくりされる。「わ~っ、赤ちゃん! 何か月ですか?」「3か月です」「ええっ、お子さんもお母さんも大変!」「実は生後2か月からこちらにお世話になっていて……」という具合に。

 そりゃそうだろう。保育園にはたくさん子どもがいるけれど、こんなに小さな赤ちゃんはめったにいない。次女が通い始めた保育園は0~2歳児が通う小規模園で、0歳児クラスは現在3人。そのうち次女以外の2人は、すでに1歳になっている。0歳児クラスの対象月齢が幅広いから1つにまとめられているだけで、本来は1つ上の学年なのだ。4月になったら1歳児クラスになる「進級組」と、0歳児クラスにとどまる「残留組」。いやはや、そんな区分が存在すること自体、この月齢で次女を預けることになって初めて意識した。

 9月の頭に、生後1か月だった次女を連れて園見学に回った際にも、ご対応くださったベテランの保育士さんに言われた。「このくらいの低月齢から通い始めるお子さん、昔はけっこういましたけど、今は少ないですね」と。

 なぜか。

 自明だ。育児休業制度が充実して、子どもが1歳になるまで──近隣の園の空き状況によっては子どもが1歳に達した4月まで、また勤め先の制度によっては2歳や3歳になるまで──自宅保育をする親が増えたからである。もちろん「保活」のリスクを念頭に激戦の1歳児クラスを避け、0歳の間に入園させる親もたくさんいるけれど、せいぜい離乳食を食べるくらいの月齢になってからのケースが多いのだろう。労働基準法で産前6週間から産後8週間までと定められている「産休」が明けてすぐ、育児・介護休業法に基づく「育休」に移行せずに復職する親は、今どき少ない。

 だけどそれは、会社員の場合の話だ。

 私のような個人事業主、広く言うと自営業の母親には、産休・育休という制度の適用自体がない。出産前後は、休みたい分だけ休み、働きたくなったら働く。それだけである。休んだ分の収入保障などはもちろんなく、その分稼ぎが減る。ただ問題はそこではない。今回、第3子を授かった私の前に突きつけられたのは、「保育園を『妊娠・出産』区分で利用できる産後8週間を過ぎた段階で復職していないと、上の子たちが保育園を退園になってしまう」という事実だった。

 えっ、上の子たちが退園?

 それって今どき、けっこう厳しくない──⁉


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『二人目の私が夜歩く』。

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