採れたて本!【海外ミステリ#41】

採れたて本!【海外ミステリ#41】

 バリエーション豊かな短編集は、作者の力量や書き味の幅を知ることが出来る格好のテキストだし、何より読んでいて楽しい。ベルナール・ミニエ『猫、そして14の不思議で恐るべき残酷な物語』もそんな短編集である。ちなみにタイトルは、全部で十五編の短編が収められているうち、一編が「猫」という題の短編であるという意味。表紙が猫なので、猫に関するショートストーリーが十五編入っていると筆者が勘違いしていたのはナイショだ。

 ベルナール・ミニエは『氷結』に始まる〈警部セルヴァズ〉シリーズで知られ、日本でこれまで邦訳されたのも全て同シリーズの作品だった(ちなみにこの短編集と同じハーパーBOOKS から全て刊行されている)。こちらは猟奇犯罪捜査をメインとしたサスペンス/捜査小説であり、本格ミステリのセンスをも感じさせる作風が特徴だったが、この短編集ではさらに別の顔も見せてくれる。例えば先述した「猫」は手紙のみで全体が構成されたいわゆる書簡体小説で、形式の面でも新たな顔を見せてくれるし、SF短編の「オーガニックで地球規模の脅威」は(クリフォード・D・シマック、シオドア・スタージョンへのささやかなオマージュ)というカッコ書きがついていて、末尾の著者付記で自ら明かしている通りSFに思春期の一時代を捧げた著者の顔が浮かび上がる。あるいは「ネヴァーヴィルでの最後の週末」は疑似ノンフィクションとして書かれているが、同時に幻想小説的なエッセンスがふんだんに感じられる。多彩な短編によって、著者の多彩な顔を知ることが出来る。そんな贅沢な短編集になっているのだ。

 そんな中、やはりミステリとして優れた短編にも注目したい。「トークショー」は人気司会者のもとに連続殺人鬼「エキノックスの殺し屋」を名乗る何者かが接触してくるという発端の一編で、最後の瞬間まで油断のならない傑作だ。「悪才」は向かい合う二人の男の悪巧みを描いた作品で、パトリシア・ハイスミスへの言及ににやりとする。

 とりわけ筆者が感心したのが「違いはひとつだけ」だ。短編小説コンクールに送られてきた二編の小説はそっくりで、なんなら修飾語一つだけしか違いはなかった。どちらかがどちらかを盗作したとしか思えない状況だが、盗作者を見破るにどうすればいいのか? という謎で、この謎自体の魅力が満点なのだが、解決には思わず啞然とする。お国柄でミステリを語るのはなるべく避けたいところだが、やはりフランスミステリというのは不思議で、謎への関心自体がスカされたり、謎―解決の構造自体が少しずらされたりする。「違いはひとつだけ」はまさしくそんな一編で、解決には顎が外れそうになった。それでいて後味は良い。わずか十八ページの短編なのだが、やけに心に残る。不思議な作品だ。

 いずれにせよ、短編集ということもあって、ミニエ入門編としても薦めやすい一冊となっている。本書の筆致や残酷性が気に入ったなら〈警部セルヴァズ〉シリーズも順番に手に取ってほしい。筆者のオススメは第三作『魔女の組曲』と現状の最新邦訳『黒い谷』だ。

猫、そして14の不思議で恐るべき残酷な物語
『猫、そして14の不思議で恐るべき残酷な物語』

ベルナール・ミニエ 訳/青木智美
ハーパーBOOKS

評者=阿津川辰海 

ゆっきゅんの毎日今日からちゃんとしたい日記 ☆2026年3月後半★
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