相場英雄『楽園の瑕』

相場英雄『楽園の瑕』

キャラ使い回しの術


 さて、樫山順子とは何者か。

 東大を経て警察庁に入ったキャリア警官だ。初登場は『アンダークラス』(小学館文庫)。警視庁捜査一課の田川警部補とバディを組むサブキャラだった。次の『覇王の轍』(同)では主役に昇格し、今作に至る。

 では『楽園の瑕』の中身をかいつまんで。田川シリーズ同様、今作も日本社会の裏に隠された〈黒い思惑〉を暴いていく仕掛けだ。

 キモは〈地方創生〉。この国の偉い人たちが国会で演説する〈地方のために〉という創生事業は健全なのか。そんな疑問が出発点になった。

 記者出身の作者は全国各地を歩き回り、肌身で感じたことを本編に落とし込んだ。田川シリーズと同様、〈どこまでがフィクションなのか〉のスタイルになっているので、お楽しみいただけたら幸いだ。

 さて、もう一つの大事なオススメポイントを。

 本作は樫山シリーズの第二弾であると同時に、重要視点となる古賀遼というキャラクターの第三弾でもある。

 古賀が初登場したのは『不発弾』(新潮文庫)。バブルの遺産である不良債権を海外に飛ばす(粉飾)の手助けをするダークヒーローとして描いた。

 古賀はその後『イグジット』(小学館文庫)にも姿を現し、日本の金融・財政政策の綻びを世間から隠蔽するという大役を果たし、忽然と消える。

 そして『楽園の瑕』の冒頭からストーリーテラーとして現れる重みのあるキャストだ。楽園とは古賀が住む山村のことで、このエリアが地方創生の舞台となるのだ。

 もう一人、高梨理子という若い女性もキーパーソンだ。彼女は『サドンデス』(幻冬舎)の主役で、古賀の住む山村に移住した経緯がある。

 そう、私は版元を横断した形で様々なキャラクターを使い回すのが好きなのだ。

 新たなキャラを創造するのが面倒なわけではない。拙作を長く読んでくださる読者が〈あっ、このキャラクターがこんな場所で〉〈彼(彼女)は元気だった〉……と喜んでいただくためのサービスなのだから。

 未読の方は、ぜひ他の拙作を手に取っていただきたい(燃える商魂)。

 戯言はこの辺にして、『楽園の瑕』は現在進行形のネタ(社会的な問題)があちこちに埋め込まれている。お楽しみいただけたら著者冥利に尽きる。

  


相場英雄(あいば・ひでお)
1967年新潟県生まれ。89年に時事通社に入社。2005年『デフォルト 債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。主な著書に『血の轍』『ナンバー』『不発弾』『トップリーグ』『Exit イグジット』『マンモスの抜け殻』など。本作『楽園の瑕』は、『覇王の轍』に続く、〝樫山順子シリーズ〟の第二作である。

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楽園の瑕

『楽園の瑕』
著/相場英雄

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