吉野弘人『キル・フォー・ミー キル・フォー・ユー』

衝撃のゲーム・チェンジにご期待あれ!
スティーヴ・キャヴァナーという作家をご存じだろうか? 2015年に『The Defence』でデビュー。同作は『弁護士の血』という邦題で、同じ年にハヤカワ・ミステリ文庫から出版されている。法廷ものであり、アクションも満載、コンゲーム(詐欺)の要素もある超絶面白小説で、『このミステリーがすごい2016年版』海外編では堂々の8位に輝いている。
そんなキャヴァナーの作品を11年ぶりに紹介することとなった。キャヴァナーは、現時点で『弁護士の血』に続くエディ・フリン・シリーズ9作、スタンドアロン作品を2作書き、CWA賞受賞、バリー賞ノミネートなど、非情に高い評価を得ている。今回日本での刊行に至ったのは最新のスタンドアロン作品『キル・フォー・ミー キル・フォー・ユー』だ。
キャヴァナーの作風をひと言で言い表すなら、とにかく仕掛けに満ちているということだ。冒頭から意表をついた設定を掲げ、緊迫に満ちた展開とツイストを次々と繰り出すのだ。本作『キル・フォー・ミー キル・フォー・ユー』も期待どおりにやってくれる。まずタイトルに著者の仕掛けがある。タイトルから〝交換殺人〟をテーマにした作品だと宣言しているのだ。そして、物語はふたりの女性、アマンダとルースの視点を中心に語られていく。ここでまず、読者はこのふたりが殺人を交換するのだろうと思って読み始める。ところが、ふたりの接点が見えないまま、早々に交換殺人は成立しかける。だが……。話せるのはここぐらいまでだ。全体にいくつものツイストが仕掛けられている。特に帯の惹句「衝撃のゲーム・チェンジ」ということばに注目いただきたい。ツイストやどんでん返しではなく〝ゲーム・チェンジ〟である。おっと、書きすぎたかもしれない。ネタばれと怒られそうだ。とにかくわたしは原書を読んでいて「えっ」と声が出てしまう箇所がいくつかあったとだけ言っておこう。
そんな作者の神髄は、とにかく読者に対するサービス精神が旺盛なことだろう。作者は、本作の著者あとがきにこう書いている。「本を読んでいるあいだだけでも愉しんでもらえることを願っている。あなたが抱えている悩みを、少なくとも一時的にでも忘れてほしい。それが読書の本質だとわたしは思っている」
ぜひこの作品に騙されてほしい。そしてひとときでもすべてを忘れて愉しんでいただけたら、この作品を紹介した翻訳者冥利に尽きるというものだ。
吉野弘人(よしの・ひろと)
英米文学翻訳家。山形大学人文学部経済学科卒。訳書にR・ベイリー『ザ・プロフェッサー』『リッチ・ブラッド』(小学館文庫)、R・ベイリー『ゴルファーズ・キャロル』(小学館)、R・ラング『彼女は水曜日に死んだ』、J・キャラハン『瞬きすら許さない』(創元推理文庫)、C・ウォード『螺旋墜落』(文春文庫)、J・L・バーク『磔の地』(新潮文庫)他多数。






